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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第6章:見えない何かからの逃避

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210.駄々っ子彼女と温もりデート パート2


「湊はあっち! わたくしはこっちなの! ついて来ては駄目よ?」

「行かねーっての!」

「き、来てくれないの?」

「行けるわけないだろうが! 更衣室に入ったら俺は連行確実だ!」

「湊に見ていて欲しいのに……駄目なの?」

「可愛くお願いして、俺を処刑するつもりか?」

「しょ、しょうがない人ね。いいわ、一人で着替えて来るわ! あなたも早く着替えて来なさい」


 駄々っ子お嬢様ことさよりは、俺を二人きりデートに誘い学校から連れ出した時点で、既に甘々なさよりと化していた。


 時すでに遅しだったと気付いたのは、まさに更衣室のくだりである。


 以前屋内プールに来た時、浅海たちに色々と邪魔された経験があり、それがさよりにとってのトラウマになっているらしく、あろうことか着替えを見て欲しいと言い出した。


 本来であれば嬉しい申し出と言っていいが、公共の屋内プールでそんなことをしてしまえば、通報の後にどこかへ連れて行かれてしまうだろう。


「ふふっ、相変わらずだね、湊」


 さよりがこの場からいなくなり、自分自身は速攻で着替えを終えて適当な所で立っていると、水着美少女が声をかけて来た。


 しかしソイツは見慣れた男の娘だった。


「……お前、学校は? 肝心な時に護衛にいなくて、どうして今なんだよ? 浅海」

「湊が溺れたら、キスを……じゃなくて人工呼吸をしないとダメかなって」

「止せ、ヤメロ」


 さよりが近くにいない時だけ俺の前に姿を見せる浅海は、スタイル抜群な男の娘姿で現れた。


 平日の午後であまり一般客がいないといっても、浅海の線の細さはもはや神秘的なことから、野郎の視線がかなり来ている。


「彼女とどうなるつもりでここに?」

「さよりが嬉しそうにしていたからな。裏切らない行動を取っているだけだ」

「栢森の指示だから?」

「別にそれだけじゃない……何だよ? 随分突っかかって来るな」

「俺は湊が心配なだけだよ。優しさを出しまくるのは良くも悪くもあるし、好きな人が別にいるのにどうしてなのかなって」


 仮の彼女として指示を受けて付き合っているのは確かだ。だけど、さよりは友達だ。


 隣近所で付き合いもあるし、可愛げがある美少女でもある。


 好きをもう一度確かめる為にも、さよりと長く一緒にいたいと思っているのに、浅海はそれが気に入らないようだ。


「悪いが邪魔をしないでくれないか? 浅海が俺を護衛してくれるのは有り難いけど、今は近くにいなくていい」

「……そっか、ごめん。そこまで言うってことは、鮫浜の影が消えたってことだよね?」

「今は関係ない」

「うん、分かった。ごめん、邪魔するつもりは無かったよ。だけど、俺がここにいるってことは、一人で来たわけじゃないってことも気付いている?」


 浅海だけが来ているわけじゃなく、恐らく嵐花とルリも来ているのだろう。それこそ、以前と似た状況にしようとしているのはバレバレだ。


 嵐花とルリと浅海で、俺とさよりに接触をするということなのだろう。


 浅海が俺の所に来たということは、今頃さよりには嵐花とルリが話しかけているのか?


「浅海! 俺はこれから処刑覚悟で行って来る。この間に帰っていいからな!」

「……そうか、湊は傾きつつあるんだね。そういうことなら、止めて来るよ。じゃあね、湊」

「ん? じゃあな、浅海」


 さよりと甘々なプールなひと時……というわけでもないが、以前の自分と違って、浅海には邪魔をして欲しくないと思って強く言ってしまった。


 たとえ仮の彼女でも今のさよりには、不安は与えたくないと思えた。


 さて、もしかしたらさよりと嵐花たちで言い争っている可能性があるが、女子更衣室に突入してみるとする。


 監視カメラに見られている時点で、通報確定である。


「さ、さより、いるか?」


 返事が無い……もしかして嵐花に言い負かされて、泣いているとかじゃないよな。


「は、入りますよ? すみません、怪しい者じゃありません……僕の彼女がそこにいまして――」

「そこに誰かいますの? 申し訳ないのだけれど、髪を束ねるためのゴムを取っていただけないかしら?」


 更衣室に人の気配は無く、聞こえて来ているのはさよりの声だったりする。


 しかも見知らぬ人に髪留めのゴムを取ってくれとか、中々図々しい奴だ。


 後ろ姿なのに、以前拝んだ時よりも色気が増しているように見えているし、日焼けの無い白い肌には、ドキッとさせられる。


「……どうして鏡が無いのかしらね? あなたもそう思わない?」

「エエ、ソウオモイマス(裏声)」

「よしっと! これで長い髪を一つにまとめられたわ。どなたか存じませんけれど、ありが――」

「よ、よぉ……」

「み……みな――んんんっ!?」

「声を張り上げるなって!」

「ムームームームー!!」


 咄嗟にさよりの口を塞いでしまったが、誰もいないのだから声を張り上げられても良かったか?


 しかし浅海の言い方では、ここには嵐花とルリが来ている筈だったのに、ここには水着のさよりしか見えないし、他の客の姿も無い。


「あ、悪い、苦しいよな」

「み……」


 あぁ、しくった。


 さよりにぶたれ、直後は連行される運命が待ち受けているのか。


「完全に俺の早とちりだ。ごめんな、さより」

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