27
ヒラリと目の前を蝶が舞う。
扉の先には、花々が咲き誇る温室が広がっていた。
ガラス張りの天井からは光が柔らかく差し込み、中央には白亜のガゼボが佇んでいる。
どこからともなく聞こえる噴水のせせらぎに、自然と肩の力が抜けていった。
「ここは…」
「僕のお気に入りの場所なんだ。こっちにおいで」
手を引かれてガゼボまで歩いていく。
彼は慣れた手つきで椅子を引き、静かに席を勧めた。
上質な布張りのソファに腰を下ろす。
柱に絡みつくジャスミンの甘い香りが鼻をくすぐった。
「すぐにお茶の準備をしよう」
彼が指をひと振りすると、茶器がひとりでに動き始めた。
ポットからコトコトとお湯が沸く音がする。
茶葉の入ったティーポットにお湯が注がれると、辺りにジャスミンを思わせる甘い香りが広がった。
美しい紋様が施されたティーカップは自ら湯通しを済ませ、くるりとソーサーへ戻る。
コトリ
目の前に茶器が運ばれ、琥珀色の紅茶が静かに注がれる。
その隣には三段のティースタンドが置かれ、サンドイッチやスコーン、小ぶりなケーキが並んだ。
「どうぞ。君の口に合うといいんだけど」
「……すまない。こういう場は慣れていないんだ。無作法があれば許してくれ」
「ふふっ、君と僕しかいないんだから気にしないで」
彼に促されて紅茶を一口飲む。
花を思わせる華やかな香りが口の中に広がった。
「美味しい…」
思わず見つめてしまった水面に、鉄の鎧が映る。
そのアンバランスさがどこかおかしかった。
「気に入ってもらえたなら良かった」
彼はニコリと笑うと、優雅な所作で紅茶を口にした。
整った容姿も相まって、まるで一枚の絵画のようだ。
「ねぇ、ダルカン。君のこともっと知りたいな。どうして人間と旅をしているの?」
「一人よりも効率がいいし安全だからだ」
「仲間に気付かれる危険性よりも?」
「ああ。この鎧だと怪しまれることが多い。だが、仲間がいればある程度誤魔化すことができる」
「たしかにその姿は目立ちそうだ。鎧を着ているのは、魔人であることを隠すためかな。それ、君の身躯よりも遥かに大きいよね」
「………分かるのか」
「うん。だって君女の子でしょう」
思わずピシリと身体が固まる。
たしかに、彼の行動を振り返るとあまり同性にする仕草とは思えなかった。
魔人だと言い当てられることはあったが、性別まで看過されたのは初めてだ。
「どこで分かったんだ」
悪い箇所があったのなら、至急直さなければ。
フェルジスやヤイラは勘が鋭い。
初対面の彼にバレたのなら、彼らにいつ見破られてもおかしくなかった。
「こんなに美しい人が男性だとは思えなかったから」
「………」
思わずジトリと睨みつけてしまう。
鎧越しの姿しか見ていないのに、何を言っているのだろうか。
「ふふっ、そんなに睨まないで。美しいと思ったのは本当だよ。外見ではなくて"魂が"だけどね。」
「魂」
「うん。僕、悪魔なんだ」
彼は、人を狂わせそうなほど妖しく笑った。




