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リーヘン帝国。
魔女アイオーンが、骨を埋めた地。
美しい街並みと華やかな暮らしぶりから、人間と魔女の楽園と呼ばれている。
その反面、魔人にとっては血で塗られた国でもある。
各国の中で、最も魔人の殺害および奴隷化数が多いのはリーヘン帝国だ。
華やかな生活の裏には、奴隷化した魔人の無償労働と襲った街から得た戦利品が隠されている。
いわずもがな、私の故郷を襲ったのもこの国だ。
その危険性を考えると、なるべく避けて通りたい国ではあった。
しかし、異世界転移について調べるうえで、この国ほど有益な情報が得られそうな場所はない。
帰りたいと願ったヒマリの涙を思い出すと、行かないなんて選択肢はなかった。
それに、個人的にも調べたいことがある。
私の故郷は、決して人が立ち入れないような聖域にあった。
それにも関わらず、武器を持った人間が大量に流れ込んできたのだ。
人間の力だけでは恐らく不可能だろう。
きっと、魔女または魔法使いが一枚噛んでいる。
彼等が、どうやってあの聖域へ侵入したのか。
その真相を突き止めたかった。
侵入したギミックさえ解明出来れば、それを逆手に取って、絶対に襲われない安寧の地を築けるかもしれない。
魔人にとっての安住の地をつくる。
それは、同胞を失った日から、自らに課した使命だった。
・・・
ラクダを走らせ、数日間。
ようやく、リーヘン帝国の国境地帯、ベルアナに辿り着く。
鎧を脱げないことにより、衛兵からあらぬ疑いをかけられたが、冒険者カードと仲間の援護のおかげで何とか入国できた。
ギルドに寄ってラクダを返すと、オススメの宿屋を教えてもらう。
聞けばここから少し離れた場所に、バスタブ付きのホテルがあるらしい。ヒマリの大きな頷きによって、悩む手間も無くすぐにホテルが決まった。
ギルドが代わりに予約してくれるとのことだったので、ありがたくその言葉に甘える。
今日は空室が多かったのか、一人一部屋が与えられた。
「良かったですね!まだ空いていて」
「ああ。久しぶりにゆっくり寝られそうだ」
「砂の上じゃ、あんまり眠れなかったもんね」
「しばらく砂漠での野営は勘弁かな。それじゃあ俺は街へ出かけてくるね!」
フェルジスはお茶目にウインクすると、サッとその場を去ろうとする。
それを小さな手が引き止めた。
「フェルくん、行っちゃうんですか…?」
ヒマリが、潤んだ瞳でフェルジスを見つめる。
前回街に寄ったときも、彼は別行動だった。
普段一緒にいるからか、寂しいのかもしれない。
「この街が俺を待っている気がするんだ」
「その、寂しい、です。どうしても行っちゃうんですか?」
「寂しい思いをさせてごめんね、ヒマリちゃん。でも、ときには離れる愛も必要でしょ?」
「うぅん。愛はよく分かんないですけど、今度こそ一緒にご飯食べにいきましょうね。約束ですよ?」
「ヒマリちゃんの誘いなら喜んで。じゃ!俺は行くね♡」
フェルジスはルンルンで、出掛けて行った。
早速街を歩いている綺麗な女性に声をかけている。
それを、ヒマリが複雑そうな顔でジトリと見つめていた。
その日は、食堂で夕食を囲むと各自ホテルでゆっくりと休んだ。
想像以上に体力を消耗していたのだろう。
朝まで、泥のように眠り続けた。
・・・
首都フェラデールに向かって、馬を走らせる。
森を超え、農村地を通り、通りがけの街による。
そこで過ごす人々は幸福な日常を送っていた。
大きな家に、高い賃金、安い物価、社会福利も手厚く病院・学校・施設などが全て無料で提供されている。
街の人々は笑顔で溢れ、旅人である我々にも親切に接してくれた。
その反面、路地裏にはボロボロになった魔人が働き続けている。街中には当然のように魔人販売所が置かれていた。
まさしくここは、"人と魔女の"楽園だった。




