220.予想外の不法侵入者
もうかれこれ二時間くらいになるだろうか。
両足……いや、指先にかけて感覚が失われているということに、焦りを感じてならない。
どうして俺はこんな罰を甘んじて受けているというのか、答えは一目瞭然だ。
『高洲さんは長女と次女、どちらとも口づけを交わしているのですね? 間違いないのですね?』
足の痺れが口元にまで来ている……かは微妙だが、上手く言葉に出来ないのは確かだ。
「はひ……間違いないでふ……」
もちろんふざけているつもりはこれっぽっちも無かったのに、本領発揮のいさきさんは、容赦なくヘッドロックをして来る。
俺のイメージでは、さよりを大人しめにして和服の似合う、とてもおしとやかな女性だと認識していた。
それがどうしてか、俺の行為と言動で目覚めさせてしまったかのように、イメージはあっさりと崩れた。
「ギ、ギブギブ……い、いさきさん」
一見すると二人の美少女が見守る中、美人の母親にヘッドロックを喰らっている図は、かなりレアなものに違いないが、叱られている状態である以上は、邪な気持ちにもなれないのが正直なところだ。
ヘッドロックをすぐに外したいさきさんは、隙の無い眼差しで俺に言葉をかけて来る。
「……高洲湊さん。さよりへは以前からあの言葉を?」
「は、はい……で、ですが、俺……僕もひどいことを言われたりしてまして……」
出会った頃は本当に乱暴な女だった。それから背中をメインに惹かれられ、後に声に移行されていったが、メンタルが豆腐な俺には結構なダメージを受けたものだ。
「――いいでしょう。さよりさんは先に高洲家にお邪魔していなさいね」
「はい、お母様!」
「高洲さん、姫にかける言葉はありますか?」
姫にかける言葉という時点で、恐らく直に会うのは最後ということだろうし、もう悪戯はさせないという意味でもあると悟った。
「え、えと、姫! 向こうでも頑張れよ? 俺にこだわっても俺は……さよりと付き合うことを決めたんだから、姫は他の奴を探した方がいいぞ。と、とにかく頑張れ」
「しょうもなく優しい人ですね……嫌いになれなかったし、やり足りないことがありましたけど、最後に思いきり揉まれたので良しとします。湊さんもお元気で」
「いやっ、ちょっ!?」
そんな話をしたりされたりして、長時間に及ぶ足の痺れから解放された。
「……高洲さん。さよりをお願いしますね。たとえ偽の交際だとしても、あの子にはあなたしかいないのですから……たとえあなたの気持ちが他へ向けられていたとしても、時には優しい嘘も必要なのです」
「わ、分かりました……」
「姫にした行為については、後日……よろしいですわね?」
「も、もち……もちろんです。は、ははは……」
姫とのことはヘッドロックくらいで許してはくれないらしい。
それはともかくとして、本当にようやく説教と痺れから解放された。
時間はすでに結構経っていて、夜のご飯も食べずにどうするべきかと思っていたが、近所すぎることもあって、夜飯は俺の家で食べることになった。
さよりだけが先に俺の家に上がり込んでいるというのも不思議な感じがしたが、俺の母さん的には大歓迎で盛り上がっているに違いない。
「ただいま~」
返事が無い……息子そっちのけで盛り上がり中か?
というより、わざわざ玄関に迎えに来るはずもないのが普通なのだが、今夜は違うようだ。
「お、おかえりなさい、湊」
「た、ただいま」
「お風呂にする? ご飯が先? それとも、わたくしを――」
「待て、何の真似だ?」
「だ、だってだって……ママさんがそうしろって言ったもん」
ママさんとは聞き慣れない単語だが、俺の母のことに違いない。
どうせさよりに悪知恵でも授けたんだろう。
「いや、いいけど……ご飯よりも先に俺の部屋に戻っていいか?」
「わ、わたしもっ!」
「何もしないぞ?」
「うん」
やけに素直だが、予め母さんに釘でもさされたか?
俺の後ろを大人しくついて来るさよりは、控えめに俺のシャツの裾を引っ張りながら階段を上がっている。
やけに大人しいし、しおらしいさよりだが悪い気はしない。
自分の部屋に入るたびに開放感を得られるのはどうしてだろうか。
「たーだいまっ……て――」
「湊、どうし――」
自分の部屋に入ってすぐに気付いた違和感……というか、誰かの気配は、過去を思い出させた。
でも、目の前に見えるシルエットは彼女じゃない。
『おー! 随分遅かったじゃねえか、みなと!』
「な、何で嵐花が……」




