6つのキー
今回は超短編です。よかったらお読みください。
『6つのキー』
ピリッと張り詰めた重たい空気の中、入社式は厳かに執り行われた。先ずはじめに社長の挨拶から始まった。
「えー、皆さん。この度は入社おめでとうございます。いや、ありがとうございます、とでも言いましょうか。社長の『ツツイアツシ』と申します。えー、昨今はスマホなどのフリック入力によりパソコンのいわゆるキーボードというのが苦手な学生が増えていると耳にしております。でも、皆さんはご安心ください。当社では覚えるキーは6つだけです。アルファベットは通常26文字あるわけですが、当社では業務で使用するのは、そのうち6つだけで完結するのです。皆さんのそれぞれに支給されているパソコンにはキーボードにそれらの6つのキーがマーキングされていますので、それだけを覚えてください。その6つとは『A』『T』『S』『U』『H』『I』です。社長である私の名前は『TSUTSUI ATSUSHI』と入力すれば良いです。当社は本社は大阪の吹田市です。これも『SUITA』と入力すれば本社へのメールや郵便物が届くシステムになっております。また、当社のメイン事業は『指圧』ですので、『SHIATSU』と入力するだけです。昼食は『寿司』つまり『SUSHI』と入力すれば提携業者から届くシステムとなっております。皆さんの便利なように支店出店計画も立てておりますので、来年度は三重県の『津市』つまり『TSU』にも支店を拡充する予定です。海外支店も視野に入れており、その場合はアメリカになります。つまり『USA』ですね。どうですか、皆さん、当社の業務は6つのキーボードで成り立つことがご理解いただけたでしょうか」
インカムを少し口から遠ざけて、自信に満ちた笑みで社長は胸を張った。
「私どもはいかに作業効率を上げることを第一に考えることでこれまで事業拡大してきました。当社は『指圧(SHIATSU)』業界の『IT』化を目指しています。キーボードを押すことは同時にツボを押すことに通じます。皆さんの普段の指使いがお客様の心を掴むのです。そして周りの先輩社員を見回して皆さんは不思議なことに気づきませんでしょうか。それは年齢層です。実は、『丑(USHI)年』と『卯(U)年』と『辰(TATSU)年』生まれの社員しか採用していません。そのため、この生まれ年に採用が集中しています。皆さんはちょうど三代目の世代に当たるわけです。期待しています」
照明が暗くなってプロジェクターに華やかな映像が映し出され、第一世代の社員たちが社歌を高らかに歌い出した。
オレ、この会社でやっていけるのだろうか。
ありがとうございました。




