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傷ひとつない白い手が鎧の手を持ち上げる。
そのまま、指先に軽くキスを落とした。
「ダルカン、本当の名前を教えてくれないのなら、僕に君の時間をちょうだい。きっと、後悔はさせないから」
至近距離で赤い瞳と目が合う。
蠱惑的なその瞳は、吸い込まれそうなほど妖しく輝いていた。
早く手掛かりを見つけて、この国から離れなければならない。
そう頭では分かっているのに、気づけば首を縦に振っていた。
「分かった。だが、仲間を待たせているんだ。もし時間がかかりそうなら、一言伝えてきてもいいか」
「もちろんだよ。彼のことかな?」
パチリ
彼が一つ指を鳴らすと、ベリルが通路から顔を出した。
「………」
「ああ、ここにいたのかダルカン。手掛かりは何かありそうか……ッて、すまない。取り込み中だったか」
慌てたようにベリルが目を離す。
目の前の男は、私の鉄の手を握ったままだった。
「誤解するな、ベリル。丁度良い文献ならあった。中は今から確認するところなんだが……、少し用事が出来てな。席を外しても良いか」
「あ、ああ。その、彼は知り合いか?」
「初対面だよ。僕はラグネス。君の仲間に一目惚れしたんだ。デートに誘っても良いかな?」
「デート?!えっと、ダルカンは同意しているのか」
ベリルの瞳がぐるぐると回っている。
相当困惑しているようだ。
巻き込んでしまった罪悪感がヒシヒシと胸を打つ。
「同意済みだ」
「そう、か…。その、本人の同意を得ているのなら問題ない。が、大切な仲間なんだ。くれぐれも傷つけないでくれ。ダルカン、ここが今日の宿泊地だ。あまり長居はせず早く帰ってこいよ」
彼はホテルの紙を渡すと、ラグネスから書籍を受けとった。
そのままフラフラと去っていく。
仲間が突然男に目覚めて、衝撃を受けたのかもしれない。
「それじゃあ行こうか。こっちだよ」
彼はそんな様子を気にすることもなく、繋いだ手を引いた。
つま先が向く方向にあるのは、白い壁だけだ。
迫り来る障壁を気にする様子もなく、男は足を進める。
ズプリ
彼の身体が壁の中に沈んでいく。
通路を通る人は誰もこちらに気づいていないようだった。
まるで透明人間にでもなったかのようだ。
一つ息を吐くと、彼を追って壁の中に身体を沈めた。
・・・
暗い空間を進み続ける。
手を引かれているおかげか、夜目が効かなくても躓くことはなかった。
「ねぇ、ダルカン。君はこの国に何をしにきたの?」
「異世界について調べるためにきた」
「そのためだけに、こんな危険な国へ?」
「ああ」
「君の行動原理がよく分からないな」
「そうか。ラグネスは何故この国にいるんだ」
「産まれたのがこの国だったんだ。そのままずっとここで暮らしてる」
「……魔人だと気付かれなかったのか」
「見抜いたのは乳母だけだよ。その彼女も数十年前に病で亡くなっていてね。今はもういない」
少し前を歩いていた身体がピタリと止まった。
「話している間に着いたみたいだ」
ぼんやりと、目の前に扉が見える。
彼がドアノブを引くと、眩い光が辺りに差し込んだ。




