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闇を抜けると彼と出会った図書館に辿り着いた。
ここは、ベリル達と調べたはずだが……。
何か見落としがあったのだろうか。
そんな予想とは異なり、彼の足は別館へと向かっていく。
あそこは許可証がないと入れないはず。
その許可証だって、誰彼構わず貰えるものじゃないだろう。
彼は私が想定しているよりも、ずっと身分が高いのかもしれない…。
「何があっても声を出しちゃいけないよ。いいね?」
振り返ったラグナスに、しっかりと頷く。
彼はそれを満足げに見つめると、門番の元に近づいた。
「やぁ、入館許可をもらいたいんだけどいいかな?」
険しい顔をした男は、ラグナスの魔性の笑みを受けた途端、すぐさま表情を崩した。
「きょ、今日もお勉強ですか?捗りますね!ごゆっくりどうぞ」
男はソワソワと目線を彷徨かせながら扉を開く。
後ろにいる私に気づく様子はない。
きっと、彼の力だ。
約束を違えないように、手で口を塞いだ。
・・・
手を引かれ、大理石の足場を踏む。
屋敷の中には、高位の魔法使いらしき者が複数いた。
彼らは、ラグナスを見かけると深く頭を下げて去っていく。
その正体に気づく者はいなかった。
階段を登って、一番奥の部屋に辿り着く。
ラグナスは部屋に入ると、すぐさま一番奥にある鍵付きの本を取り出した。
静かな部屋にページを捲る音だけが聞こえてくる。
やがて、その手が止まると赤い目がこちらを向いた。
開いたページに視線をおろす。
………
天に最も近しい所、行き来するための鍵あり。
かつて愛に溺れた魔法師は、愛する者がいる異世界を夢見た。
研究の末、見つけた鍵と扉。
それを使い、愛する者の所に何度も飛び立った。
今は亡き彼の残した鍵は、大樹の下に埋められている。
………
隣のページには、その鍵と思われる絵が載っていた。
銀色の鍵の持ち手には、夜空を思わせるラピスラズリが飾られている。
ーーーこれさえあればヒマリを元の世界に帰せる。
本を持ち出すことは不可能だろう。
私は覚えられる限りの情報を頭の中に叩き込んだ。
・・・
ひとしきり読み終わると、別館を後にする。
最後まで私がいることに気づく者はいなかった。
悪魔の使う力は相当強力らしい。
手を引かれて、またあの闇の通路を歩く。
何も考えずに頼ってしまったが、彼に返せるようなものが手元になかった。
どうお礼ししたものか……。
「何をそんなに悩んでいるの?」
頭をぐるぐる巡らせていると、彼が不思議そうにこちらを振り返った。
「すまない。せっかく願いを叶えてもらったのに、君が満足するようなものを返せないかもしれない」
「あははっ!そんなこと気にしなくてもいいのに。僕たちはもう友達だろう」
甘く誘うような眼差しが向けられる。
吸い込まれそうなその瞳から思わず目を逸らした。
「親しき仲にも礼儀ありというだろう。何か欲しいものはないのか?」
「魂?」
「それ、以外で」
「ふふっ、冗談だよ。ダルカンは真面目で面白いね」
「………あまり、揶揄わないでくれ」
「そういう性質なんだ。欲しいものかぁ。そうだな……。それなら、またこうやってデートをしよう」
「そんなことでいいのか?」
「うん。悪魔はとっても寂しがりやなんだ。僕の話し相手になってよ」
「それは構わないが…。我々はもうすぐこの国を出るぞ」
「大丈夫だよ。君の夢を通じて会えばいい。これからよろしくね、ダルカン」
彼はキラキラとした笑顔を向けると、距離を詰めて身を寄せた。
身体が制御を失ったようにピシリと固まる。
暗い空間に、クスクスと楽しげな笑い声が響く。
またしても、揶揄われているようだ。
傷つけないように優しくその肩に触れる。
するりと身体が離れ、また手を握られた。
「ダルカンは照れ屋だね。さあ、帰ろうか」
その手に従って暗闇を歩く。
しばらくすると出口へと繋がる扉が現れた。
彼の手が扉を開くとホテルのすぐ前に出る。
すぐ横で情報共有をしていたらしい、ベリルとヤイラの姿が見えた。
「おや、お仲間がいるみたいだね。あとは一人で帰れるかな?」
「ああ。見送ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
それじゃあと彼が背を翻す前に、ベリルの声が近くで聞こえた。
「ダルカンっ!と…、君は昨日の?」
「やぁ、こんにちは。少し仲間を借りていたよ」
「だれ?」
ヤイラが警戒したように、彼を見つめる。
「昨日から友人になった男だ。今日は手掛かりを一緒に探してくれていた」
「ふぅん。友人、ね」
「手伝ってくたんだな。感謝する」
「気にしないで。僕が彼と一緒にいたかっただけだから。………おや?」
彼は突然後ろを振り返ると、すぐさまホテル側へ近づいていった。




