ただ生まれ変わっただけだなんて、そんなことなかった
アレクと王子が6歳、私が8歳になったころ、王子は王弟殿下の手を回し、王族教育を受けるようになった。
そのため、月に一度程度しか我が家に来ることはなくなっていた。
王子のことを心配に思いながらも、子供の身ではなかなか王城へ行くこともできず、我が家に来た時にたくさん可愛がることしかできないでいた。
皇帝は王子をずっと放置しているので、王弟殿下が王族教育を受けさせるように手を回してくれたことは、とてもいいことである。
王弟殿下がいなかったら、王子は教育を受けることがないまま大人になってしまうところだったのだから。
だけど、離宮で寂しく過ごしているのではないかと思うと、どうしても心配になってしまうのである。
そんなある日、私とアレクは王城のパーティーに呼ばれていた。
第2王子が5歳になったので、子供たちだけで交流を深めさせるためのパーティーである。
未来の側近や婚約者探しとも言えよう。
第2王子が5歳になったからというのが、いささか気に食わないが、王城でのヴィンセント王子の様子も気になっていたので、いい機会だと思えなくもない。
内心はとても面倒くさいのだが。
「ねえさま、ヴィンセント王子は元気かな? 一緒にお城でも遊べる?」
アレクはヴィンセント王子と、我が家以外の場所でも会えることにウキウキしているようで、とても楽しそうだ。
「うーん、多分遊べないかなー」
私は楽しそうなアレクを横目に、衣装合わせですでに疲れ果て、死んだ魚のような目をしながら答えた。
「早く王子に会える日、来ないかなー。あと何回寝たら王子に会える?」
ソファーの上でぴょんぴょんと跳ねながら、ニコニコと笑うアレク。
王城に着ていく服を合わせる時も、初めてのお出かけということもあってソワソワしており、じっとしていない。
仕立て屋も大変そうだった。
そんなこんなで、王城へ向かう日になった。
もちろん、子供だけで城へ向かうわけにはいかないので、お父様と一緒に登城することになった。
ここは王都で、私たちは普段、伯爵領ではなくタウンハウスに住んでいる。
実際に生まれたのは伯爵領らしいのだが、赤ちゃんの頃にはもう王都に住んでいたため、伯爵家の屋敷から外へ出たことは一度もない。
そのため、実質的に私とアレクは、これが初めてのお出かけである。
王都は安全ではないわけではないが、8歳までは私用で外に出ないようにと言われている。
そして、ちょうど私は今年8歳になったので、外に出てもいい年齢なのである。
結局、王城へ向かう予定ができてしまったため、まだ私用では外に出ていないのだが……。
ということで、初めてのお出かけに、私もアレクも大はしゃぎだった。
「うわー!」
「ねえさま、見て!」
馬車の窓にへばりつきながら、目に入るものすべてに大きな声を上げる。
「お父様! あれは図鑑で見た市場というものですか!?」
「お父様、たくさん人がいます!」
見たものをひたすらお父様に報告する私たち。
最初のうちは一つ一つ答えてくれていたお父様だったが、あまりにも報告するものだから、最後には苦笑いを浮かべながら、
「わかったから」
と言ってきた。
お父様も疲れたようである。
元々そんなに距離があったわけでもないので、あっという間に王城へ到着した。
「ここからはちゃんと大人しくするんだぞ」
お父様が真面目な顔でそう言うので、私とアレクは思わず背筋をぴんと張った。
そんな私たちを見て、お父様は苦笑いを浮かべた。
すでにそこには、列をなすように馬車が止まっている。
どうやら、私たちより爵位が低い貴族の子供たちから順番に入場しているようだった。
フォンクライスト家は伯爵家だが、伯爵家の中でも中の上といったところだろうか。
伯爵家の中でも十番目くらいなので、最後から5番目くらいになる。
「ほら、教えてもらったマナーと作法をしっかり守って、参加するんだぞ?」
最後にお父様からそう釘を刺され、私とアレクは言葉を出すこともできず、大きくコクコクと頷いた。
いよいよ、パーティー会場へと足を踏み入れた。
子供だけの集まりということもあり、名前を呼ばれて入場したりはしないようだった。
お互いに顔見知りの者もいるようで、すでにいくつかのグループができている。
ヴィンセント王子は、まだ入場してきていないようだった。
「ユリウス王子よ!」
「王子がいらっしゃったわ!」
その顔をすでに知っている令嬢たちもいるのか、第2王子と思しき男の子は、一気に子供たちに囲まれていた。
第2王子であるユリウス王子は、現王の実の息子である。
ヴィンセントとは対照的な黒髪をしており、女性が好みそうな中性的な顔立ち。
なんなら、まだ幼いこともあり、女性にも見えるような姿をしていた。
王子も王子で、まるで前世のアイドルかのように、一人ひとりに笑顔で対応している。
ファンサービスがすごい王子のようだ。
あれは確かに、地位も相まって皆に好かれるであろう。
「ユリウス王子といえば、どんなに爵位が低い者にも同じように声をかけてくださるのよ」
「一度話しただけなのに、僕のことを覚えていてくださったんだ」
「まだお若いのに、素敵……」
男女問わず、黄色い悲鳴が聞こえてくる。
5歳であの達観した王子はすごい。
正直、もっと嫌なやつかと思っていたのに・・ただのファンサマシーン王子ではないか。
私は思わず感心してしまっていた。
「そこのお二人は、もしかしてアレクシス令息とライザ嬢でしょうか?」
背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向くと、そこにはヴィンセント王子が立っていた。
普段の服とは違い、王子らしい服を着ている気がする。
「ヴィンセン……うぐむ!」
アレクがいつものように、大親友である王子を見つけて名前を呼びながら抱きつこうとした。
しかし、それは王子の手によって阻まれた。
王子がアレクの口を塞いだのである。
アレクはきょとんとした顔で王子を見つめる。
すると王子は、口元に指を当てながら、
「私は引きこもりすぎて、あまり外に顔が割れていないんだ。このままにしておきたいから、名前を呼ばないで」と伝えてきた。
なるほど。
だからか。
ヴィンセント王子はユリウス王子とは違い、じゃじゃ馬……でではなく、取り巻きはいないようだ。
特に入場する時も名前を呼ばれたりはしなかったので、まだ正体がバレていないのだろう。
私とアレクは顔を見合わせる。
そして、大きく無言で頷いた。




