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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第7章:動きまくる思惑

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217.言いなりくんと罠好き姫


「なぁ、準備って何をするんだ?」と姫がいるであろう所に声をかけるも、部屋の中にはすでにいなくなっていて、返事が返って来なかった。


 夏に近いとはいえ、日暮れから夜に差し掛かっている時間帯は、電気無しでは自由に部屋を動けない。


 ただでさえカーテンを閉め切っていて暗い部屋の中では、勝手に動くこともままならないのが現状だ。


 姫に頼まれた重たそうなキャリーバッグには、一体何を詰め込んでいるのか気になる所だが、やはり見るわけにも行かないと思って、近づけずにいる。


 姫の”準備”からかなりの時間を待たされているが、なかなか戻って来てくれない。


 そうこうしているうちに、恐らく外は夜になったせいか、室内はほぼ真っ暗になってしまった。


 さすがにさよりといさきさんの話も済んでいるだろうし、いなくなって騒ぎ出しそうな予感もしたので、携帯を取り出して時間を見つつ、明かりをつけようとしていたら――


「湊さん、お待たせしました!」

「おっ? 遅かったけど、何をしていた?」


 咄嗟に声をかけられたこともあって、結局携帯は出せなかった。


「いえ、それよりも暗くて見えないですよね?」

「全く見えない」

「キャリーバッグの近くに物を散らばせていたので、足元を気をつけないと大変だと思うんです」

「まぁ、うん」


 何をしていたのかをはぐらかされたが、部屋から出れるなら気にしなくていいか。


「湊さん……両腕を伸ばしてくれませんか?」

「あん?」

「引っ張りながらドアの所に戻してあげたいので」

「電気を点ければいいんじゃないのか?」

「それがですね、お父さんの部屋だけブレーカーを落としているみたいなんですよ。その場所も探せなかったので、暗いままで部屋を出るしかないなと」

「すごいな。親父さんの部屋だけブレーカーを落とすとか、さすが池谷いけがや家」


 通常は二階全体のブレーカーとかのはずなのに、親父さん部屋専用とか無駄に金をかけているのがすごい。


「そういうわけなので、お助けしますので両腕を……あ、手の平は全開で開いててくださいね?」

「あぁ、そうか、握りこぶしだと危ないよな。分かった」

「そう、素直な湊さんは好きですよ」

「嫌ったんじゃなかったっけ?」

「……そうでしたっけ? 嫌ってたら触れたくも無いですけどね」

「確かにそうかも」

「ですよ」


 俺のことを『湊さん』と呼んでいるし、あの時の嫌われは何だったというのか。


 それはともかくとして、姫の言う通りにしないと真っ暗な部屋から出られそうに無いのは確かだ。


 こういう時、俺の部屋のようなコンパクトな狭さなら、そもそも室内で迷う事などあり得ないのに、部屋の広さはさすが社畜の鑑といったところか。


「両腕を伸ばして手の平を開く……と」

「はい! そうです。お部屋の外に導きますので、ゆっくり進んでくださいね」


 やはり本来は優しくていい子なんじゃないか。


 こんなに丁寧に接してくるなんて、疑ってばかりな自分を反省しないといけない。


「……ところで、さよりと付き合うのは真剣なんですか?」

「気になるなんて珍しいな。さよりのことはどうでもいいんじゃなかったっけ?」

「好きじゃないだけで、一応あれでも姉ですから気にはしますよ。まして湊さんだし」


 姉妹というにはあまりに仲が悪すぎる二人なだけに、今の質問に素直に答える気にはならなかった。


「というか、いくら部屋が広いっていっても慎重すぎないか? もっとペース上げて歩いていいよ」

「そうですか? じゃあ湊さんの両腕を力いっぱい引っ張ります!」

「えっ?」


 急かした俺も悪かったかもだが、急に離された両腕は引っ張られた勢いのまま途端に行き場を失ったせいで、バランスを崩しそうになってしまった。


「うっあっ、たっ……と」

「――湊さん、こちらですよ?」

「わ、悪い、姫――うっ!?」

「ふふっ……本当に好きですよね、湊さんって」


 掴まる所がそこしか無かったと言わざるを得なかったとはいえ、この手に収まりきらない感触……


「――あっ……ん……っ」

「やっぱり騙したのかよ、姫!」

「湊さんの手の平いっぱい、好きなだけどうぞ?」


 油断したといえばそうとしか言いようがないし、こういう展開は鮫浜の時に散々やられて来たはずなのに、姫のことを信じてしまった俺の落ち度だ。


「揉むことには何の感想も言わないんですね? それって、鮫浜のせいですか?」

「……お前、こんなことで嬉しいのか? 気持ちが入ってなくて、油断で触ってるだけだぞ……」

「湊さんに感じてもらえればいいですよ? あ、もちろん、わたしも感じてますけどね。ふふっ」


 まんまと騙された俺も大概過ぎるが、姫の言いなりになってしまったのは完全なミス。


「好きなだけ動かしてどうぞ?」

「何で姫は変わっちゃったんだよ……こんなことをする子じゃなかっただろ?」

「好きでもないのにキスをしたのは誰ですか? ねえ、湊さん」


 姫にキスというと……バイトの時のあそこまでさかのぼるしか無いが……あの時からとかマジか。


「さよりと一緒です。好きになっちゃったら、今さら変えられないです」

「……手を離すから、そういうのをやめろよ」

「いいんですか? 部屋の外……ドアの向こうにさよりがいますけど?」

「お、お前……」

「湊さんが今この場で、さよりにも聞こえるように叫んでくれたら、やめてあげます」


 叫ぶってことは、姫と付き合うとかそういうことだと思うが、そういう問題じゃない。


「分かった。思いきり叫んでやるよ」

「賢明です! わしゃわしゃと揉んだままで叫んで頂けると、高揚しそうです!」

「とりあえず、静かにしろよ? 姫」

「はぁい……ふふっ」

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