第116話 世界最強の魔法使い
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美味しい紅茶をご馳走になった後、僕たちはアリッサム孤児院を出て、カーム教国首都アベリアの町郊外にある草原で野営した。
野営といっても僕が複合魔法で建てた平家に宿泊しているので快適である。
しかもリゼの結界に守られているので、アベリアの町にある宿屋に泊まるよりも安全なのだ。
一夜が明けて朝食前の時間になったけれど、僕は特殊な事情により寝室でまったりとしている。
カルラは一番早く起きたので、既に僕の右隣には寝ていない。今は朝食の準備をしてくれている頃だろう。
エルとクラウは先ほど仲良く一緒に起きたので、まだベッドで眠っているのは僕とリゼの二人だけである。
僕は少し前に目が覚めているので、熟睡しているのはリゼだけだ。
リゼが6歳の頃から一緒に寝ているが、僕の妹は相変わらず朝が弱い。
そして、とても甘えん坊なのだ。
今も僕の左腕にギュッと抱きついて離れない。
そのせいで僕も起きることができないのだが、別に困ってなどいなかったりする。
なぜなら僕の左腕には成長を続けるリゼのAカップが、ふにゅふにゅと当たっているからだ。
寝るときはブラを外しているらしく、微かではあるけれど極上の弾力が僕の左腕に伝わってくる。
「むにゃ、お兄様……」
僕の夢を見ているのかな? リゼが幸せそうに笑みを零している。
長く美しい銀髪に触れるとサラサラで、目もとには銀色の長く整ったまつ毛、肌は透き通るように白く、桜色の唇はツヤツヤと輝いていた。
可愛い妹の寝顔を見ていたらキュンとなってしまい、僕はリゼの頬に優しくキスをする。
妹のほっぺたは今日もプニプニでとても柔らかい。
僕が朝の幸せなひとときを過ごしていると、背後に人の気配を感じた。
「旦那様、そろそろ朝食が出来上がるぞ。って、リゼばかりズルイ! アタシにもキスして」
起こしに来たクラウが、僕の右隣にダイブして飛び込んできた。
「はい、旦那様……」
燃えるような赤髪をポニーテールにまとめたクラウが目を閉じて、少し開いた唇を突き出しキスを要求している。
巨大サソリのスタンピードで僕が魔力切れを起こしかけていたとき、クラウが風魔法を使ってリゼの声を届けてくれた。
あれ以来、僕の中で彼女の評価は上がり続けている。
武力98で剣術S、魔物討伐だけでなくリゼの護衛も完璧にこなしているのだ。
たまに勢い余ってやらかすこともあるけれど、苦手だった勉強に取り組みだしてからは知力もどんどん上昇しており、トラブルが発生することもなくなってきた。
僕はクラウの頬にソフトな感じでキスをした。
「むー、唇にして欲しかったのに。でも、幸せ……」
クラウが僕の右腕に抱きついて、嬉しそうに微笑んでいる。
すると今度はエルが寝室にやってきた。
「ちょっとクラウディア、これはどういうことかしら? クリスとリゼを起こしに行ったあなたが、なぜ一緒に寝ているのよ」
エルが呆れて苦笑している。
「あー、すまないエルネスタ。なんか成り行きで」
クラウが僕の右腕から離れて、エルに向け両手を合わせ謝っている。
「クリスもリゼも早く起きて。カルラが丹精込めて作った朝食が冷めてしまうのだわ」
昨日のボクっ娘事件の後から、エルが僕のことをクリス君ではなくクリスと呼ぶようになった。
弟ではなく一人の男として扱ってくれているようで凄く嬉しい。
「わかった、すぐに行くね」
僕がエルに笑顔で返事をすると、彼女も微笑み返してくれた。
エルがクラウを連行していった後、僕はリゼをお姫様抱っこして食堂へ移動する。
そしてカルラが作ってくれた朝食を皆で堪能した。
食後は僕だけが闇魔法を習うため孤児院へ出かけた。
女性陣は平家に残り、各自の課題をこなすことになっている。
リゼは光魔法SSの全てを習得するための研究。
エルは水魔法をSにするための訓練。
クラウはリゼの護衛をしながら、風魔法をSにするため魔術書を読む。
カルラは料理をSにするため、研究と新作料理に挑戦するようだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕はアリッサム孤児院に到着すると、院長に挨拶をしてからバスラー隊長を探した。
彼女には闇魔法を教わる予定なのだ。
「おっ、来たなクリスティーナ」
「誰がクリスティーナだよ! 僕はクリストハルトだっ!」
バスラー隊長が満足そうに笑いながら僕を見ている。
「すまんすまん、お前の反応が面白くてつい」
ぐぬぬぬ、僕で遊ぶ気満々だなこのダークエルフ。
見た目は美少女だが、油断できないぞ。
「何度でも言うけど、僕は男だからね」
「はいはい、そういうことにしておこうか」
こんなふざけた挨拶で始まったが、闇魔法の訓練は真剣に教えてくれた。
あらかじめ初級の魔術書を僕が読み終えていたこともあり、バスラー隊長の適切な指導のお陰で、午後になると僕の闇魔法はEからDに上昇した。
「しかしクリスは上達が早いな。こんな優秀な弟子はアイツ以来だ」
「アイツって誰です?」
僕が聞くとバスラー隊長の表情が曇った。
「私が生まれたダークエルフの里で、弟のように可愛がっていた幼馴染のことさ。アイツは第一特殊部隊で私の部下になると、あっという間に私と同じ闇魔法Sになって、そのまま私を越えていったからな」
「えっ!? 闇魔法Sのバスラー隊長を超えるって、まさかその幼馴染の闇魔法ってSSなのですか?」
バスラー隊長が静かに頷いた。
「凄いじゃないですか。カーム教国には闇魔法SSの魔法使いが居るなんて」
「いや、アイツはもうこの国には居ない。強力な力を手にして、性格が変わってしまってな。横柄になったアイツは私を見下して、仕事を辞めると自分で傭兵団を作り様々な悪事に手を染めた。そして国外に逃げたのさ」
「そんな……」
「この孤児院に居る子供たちの多くは、アイツが起こした犯罪に巻き込まれて親を亡くしているんだ。それで十年前から私は、この孤児院で一緒に暮らすことに決めたのさ」
バスラー隊長が悔しそうに唇を嚙んでいる。
「あの殺戮兵器は、私が育ててしまったのだ。何としてでも私がこの手でリュディガーを殺す。これ以上犠牲者が出る前に」
怒りに震える美少女ダークエルフは、鬼のような形相になっている。
しかし闇魔法SSの魔法使いが実在しているとは驚きだ。
火、水、風、土の四大魔法に優位性があることを考慮すれば、闇魔法SSは世界一の強さかもしれない。
僕は闇魔法SSの殺戮兵器リュディガーの名を、しっかりと記憶したのだった。




