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偽りだらけの冒険記  作者: Ka
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大きな扉を開くと、消毒液の匂いがツンと鼻を突く。

室内には、天蓋付きのベッドが複数並んでいた。


その一つに、彼女がぐったりと横になっている。

すぐ隣には、心配そうに寄り添うベリルの姿が見えた。


「ヒマリの容態はどうだ?」


「ダルカン!?良かった…。無事に戻って来れたんだな」


ベリルは慌てて立ち上がると、怪我がないか隅々まで鎧を確認した。随分と心配をかけてしまったらしい。


「勝手な行動をしてすまない」


「いや、無事に戻って来れたのならそれで良い。ヒマリは、少し気分が悪くなったみたいなんだ」


「あの惨状は予想してなかったもんね…」


「ああ…」


「フェルジスとナルクは?姿が見えないけど」


「二人は宿屋を探しに行った。しばらくは帰って来ないだろう。ヤイラ、ひまりの様子を見ていてくれるか?俺は手がかりを探しに行ってくる」


「分かった」


「ダルカンは俺について来てくれ。高い所にある本は頼んだぞ」


「承知した」


・・・


四階に辿り着くと、手分けして本を探す。


『異界学概論 』『宇宙異界論』『召喚術理論』『世界の狭間』『世界間干渉理論』『異世界渡航術』………。


さすが世界一の魔法帝国だ。

異世界に関する文献も多く取り揃えている。


その中に一つ気になるタイトルがあった。


『異世界渡航術』


この本であれば、異世界に帰る手掛かりが書かれてあるのではないだろうか。


最上段に置かれた本へと手を伸ばす。


指が背表紙に届く前に、本がひとりでプカプカと浮いた。


「取りたかったのはこの本?」


集中していたせいだろうか。

後ろに立つ気配に全く気付かなかった。


慌てて振り返ると、そこには金髪赤眼の男が立っている。

男は恐ろしいほどに顔が整っていた。


肌は陶磁器のように美しく、血のように赤い瞳は黄金色の睫毛に彩られている。柔和な笑顔を浮かべるその姿は、まるで物語に出てくる王子様のようだ。


ドクドクと心臓が強く脈打ち、浅い息が漏れる。

本能的な勘が危険警報を鳴らした。


「もしかして、違ったかな?」 


「………いや、この本だ。協力感謝する。それでは失礼」


トンと足が触れ合う。

出ようとした方向に、彼の足が伸ばされていた。

そのまま一歩距離を詰められる。


左は壁、右は足、後ろには書架、目の前には男の身体……。

完全に退路を塞がれている。


「どういたしまして。異世界に関する本を探しているの?」


「そうだ。すまない、今は急いでるんだ。通してもらってもいいか」


「う〜ん、どうしようか。君が名前を教えてくれたら通してあげる」


「何故、名前を?」


彼は長い睫毛を伏せ、思案するように首を傾げる。


やがて答えに辿り着いたのか、花弁が開くように瞼が持ち上がった。


「君のことが気になったからだよ」


「………。知らない人に名前を教えるなと言わている」


「僕はラグネス。これで知らない人じゃないよね」


その赤い瞳に見つめられると、捕食者を前にした獲物のような気分に陥った。


名前を言うまで解放する気がないらしい。 

彼はただでさえ近い距離を、また一歩詰めてきた。


「……ダルカンだ」


「それが君の名前?」


「ああ」


「それ、本当の名前じゃないでしょう。僕が聞きたいのは、"君自身"の名前だよ」


彼の口ぶりは、それが偽名だと確信しているようだった。


思わずゾクリと背筋が凍る。

ずっと感じている違和感に輪郭がついていく。


目の前の男は、ーーーー恐らく魔人だ。

それも、悪魔や吸血鬼のような強大な力を持つ魔人。


不用意に真名を明かせば、命を握られかねない。

だからといって、上辺だけの言葉で彼が納得するとも思えなかった。


「…………ラグネス。貴方は人ではないだろう。すまないが、名前を伝えるには躊躇してしまう」

 

クスクスと鈴を転がしたような笑い声が聞こえる。

至近距離で合った瞳は楽しげにこちらを見ていた。


「君だって魔人でしょ?」


「……何故俺に構うんだ。残念ながら俺に出来ることはない。放っておいてくれると助かるんだが」


「僕はただ、お話しがしたいだけだよ。久しぶりなんだ。まだ()()()()()魔人と出会えるのは」


「………」


「もうここは見て回った?酷い有り様だっただろう。魔人として捕まったら最後、死体のように生きるか、本当の屍になるかだ」


「…………」


「ねぇ、君は人間の仲間と来ているんだよね。彼等は君の正体を知っているの?」


「何故そんなことを聞く」


「人間はときに残酷でしょう。自分と大切な人を守るためなら、どんな犠牲も問わない。……もし君の正体を知ったらどんな反応をするのかな?」


「……それは脅しか」


彼は人々を魅了するような蠱惑的な笑みを浮かべた。

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