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拠点に戻ると、良い匂いが漂ってきた。
スープとパンが焼ける匂いだ。
「おはようございます、ダルカンさん。もうすぐ朝ご飯ができますよ〜!」
聖女、ヒマリが柔らかな髪をふんわりと揺らし、振り返る。
彼女は、2年前に異世界から召喚された、特別な聖女様だ。今は諸事情で、この冒険者パーティーに籍を置いている。
戦闘は得意ではないが、皆を生活面から支えてくれる優しい女の子だ。
「何か手伝えることはあるか」
「ありがとうございます!それなら、この薬草を切って、スープに入れてもらっても良いですか?」
「承知した」
包丁を手に取り、薬草を細かく刻んでいく。
彼女からは、いつも神聖な魔力が漂ってくる。
ただ、側にいるだけで癒されるのを感じた。
「おはよ、皆んな早いね〜」
振り向くと、魔法使いフェイジスが眠そうに目を擦っている。
「おはようございます!フェイくん」
「ヒマリちゃん、おはよう。今日もとっても可愛いね」
彼はヒマリのすぐ後ろに立つと、サラリと髪を撫でた。
「ひゃっ!もう…イタズラしないで、顔を洗ってきてください!」
彼女がプクリと頬を膨らませる。
睨みつけるその表情に恐ろしさはなく、ただ愛らしいだけだった。
「は〜い、朝ご飯楽しみだよ」
フェイジスは、ひらひらと手を振り、去っていく。
彼の好色家は有名で、噂に疎いダルカンでさえも、"パーティークラッシャー"の異名は耳に届いていた。
「ヒマリ、これで問題ないか」
小皿にスープを掬うと、彼女が一口味見をする。
「完璧です!」
「よかった。他に手伝えることがあったら言ってくれ」
「う〜ん。それなら、ヤイラ君を起こしてもらってもいいですか?」
「勿論だ」
木陰の下、長いまつ毛を伏せてヤイラは眠っていた。
近くでナルクの元気な声が聞こえくるが、彼が起きる様子はない。
少し躊躇った後、その小さな身体にそっと触れる。
ゆさゆさと揺らすと、少しだけ目が開いた。
とろんと眠たげな瞳と目が合う。
「おはよう、ヤイラ。朝だぞ」
「んん…いま、なんじ?」
木の影は北西に伸びている。
「10時前後だ」
「ふわぁ…かお、あらってくる」
大きく一つ欠伸をすると、身体を起こしふらふらと水場に向かっていった。
彼がここまで眠そうなのは珍しい。
火の番をフェイジスに変わった後も、あまり眠れなかったのだろうか。
その朧げな足元をジッと見つめた。
簡易テーブルにスープをよそった器を並べる。
仲間が増える度に彫った木の器は、ダルカンにとって思い出の品だった。
「おはよう、ダルカン。今日の探索のことで、相談したいことがあるのだが」
訓練を終えてきたらしい剣士ベリルが、汗を拭いながらやってきた。
ベリルは、最も同じ時間を過ごした仲間だ。
同時に、人と関わるきっかけをくれた恩人でもある。
「何かあったのか」
「実は、散策をしていたときに、魔法で隠された道を見つけたんだ。もしかしたら、ダンジョンがあるかもしれない。…寄ってみないか?」
「俺は賛成だ。そろそろ資金も尽きる頃だろう。街に着くまでに換金できそうなものは集めておきたい」
「なら決定だ。みんなには、食事のときに俺から話すよ」
「頼んだ」
一つのテーブルを囲い、皆で朝食を取る。
温かいスープは、冷えた体に染み渡った。




