219.残念美少女は母親譲りだった件
何でこうも学習出来ないものなのか。
さよりの家に来ることを躊躇していたのは、姫がいるというのも関係していた。
しかし学校も含めてしばらく姿を見かけなかっただけに、てっきりいないものだと思って、まんまと騙されてしまった。
しかも悪戯に加えて、俺にそういうことをさせる辺りが、あざとすぎる。
「ほらほら、さっさと声を張り上げないと、さよりのことだからノックもなしに入って来ちゃいますよ?」
「どうしてさよりが来ているって分かるんだ?」
「そりゃあそうですよ。一度は廊下に出てますし、そろそろ来そうだなぁってくらいは気付きますって!」
「全く、何でこんなことをさせるんだか……」
「あ、声を張り上げた時、一瞬だけ両腕を”解放”させますけど、乱暴しないでくださいね? してもいいですけど、さよりに見られちゃいますし?」
「はいはい、しないっての!」
いちいちあざとすぎるが、これも姫の個性と思えばどうということはない。
こうなればいい加減諦めさせるために、さよりへの”告白”を叫ぶしか……いや、しかし……。
『さより、俺だ! 俺はお前のような残念美少女でも、ずっと付き合っていく自信があるぞ!! だから今すぐ、ドアの前から離れてくれ!』
「えー? 何ですかそれ……告白じゃなくて、宣言と注意って面白くないんですけど?」
文句を言いながら一応解放してくれたようなので、素早く動かして、両手で姫を押さえつけようと試みた。
「――って、あれっ!?」
「ぶっぶ~! ざ~んねんでした!」
「っと、ととと……」
姫を押さえつける勢いで、思いきり前のめりに進んだつもりが、目の前には少しだけ隙間の開いたドアがあって、そのままドアを勢いよく開けてしまった。
そういえばさよりからは何の返事も無かったが、上手くドアから離れてくれただろうか。
「わぁぁーー! さ、さより、そこをどけてくれー!」
「――っ!?」
離れてくれたと思いきや、言ったことを理解していなかったのか、彼女はすぐそこに立っていた。
完全に押し倒した形になり、さっきまで感じていた姫のそれではなく、残念で久々な感触が手元にあった。
「あー……うん、一年経ってもそんなに簡単じゃないか。まぁ、何だ……残念ではあるけど、気にしなくても……って――えっ!?」
「高洲さん……何が、残念と?」
「いっ!? い、いさきさん? え、さよりじゃない? さよりは……あ!」
押し倒した人は何故か母親のいさきさんで、肝心のさよりは両手で口を押さえながら、俺といさきさんを見て固まっていた。
「え、嘘……ママが何で」
おいおい、何で姫も驚いているんだよ。
「……それで、高洲さん。その手はどうされますの? 残念な顔をして、残念とおっしゃってましたけれど……さよりさんにも同じことを?」
「あ……そ、その……そ、そうではなく……何といいますか」
「何が……残念と?」
「い、いや、あの……」
さよりだと信じて疑わなかったのに、まさかいさきさんがいるなんて思ってもみなかった。
しかも禁句を言いまくってしまったし、よりにもよって人様のお母様のオムネさんを……。
『高洲さん……わたくし、ものすごくイライラが止まらないのですけれど、お分かりかしら?』
「ひっ!!」
『だから……その手をとっととどけて、ちったあ空気を読めって言ってんだよ! あぁ!?』
あれ、これはさより? ではなく、間違いなく母親のいさきさんである。
さよりの初期の乱暴な言葉遣いは、てっきり何か間違った情報から学習したかと思っていたのに、まさかの母親譲りとか、何て恐ろしい。
「お、お母さま……な、何てこと……」
まさかの言葉遣いに、階段の所で固まっているさよりもショックを隠せないようだ。
「お、お母さま、格好いい!! そ、それでこそお母様ですのね!」
そっちか!
「コホン……はしたない姿をお見せしましたね。とりあえず、高洲さん。一階でお話をしましょう」
「は、はい」
「姫……」
「い、行きます……」
「さよりさん、あなたはお茶をお出ししてくださる?」
「分かりましたわ、お母様!」
そうか、やはり池谷家のビッグボスはいさきさんで間違いなかった。
そりゃあ親父さんも頑張るはずだ。
「高洲さん、さよりさんのことも含めて……姫とのことを全てお話しして頂けますわね?」
「も、もちろんです。包み隠さず、お話をします」
「当然ですわね。それでこそ、さよりが選んだ男の子」
姫の顔はすっかり生気を失ったように青ざめていて、階段を一段ずつ降りる足取りは重たそうだ。
かくいう俺も、さよりへのキーワードも含めて、告白のことも洗いざらい話すしか生きるすべは無さそうだ。
怒らせてはいけない人を怒らせてしまった……。




