213.闇天使と駄々っ子彼女の意地っ張りの中で
思わずさよりと二人でハモってしまった。それくらい信じられない単語が、鮫浜の口から発せられたわけなのだが。
「な、何を言うかと思えば……あゆのその言葉はおかしいわ!」
「どういう意味で?」
「あなたは湊をこっぴどく振った挙句、学園から追い出しているのよ? それをいとも簡単に無かったことにするだなんて、調子がいいのもいい加減にして! み、湊はわたくしの彼氏さんなの! 今さらノコノコと出て来て、好きだなんて言葉は何の意味も効き目もありもしないことだわ!」
「お、おい、さよ――」
「彼氏さん? ふぅん? それなら安心、安心した」
非常によろしくない光景が繰り広げられそうだ。
何故ならここは禁断の女子更衣室であり、いてはいけない野郎が堂々と侵入しちゃってるからである。
このままさよりと鮫浜のバトルが始まるのを黙って見ていれば、間違いなく連れて行かれること必至だ。
「鮫浜~? 俺の話を聞い――」
「さよりは本気? 本気なの?」
「当然だわ! そうでなければ、わたくしも転校なんかしなかったわ! それもこれも全て湊の為なの!」
「それはさよりの勝手。湊くんが望んだことじゃない……」
「おい、さよ――」
「鮫浜の力を使ってまで、人の気持ちを奪って楽しいのかしらね? その気持ちが今でもあるというのなら、好きだなんて言葉には何の意味も無いことだわ!」
二人して俺をシカトとか、初期の頃を思い出させてくれるじゃないか。
しかし二人の間に割って入っても、吹き飛ばされそうな嫌な予感しかしない。
「高洲君、こっちこっち」
「ん、え?」
「そのまま女子更衣室に留まったら助けられなくなるから、黙ってこっちに来てくれる?」
この声はハスキーすぎる年上お姉さんの声。
鮫浜側の人間の言うことを果たして素直に聞いていいものかどうかだが、捕まりそうな予感がしているし、行くしかなさそうだ。
更衣室を出ると、やはり一般客の姿は無くなっていて、見事に鮫浜の力を使った感が残っていた。
「高洲君、カフェに移動ね」
「あ、はい」
公共の屋内プールといっても、軽食カフェくらいは併設してあるからこういう時は助かったりする。
店員以外貸し切り状態で、俺と彼女はテーブル席に着いた。
「明海さんですよね?」
「もう忘れちゃった? お姉さん、悲しいな」
「いえ、あの……素敵な古めかしいビキニが目の毒に……」
「へぇ……? 年上をバカにしている?」
「あ、いやいやいやいや! 照れ隠しですよ? 本当ですよ? そのオムネさんは本物みたいですし」
「ここで触れたら逮捕しちゃおっかな?」
「へ?」
明海さんのことは良くも悪くも疑いを抱いていたわけじゃなかったけど、何者なのかハッキリさせた方が良さそうだ。
「私のことにようやく興味を持ってくれた感じ?」
「鮫浜の人間ですよね?」
「うん、まぁ……ね。それ以外には、色々とね」
「逮捕って、まさかポリ……」
「そんなわけないでしょ! そうじゃなくて、高洲君って何だか気を許させる男の子みたいだからね。どこでも、どこにいてもその気にさせそうだし? だから浅海も惹かれたんだろうけどね」
名前が似ているとは思っていたが、やはり浅海と何かの関係がある人間だったか。
「浅海はもしかして弟とか?」
「気付いてた? でも、義理だけどね」
「じゃあ、鮫浜は……」
「……それは私からは言えないな。彼女から聞けたら聞いてね。聞けなかったら、その時点で運命が決まったようなものだけど」
「どういう――?」
『ほらよ、コーヒー二つだ!』
「ん? その声……」
「ここはいいから、あゆと池谷さんを止めて来てもらえる? しず」
「おうよ! 湊、久しぶり!」
「し、しず……お前何で?」
「んあ? バイトに決まってんじゃねえか! あたしは鮫浜から援助を受けてないからな!」
「しず、早く行って!」
「はいよ! そういうわけだから、湊。またな!」
「あ、あぁ」
鮫浜に再会したら途端に旧友と再会とか、俺を包囲するつもりなのか。
「本題を言うね。高洲君、学園に戻る気は無いかな?」
「――え」




