298.ダーク・ギルティ 4
「ま、待った! キミには浅海がいるじゃないか! それなのに、何で俺にこだわるんだ?」
「好きだからだけど? 湊くんはそうじゃないのかな?」
「す、好きだとしても、俺が最終的に選ぶのはあゆじゃないんだぞ? そんなのっておかし――」
何かされると思っていたが、あゆは勢いよく俺を抱きしめて来た。
身長差があるので、必然的に俺の顔は、彼女の膨らみのある所へダイブするわけで。
「嫌いじゃないなら、いいよ? 湊くんはまだ誰かを特別にするつもりなんてない。違う?」
「むぐっ……むががもみが」
「――っ! 今何と……?」
「もがっ!?」
「私じゃなくてあの子を選ぶ……なんて言わないよね?」
やばい……苦しい、このままでは落とされそうだ。
話は最後まで聞いて欲しかったが、あみの名前にはすぐに気付かれてしまった。
この雰囲気には見覚えがありすぎる。
逃げたくても逃がしてはくれない、あゆの闇と病みを感じまくりだ。
「……いいよ? 誰でもいい……栢森とは別に、湊くんは私が本気で育ててあげるから……」
「そ、そうじゃなくてっ! 俺はあゆとは付き合えないっていうか……だから」
「そうじゃないよ? 湊くんはもう有罪が確定している。いるんだよ?」
「つ、罪?」
「鮫浜あゆ……沖水あゆ――姓を変えても、君はどこにいても誰と恋をしようと……私を本気にさせた。ここの学園で、私を普通に見てくれた湊くんは、もう有罪が確定しているんだよ」
これは何を言っても、逃れられないことが確定ですね。
必要以上に関わって、告白をしてしまったことが罪だったということなのか。
不法侵入しまくって来たあゆに惹かれて行ったのは事実だが、寂しそうに感じたのは俺の罪ということになる。
「……あはっ、あははっ! 可愛い子だよね、君。それとも、ぼくって呼んであげようか?」
「と、年上だからってやめろよ」
「――関係ない」
「え」
「君が私に近づいて来た時は、年上だとか同級生だとか関係なく近づいて来た。受け入れられたのは初めてだった。闇だとか黒世界の女だとか言われていたのに、君は違った。だから……逃がさない――」
早まったということか。
普通じゃないって気付いていながら、あゆの魅力に惹かれてしまったんだ。
獲物をジリジリ追い詰め、獣のように鋭くつりあがった目つきは、俺を視界から逃さないつもりだ。
「ぼくは私をどうするつもりがあるのかな?」
「いや……それは……」
学園の中庭なんて彼女の庭みたいなもので、そこに誘い込まれた時点で逃げられない。
斜め下から俺を狙いすましたかのような上目遣いは、獲物を前にした猛獣のような目つきに見える。
今さらあゆが驚くような行動を取ることは出来ないし、土下座をしたところで変わらない。
もうあゆに屈して好きにさせるしか――
『そこまでにしとけ、あゆ』
おぉ? この野太くて渋い声は、闇世界のおっさんか?
声のする方を見ると、見覚えのある黒服がぞろぞろいすぎて、まるで麻痺したように動けなくなった。
「会長が何故ここに……?」
「ふ……お前が栢森に行き、アレの名を使っている時点で、ここはワシが見ていると言ったはずだ」
父親のことを会長と呼ぶ辺りは徹底しているが、せっかく来た学園で鉢合わせをするなんて、思ってもみなかったはず。
「高洲湊。あゆのことが嫌いか?」
「い、いえ……」
「だが、苦手か」
「……ぅ」
「――だ、そうだ。我が娘ながら強引さは親譲りなわけだが、そう急くな! 猶予を与えたはずだ。何も鮫浜のやり方で迫れとは言っておらん。それではこの男は縮まらん」
「………」
「高洲も正直になった上で、ハッキリとするべきだ。よいな?」
「は、はい」
あゆは父親を前にして、それ以上何をどうすることも無くずっと黙っている。
ぞろぞろと黒服を引き連れてた父親は、納得したようにして学園を後にした。
「あ、あの……嫌いじゃないんだ。だけど、鮫浜と沖水……どっちが本当のあゆなのか分からないけど、だから……」
「……じゃあ、行こ」
「ど、どこに?」
「湊くんを転校をさせた後に、作っていた場所だよ。それは私の気持ちを込めたモノ。行こ?」
「じゃ、じゃあ」
父親に登場で助けられた気がしたが、あゆは俺に何を見せようとしているのだろうか。




