訪問看護の池下さん
こんばんは。お立ち寄りいただきありがとうございます。今日は日頃お世話になっている訪問看護の方との日常を切り取った作品です。
「宮下さん、こんにちは。今日寒いっすね。さっきまで雪降ってましたよ」
団栗眼の池下が元気よく挨拶をする。
僕は週に二回、訪問看護をお願いしている。今日は水曜日で担当は池下だ。
*訪問看護についてご存知無い方の為に。
訪問看護とは、看護師が患者の家に訪問し、血圧や脈拍、酸素の数値などのバイタルを測定し、薬がちゃんと飲めているか、などの確認をしたり、日常の困りごとなどを相談するシステムのことです。
ここから小説。
「池下さん、今日も寒いですね」
池下は頷く。
「宮下さん、聞きましたよ。小説書いてるんですって? 見せてくださいよぉ」
池下は僕が小説を書いていることをどこからの情報で取り寄せたのか、聞いてきた。
「水少納言で検索したら出てくるんで、よかったら読んでください」
「ちょっと待ってくださいね。今見てもいいですか?」
「いいですよ」
僕は軽く相槌を打つ。
「ああ。ありました。うわー、結構書いてるじゃないですか。これ、全部、宮下さんが書いたんですか?」
池下は興奮気味に僕に聞く。
「はい。まあ、昔に書いたやつがほとんどなんですけどね」
「へえ、今度じっくり読ませてもらいますわ」
池下はそういうとスマホをポケットにしまった。その日はバイタルとマッサージとちょっとしたお話で終わった。
次週、また池下のシフトだった。
「こんにちは。今日も寒いっすね。さっき、雪降ってましたよ」
団栗眼の池下はいつものフリースのチャックを上げながら元気良く挨拶してくれる。
「寒いですね。僕で何軒目ですか?」
僕はさりげない質問を投げる。
「宮下さんで三軒目です。今日は箕面まで行ってたんすわ」
「遠いですね」
何気ない会話だけれど、何気ない会話が一番落ち着くような気もする。
部屋に入ると、池下が、
「体温測っときましょか」
と、体温計を渡してくる。
体温計を脇に挟み、酸素を測るために人差し指にパルスオキシメーターをつける。
「いつも低いんですよね」
僕がそういうと、
「息苦しいとかはないですか?」
と、池下が聞くので、
「それはないです」と答える。
僕は数値をiPhoneに入力していく。
「血圧も測りましょうか」
腕に血圧計を巻き付けて血圧を測る。ポンプの音がプシュプシュいう。
「132の88ですわ。いい感じですわ」
いいのか悪いのかイマイチわからないが、プロが言うのだからいいんだろう。
「そうそう、読みましたよ、水省納言。『正直もののポチ』よかったすわ。オチがあって。ああいうの好きですわ」
池下が僕の拙い小説を読んだ感想をいう。
「そしたら、またマッサージしましょうか」
「いいんですか?」
僕は遠慮気味に訊く。
「いいですよ、全然。ほな、寝転びましょうか」
僕はうつ伏せになって、その腰あたりを池下が揉む。
「宮下さん、今日、たまちゃんは?」
池下は僕の飼い猫である「たま」を可愛がってくれる。
「こたつの下ちゃいますかね」
「そうですか。あとで頭撫でさせてもらっていいですか?」
池下はたまにメロメロだ。
「いいですよ」
池下が僕の腰を揉みながらそう話す。
「ドラマ観てますか?」
池下が立て続けに質問してくる。
「観てないです。ていうか、僕、ドラマあんまり観ないんです」
「何でですか。ドラマめっちゃ面白いじゃないですか。でもあの橋本環奈のやつはダメでしたね。なんか演技が」
「あれですか? 『ヤンドク』ってやつですか?」
「そうそう、それです」
池下は僕の腰をマッサージしながら、上から話しかけてくる。
「そういえば、お子さん受験ですよね?」
僕は池下に聞いた。
「そうなんですよ、私立は受かってるんですけどね、本音としては公立に行ってほしいかな」
「ですよね」
親の気持ちが子どものいない僕にはわからないが、親としてはそうだろう。
池下がこの水少納言のネタに使われているとはいつ気づくだろうか。面白いからそのまま言わずに気づかれるまで放っておくことにする。
池下さん、もしこの作文みたいな小説を読んだら、次の訪問看護の時に教えてください。 特にネタもないんで、今日は原稿用紙六枚で終わります。
(了)
最後までお読みいただきありがとうございました。次回からは普通の小説を書きたいと思います。




