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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第6章:見えない何かからの逃避

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214.鮫浜との決別


 さよりとの甘いデートから一転、今は何故か明海さんからの重大な問いに、戸惑っている。


 鮫浜が俺に告白をして来たことに関係があるんだろうけど、追放した本人からお願いされるんじゃなく、鮫浜のお目付け役な明海さんから言われていることに違和感を感じている。


「どうかな? 湊くんはあゆさんに関係なく戻りたいって思ってたでしょ?」

「そりゃあ、転校したばかりの時はそうでしたけど、今はそうじゃないですよ。栢森ヶ丘にも慣れたし……」

「――! 学校名を知っててそんなことを言うってことは、すっかり取り込まれちゃったんだね」

「え、どういう……」


 鮫浜の告白は抜きにしても、今さら学園に戻っても、俺には何もいいことなんて無いような気がする。


 嵐花との教育も終えてないし、みちるの所で住み込みバイトをするという約束も交わしたままだ。


 今の学校で会わなくても影響が無い人間といえば、優雨とか、留学を控えた姫くらいなものか。


『お代わりはいかがですか?』


 店員のしずがさよりたちの所に行ってから、他の店員の姿が見えないと思っていたのに、代わってとてつもない美少女が追加注文を――あれ?


「邪魔しに来たの? 浅海」

「……姉貴こそ、湊を惑わすのはやめてくれない?」


 やはり浅海だった。


 徹底して俺の前に現れる時は、男の娘な浅海ではあるけど、会うたびに色気が増しているのは気のせいだろうか。


「高洲君の専属護衛になったのは栢森の命令?」

「違うね。湊の護衛になるのは俺にとって当たり前のことだ。命令なんかでやるものじゃない」

「ふーん? あゆさんから離れてすぐに栢森に行ったくせに、そんなことを言うんだ?」

「自由になったから行っただけだし、そんなの俺の勝手だろ!」


 何やら複雑な事情がありそうだけど、姉と弟の間に入るのは簡単じゃなさそうだ。


 さよりと鮫浜にしてもそうだし、浅海と明海さんのやり取りもどうして勝手に始まってしまうのか。


『待った! 俺を置いてけぼりで口喧嘩を始めるつもりがあるなら、俺は帰る』


 キスするつもりは無かったが、さよりとの雰囲気は悪くなかっただけにこんな展開は望んでいない。


「高洲君は勝手に帰れないよ? 君の返事も聞けていないし、お詫びの言葉も聞かされていないわけだし?」

「女子更衣室に入った問題はごめんなさい! でもそれは俺の勘違いによるものなんで、言い訳は無いですよ」

「そうじゃなくて、ここの施設は鮫浜のモノだから。意味、分かる?」


 鮫浜の監視網とか、やっぱり学園に近場の所では自由も無いのか。


「浅海は前から知ってたんだな?」

「み、湊……怒ってる?」

「どうせあゆの告白も仕組まれだろ? あんな態度を見せられても、周りがこれじゃあ信じることなんて出来るはずないよな」

「え? 告白?」

「あの子が高洲君に告白を?」

「俺に告白して来た。それも鮫浜のやり方って奴だろ?」


 浅海と明海さんがお互いに顔を見合わせて首を傾げているが、打ち合わせにないことだったのだろうか。


 どっちにしても明海さんの質問もそうだし、浅海の登場といい……鮫浜に関わると、まともな恋愛なんて出来るはずもない。


『湊くん! 待って!!』


 何てタイミングで出て来るんだよ。全部鮫浜の思い通りじゃないか。


 さよりとしずも戻って来て、全てお膳立てが整ったって奴か。


「俺のことが好きってのも、嘘だろ? もういいよ。悪いけど、俺はさよりと付き合っているから! ほら、さより」

「み、湊……あ、あなた」


 仮でも嘘でも、こうするのが正しいと思ったら、さよりの肩を抱き寄せていた。


「あゆとどうなることも出来ない。ここにしずがいたのもそうだし、鮫浜に関わっている人間で固められているのもそうだろ。君自身の言葉じゃなくて、鮫浜の力でどうにかしようとしていたんだよな?」


 ハッとしたように、鮫浜は明海さんと浅海の顔を交互に見ながら、表情を曇らせた。


「明海? あなたはどうしてまだここにいる、いるの?」

「ここにあなたを送らせて、それで仕事が済んだというわけには行かないと思ったまでです……」

「浅海まで私の邪魔をする、するの?」

「俺は湊の護衛だから近くにいただけ。あゆさんの迷惑になるつもりなんて――」


 何だかこういういざこざに巻き込まれて、不快な思いをするのも嫌になりそうなのは勘弁して欲しい。


「さより、行くぞ」

「え、あ、うん。湊、あの……手が」

「俺の手を握って離すなよ! 彼女さん」

「は、はい」


 どうにもこの場所はよくない空気がよどんでいるらしいので、無関係な俺たちは退散することにした。


『湊くん!』


「何? 俺ら帰るんだけど、まだ何かある?」


『湊くんが好き、好きだから。だから――」


「そういう嘘はもういいからさ、あゆは庶民の俺じゃなくて、もっと釣り合いの取れる男を……」


『鮫浜じゃなくなったら、湊くんは私を好きになる? なってくれる?』


 出来もしないことを宣言されても困るが、何の力も権力も使わなくなるんであれば、友達にはなれそうな気がしないでもない。


「友達からならなれるかも? まぁ、無理だって分かってるから、俺ごときに無理しなくていいよ」


『……湊くん、私は本気、本気だから。また会ってくれる?』


「俺は学園に戻る気は無いけど、偶然にも会えたら話はするよ」


 何が本気なのかは追及しないし、鮫浜じゃなくなるとか意味が分からない。


「湊、い、行きましょ?」

「泳げなくて悪いな、さより」

「いいの。湊と来られたのですもの……また行きましょ?」

「お、おぉ……ここじゃなくても新しい所でもいいぞ」

「あぁっ……湊ぉ」


 鮫浜とヨリを戻すとか、学園に戻るだとか、その気はもう無いな。


 よほど何かが起きない限りは、嵐花への想いを消すことなんて無いのだから。

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