299.ダーク・ギルティ 5
「可哀想な湊くん……でも安心していいよ? もうキミは私が育ててあげるからね。だから抵抗はやめてくれる?」
「……ぐっ――くぅぅ……」
どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
つくづく学習能力に欠けているというべきか、親父さんに諭されて大人しくなってくれたと、勝手に勘違いしたのが間違いだった。
遡ること数時間前……東上学園でのデートで、あゆに迫られたものの、親父さんの登場であゆは大人しくなってくれた。
その足で学園を後にし、俺はあゆが密かに作っていたという俺との共同生活の場所、つまり彼女の資金で作られたマンションに来ていた。
外観はその辺りのマンションと変わらないほど普通の作りで、セキュリティに関しても下手なことをすれば、すぐに警備がかけつけると聞いただけに、すっかりと油断をしてしまった。
俺を強制的に転校させたあゆが、俺の為にマンションを作らせていたという事実にも驚いたが……
ここに来たのも初めてだというから油断をしたわけで。
「へぇ~部屋の中は普通なんだな」
「つまらない? 私らしくない?」
「そんなことはないけど、安心する。あゆも初めて来たっていうなら、安心だな」
「……うん、初めてだよ? 湊くんを連れてここに来たのはね……」
「へっ?」
言い方の問題なんだろうけど、俺を連れて来たのが初めてであって、すでにここに来ていたと理解した時には遅かった。
「うわっ!? な、何をす――」
「大丈夫。そのまま倒れ込んでも弾むくらいの羽毛を用意させたから……」
「そういうことじゃなく……」
新しそうな部屋の扉を開けられ、部屋の中を覗き込もうとした時、すでにあゆは俺の背後に回っていて、力強い突き飛ばしによって部屋の中に押し込まれていた。
そこから先は記憶がない。
弾む羽毛の弾力がありすぎて、床に叩きつけられたらしく、聞こえて来たのは、あゆの優しい声だけだ。
「可哀想に……これからは痛い思いも、辛い思いも全て私が背負ってあげるね」
しばらくして、ベッドに眠らされているかと思っていた俺の体の感触は、そうじゃなかった。
すぐ近くに彼女の姿は無かったが、俺の全身は鎖によってつながれ、閉じ込められていた。
おいおいおい、マジか。
何が彼女をそこまでにしてしまったというのか。
「私の湊くん、目覚めた?」
「な、何でこんな……」
「駄目だよ? 色々体を動かしたら、変な姿勢でソレは固定されちゃうの。だから大人しく寝ててね?」
「こんな状態だとどこで寝ていたって、同じじゃないか!」
「あぁ、可哀想な湊くん。こんなに可愛い弟は離したくないなぁ……」
お、弟とか、いつ以来の呼ばれ方なんだ。
育てると言っていたが、そういうことか。
「湊くんには、これから先……私のことだけを感じて生きていけばいいの。その為の鎖なの。洋服の着替えも食事も、全部私が面倒を見てあげるね。うふふっ」
「あ、浅海が悲しむぞ! こんなことっ!!」
「浅海? 誰のこと?」
「だっ……、誰ってあゆの婚約者だろ? 俺はあゆと付き合えても、最後に一緒になれる奴じゃないんだぞ? 年上の君ならこれくらい分かるはず」
「年上年上年上年上……君には再教育が必要かな。少なくとも、年なんて気にしなかったはずなのに、どうしてかな?」
ハッキリとしなかった俺が悪いのか?
さよりにしてもあゆにしても、半端なままにしているが、あゆはどうして俺なんかを……
「あゆのことは嫌いじゃない。けど、こんなことで俺を教育とかするつもりなら、俺は君を完全に嫌いになる。それでいいなら、このままやれよ!」
こんなことで通用しない相手なのは分かっているが、ハッキリ言うのも彼女の為だ。
「嫌いになる? あり得ないよ? 関係ないよ……? 好きと言ってくれたのは湊くんだけ。そんな湊くんが、私を嫌うわけない」
あぁ~……ダメだったか。
あの時は植物のようなモノに捕まってしまったが、今回は真面目にヤバイ。
まさか鉄製の鎖を使用して来るとは、さすがに油断もいい所だ。
つくづく学習しろと自分に言い聞かせたい。
南中から自由の時間を与えられたのに、まさかあゆによって自由を奪われてしまうとは思わなかった。
「今夜は何食べたい? 湊くんが食べたいものを作ってあげるね! これも可愛い君の為なの」
「……ラーメン」
「いいよ。作ってあげる」
この部屋にはキッチンを設計していなかったらしく、あゆは部屋を出て行く。
こういう時にどこに助けを求められるというのか。
あぁ、参ったな……さよりの名を叫んでも来そうに無いし、一体誰を呼べるというのか……。




