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「それじゃあ、俺たちも行こうか」
フェルくんの案内に従って、魔法局へと向かう。
私、生きて帰れるのかな…?
彼等の話を聞くほど不安が込み上げてきた。
「ヒマリちゃんもう直ぐ着くよ。あまり心配しないで、俺が守るから」
「フェルくん…。ありがとう、私頑張ります!」
その言葉になんとか持ちなおす。
心強い仲間がいるのだ、心配する必要なんてない。
何より、早く帰って家族の顔が見たかった。
朝、喧嘩しちゃってごめんねってお母さんに謝りたい。お父さんにはいつもありがとうって…。
そのためなら、ちょっとやそっとのこと我慢出来る。
頬を叩くと、ムンと気合を入れた。
「ここだよ」
フェルくんの言葉に顔をあげると、目の前にキラキラと輝く虹色の扉が立っていた。
その前にも後ろにも建物らしきものは見当たらない。
「えっと、?」
彼に促されて、虹色のドアの前に立つ。
「さあ、どうぞ」
大きな手が上から重なり、扉を開けた瞬間。
幼い頃に見た、夢のような空間が広がった。
辺り一面に水鏡のような水面が広がり、桃色の空と瞬く星々を写している。
水面からは木々が逆さに伸び、枝先には銀色の花が咲いていた。
その奥には、宝石のように輝くお城が、桃色の空を貫くようにそびえている。
「わあっ!とっても素敵…」
はやる気持ちのまま、一歩前に進む。
ピチャリ
足は沈むことなく、水面の上に立った。
なんだか不思議な気分だ。
「すごいっ、凄いですフェルくん!」
その場で駆け出し水面で足を動かす。
どれだけ踊っても、水の中に落ちる気配はなかった。
「うおおお!本当だな!初めて見たぞっ」
「あはは、喜んでもらえたらならよかったよ。ほら、先に進もう。魔法局はあそこだよ」
二人と並んで豪華なお城に向かう。
不安な気持ちは、異世界に関する興味で少しだけ薄れていた。
・・・
魔法局の扉を開けた瞬間、フェルジスは後悔した。
上階の方では、魔力が暴発する気配が複数する。
奥へと続く扉には、禁じられた魔法が行使された痕跡があった。
…‥まるで無法地帯だな。
彼女を連れてくるのは早計だったかもしれない。
こんな魔の巣窟で、小ネズミを差し出すようなものだ。
受付の綺麗なお姉さんに事情を話すと、すぐさま別室に案内された。
チラリと仲間の方を見る。
ヒマリはキラキラと窓の外を見つめている。
外には魔法生物が自由気ままに飛んでいる。
普通お目にかかれないような個体ばかりなので珍しいのだろう。
ナルクはソワソワと周囲を見渡していた。
勘の鋭い彼のことだ。
上階や地下を歩く魔法師達の気配に気づいているのかもしれない。
どうか偏屈な魔法師達に喧嘩を売らないことを願うばかりだ。
思わずため息を吐きそうになっていると、部屋の扉を軽く叩かれる。
少しして、銀色に輝く髪を緩く三つ編みにした男が部屋に入ってきた。
上質なローブを纏い、ひらりと覗いた紫の裏地から高位の役職に就く者だと分かる。
年もかなり重ねているのだろう。その身には、幾重にも積み重なった魔力が年輪のように刻まれていた。
——恐らく彼も、本物の魔法使いだ。
「やぁ、君が異世界から来たお嬢さんかな?」
彼は、ヒマリに目を向けるとニコリと優しげに微笑んだ。
「は、はいっ!私がヒマリです!」
「うん。元気があるのは良いことだ。異世界に帰る方法を探していると聞いたけど、間違いないかい」
「間違いないですっ」
「突然連れて来られて、さぞかし怖かっただろう…。召喚された聖女の中には、君と同じようにここに来た子もいたよ」
「他の聖女…、その人は帰れたんですか?」
男は首を振った。
「当時の魔法技術では叶えられなくてね。この地で息を引き取ったよ」
「そう、ですか」
「心配しないで、帰る方法を一緒に探そう。聖女召喚は、数百年前から続く悪習だ。涙を流す彼女達の努力もあって異世界研究は日々進歩している。今度こそ元いた世界に帰ろう。さぁ、こっちにおいで」
細長い手が伸びヒマリをエスコートする。
俺とナルクは、その後ろにピタリと付いていった。
………どこか嫌な予感が拭えない。
ヒマリに何も起こらないことを願って、上へと続く階段を登っていった。




