ep.58 『たまからの最期の言葉』
最愛の愛猫、たまが天国へ行きました。たまからの最期の言葉です。ありがとう、たま。
おい、和之、そんなに泣くなよ。俺はお前の家族に迎え入れられて嬉しかったぞ。
覚えてるか。初めてお前とお母さんが「おおさかワンニャンセンター」っていう保護猫の譲渡会に来たときに、お前のお母さんが「これにする」って言って、俺を迎え入れてくれたんや。
俺は、見た目がイマイチやから、何度も譲渡会をしても引き取ってもらえず、またどうせ今回も無理やろ、って思ってたら、お前とお母さんが引き取ってくれた。
帰りの揺れる車の中で、聞こえたで。
「名前何にする?」とお前が聞く。
「『たま』でいいやろ」とお母さんがいう。
それ以来、俺の名前は「たま」になった。
お前のお母さんはよく餌を俺にくれた。だから俺はお前よりもお母さんに懐いた。お前は餌をくれへんからな。だからツレない態度をとったけど、ほんまはわかってたで、お前が俺のことをどんだけ可愛がってくれてたかを。
秋口、春になると毎回お前の部屋のベッドが俺の居場所やった。俺はもう限界やった。足腰は弱ってきて、三階へ上がる力はなかった。けど、最期に挨拶したくて、お前の部屋へ必死で駆け上った。お前は、「ここでウンチされたら困る」って下へ戻したけど、俺はもう一回上に上がった。
でもな、それでもええねん。俺はお前がほんまに好きやった。
いっつも、ちゅーるをくれるんは、お前やったな。俺も調子がええから、お前がちゅーるを持ってる時は猫撫で声で近寄って行ったな。
こうやって思い出を語るとな、お前と過ごした十三年間があっという間やったな、って思ってな。
いつやったか、俺が家出した、というか、迷って他所へ行ってんけど、ポスター作って探してくれたな。
お前が俺にくれたんは「愛」やったな。
お前のことは天国に行っても忘れへんわ。あんまりしんみりするなよ、俺まで悲しくなってくるやんけ。もう俺は骨になって、天国へ行く段階や。
そら、まだこの世に魂だけは残ってる。けど、もう俺は次の体に魂を宿らせるだけや。
お前のところへまた来れたら幸せやろな。
でも、お前は迷惑やろ?
どこでもウンコするし、その度にティッシュで包んでくれて。
俺、お前の家に来て幸せやったわ。
お前の姪っ子が来た時は大変やったな。俺のことを、小さいから虎に見えたんか、怖がって、姪が来る度に三階の和室に閉じ込められて。
そんな姪も今度で十九か。六歳で小さかったお前の姪も年頃やな。
聞いたで、俺が死んだ、ってお前が妹にLINEしたら、姪が「そっかー」って寂しそうに言うてたって。お前の姪とは随分と会ってへんからな。もう大学生か、幼稚園の頃やったか、時の過ぎるのはあっちゅーまやな。
お前のお母さん、俺が死んだ時、あんまりに唐突すぎて涙が出んかった、って言うてたけど、俺の葬式の時はめちゃくちゃ泣いてたな。そらそうやわな。一番可愛がってくれたもんな。
俺はちゃんと見てたで。お前もお母さんも、死ぬほど泣いてたの。
そんな悲しむなよ。
俺は悲しい顔のお前を見るのが辛い。いつもアホなこと言って笑ってたお前が好きやってんから。
今度生まれ変わったら、またお前の家にもらわれたいな。まあ、次、猫に生まれ変わるかどうかわからんけど。
お前、ほんまはしんどかってんやろ?
病気で働かれへんし、働いたとしても、障がい者施設で月1万円ぐらいで。
お前が病気じゃなかったら、俺とこんなに長く一緒におることはなかったな。
お前が一番しんどいのはわかってる。でも、お前もよう頑張ってた。俺がこの家に来てから、お前、3、4回入院したな。合計で一年以上か。お前のおらん家はあかりが消えたように寂しかったで。
お母さんは元気ないし、爺さんも元気ないし、何しろ、お前が一番明るかったからな。
俺も寂しかったわ。
「たま、聞こえるか?」
「なんや、誰や?」
「誰や、ってかっくんや。お前の飼い主の息子」
「かっくん、いや、和之でかっくんと説明しておかないと読者は分かりにくいだろ」
「たま、ごめんな、最期、挨拶に来てくれたんやな。弱々しい足で一生懸命に三階まで来てくれたんやな」
たまは、最期の最期、息子に挨拶をするために弱った足で一生懸命に階段を登って会いに来てくれた。次の日には歩けなくなるぐらい弱っていた。
それを知らずにいたから、前日に来てくれたのに、うんちをされたら困るからと下に抱き抱えて降ろしたのだ。すると、また弱った足で息子の部屋に、来てくれた。
「たま、悲しいからこの辺にしとくな。今日は原稿用紙六枚や。こんなんは枚数じゃないと思ってる。気持ちや。今までありがとう。楽しかったわ」
「かっくん、こっちこそありがとうな」(了)
ありがとうございました。




