18
「ああ。今決まったところだ」
ベリルが軽く頷く。
双子は目を合わせると、手を取り合った。
「それなら、起こしますよ」
「せ〜のっ」
「「侵入者発見!起床の時間だ、ペットサンゴウ!」」
ドドドドッッ
地面が大きく揺れ、地表を割って何かが這い上がってくる。ブロンズ色の巨体が顔を出すと、それはゆっくりと立ち上がった。
全長は、都市を囲む外壁と同じ高さだ。今まで報告が上がらなかったのは、通行人がギリギリ気づかないサイズだったからだろう。
『シンニュウシャ、ハッケン。ハイジョシマス』
赤い目が光ると、一直線に黒いレーザーが伸びる。
少し遅れて、ドンッと重たい音が響いた。
パラパラと瓦礫や砂が落ちてくる。
「……、なるほど。手強そうだな」
『シンニュウシャハッケン。シンニュウシャハッケン』
「街ごと壊すとは思わなかったよ。ベリル、準備はいい?」
「ああ。いつでも大丈夫だ」
「オッケー。それなら、すぐに魔法をかけてあげる。ダルカン、"命大事に"で行動しなよ!」
彼等の身体がふわりと浮くと、急速に青銅に近づいていった。
レーザーが浮遊中に届いたら一溜まりもないだろう。
足元に近づくと、盾で思いっきり青銅を打つ。
赤い魔法石が、こちらを向いた。
その手が組まれると、スローモーションのように腕が降りてくる。
動きは遅いが、地表に当たったときの衝撃波は予想出来ない。
すぐさま身体を翻し、軽い身体で走り去った。
ドォォンッッッ
数分後、落とされた拳が地面に到着する。
拳の周囲35メートル程が、吹き飛ばされていた。
吹き飛んでくる瓦礫を避け、もう一度その巨体に近づく。
その目が届く位置に移動すると、注意を引くように石を投げる。
足の根元が動き、ゆっくりと上がっていく。
追いかけるつもりなのだろう。
ヒマリ達が待機している門とは反対方向に走り出した。
数分おきに、地鳴りは起きた。
彼が地面に足をつけるたびに、周囲は吹き飛び地面が揺れる。
足が長いのか、想定よりも近づくスピードが早い。
どうにかして、奴の動きが止められないものか…。
「ダルカン!今は何が起こってるんだ?」
「っ!無事だったんだなナルク。……いや、無事ではないな」
彼は全身からダラダラと血を流している。
「ハッハッハッ!かすり傷だ!」
「これが片付いたら、すぐに治療しよう。後ろにいるアレの動きを止めたいんだが、何かいい案はあるか?」
「それなら、コイツの力を使えばいい!」
そういうと、ナルクは足で地面を何度か打った。
地下深くから、急速に何かが近づいてくる。
ドンッッッ
大きく砂埃が上がると、先ほど出会った竜人族が目の前に立ち塞がった。
「お前…。本当にいい加減にしろよ。さっきのじゃ足りなかったのか?ア゛ァ?」
その額にはピキピキと筋が浮いている。
「何があったんだ」
「戦いたくて、喧嘩を売った!!」
「おバカ」
思わず"ダルカン"が抜ける。
ナルクは気づいていないのか、高らかに笑っていた。
その間にも青銅の巨体が近づいてくる。
飛んでくる瓦礫を避けながらも、必死に足を動かした。
「うわっ、サイアク!アレには絶対、関わりたくなかったのに」
「俺に捕まったのが運の尽きだな!」
「捕まってないし。喧嘩売られたから買いに来ただけだし」
「仲間が迷惑をかけてすまない…」
「本当にな。次からは首輪、しっかり繋いでおいてくれよ」
「肝に銘じる」
「仲直りだな!俺がお前を呼んだのは、さっきの魔法をアイツにかけて欲しかったからだ!」
「何で俺が…?あと、仲直りじゃねぇし」
「筋違いな頼みだとは重々承知している。だが、どうしてもその力が必要なんだ。どうか力を貸してくれないだろうか」
「………はぁ。まぁ、この地鳴りじゃ昼寝も出ないしな。要は、動きを止めればいいんだろ」
彼は立ち止まると、周囲の砂を動かし始めた。
やがてそれは大きな渦へと変わり、青銅の巨体に纏わり付く。ペットサンゴウは、砂を追い払うように腕を動かした。
散り散りになった砂は、足元や腕に溜まると一気にギュッと固まった。手足を拘束され、その動きが完全に止まる。
「ベリルッッ!今だッッッ!!」
精一杯声を張り上げる。
小さな二つの点が空を駆けるのが見えた。
・・・
目の前に来た赤は、今にもビームを打ちそうでヒヤヒヤする。ここまで近ければ避けようがない。
1メートルほどある石に、力を込めて剣を突き立てた。
腕に振動が伝わり、ビリビリと震える。
突き立てた剣をグリグリと捩じ込んでいく。
剣の半分程が埋まったところで、ようやく最奥まで辿り着いた。そのまま、癒着している何かを削り取る。
ようやく赤い石がポロリと外れ、地表に落ちていった。
「ベリルッ!あと一個」
「ああ!」
もう片方に移動すると、同じように剣を立てる。
その巨体の奥から、プスプスと嫌な音が聞こえた。
「逃げろッッ」
急速に身体を落とす。
目を閉じ、上からも瞳を覆った。
強い光が瞼の裏を強く照らす。
ドンッッッ
遅れて音が上空で弾けた。
奴がビームを打ったようだ。
目を開けて周囲を確認する。
ーーー周囲にフェルジスの気配がない。
一瞬、何も考えられなかった。
もしかして、アイツ……。
「ベリルッッッッ!!負けるな!!!」
地上から兄弟子の声が聞こえる。
一気に意識が浮上した。
今は呆けている場合ではない。
もう一度上空へ飛ぶと、燃えてしまった剣の代わりに小刀を突き刺した。
俺が飛べているということは、アイツは無事だという証拠だ。
小刀は長さが足りない分、先程よりやり辛い。
諦めてその石に直接触れる。ビームを打った直後だからか、肌が焼けるように熱かった。
「アア゛ァアア゛ッッッッ」
顔に足をつき、必死で腕に力を入れる。
何かが剥がれる音とともに、身体がふわりと浮いた。
そのまま、制御を失ったように急速に落ちていく。
視界の端には、落ちていく赤い石が見えた。




