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波止場の迷い犬  作者: 酒酔
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**第十四話 港の闇組織「潮会」**

三日前の電話から一夜明け、俺は鼠の辰を事務所に呼び出していた。

峰岸美咲も同席し、遥は美咲の知り合いの安全な場所に匿わせた。


「辰さん、時間がない。

 佐藤の背後にいる『組織』の実態を全部吐け」


辰は珍しく真面目な顔で、持参したメモを広げた。


「わかった。今回は本気で話すぜ。

 佐藤が所属してるのは『潮会しおかい』ってグループだ。

 表向きは港湾運送会社の協力会だが、実際は横浜港を牛耳る闇組織だ」


辰は声を落として続けた。


**「潮会」の背景**


- 昭和三十年代後半、戦後の港の混乱期に生まれた。

- 元々は山下埠頭と新山下の港湾労働者たちが作った互助組織だったが、

次第にヤクザと癒着し、密輸・裏荷物の仲介を主力に変えた。

- 現在は中国、香港、韓国、台湾のネットワークと強く結びついている。

- 特に中国ルートは強力で、麻薬・偽ブランド・高級品だけでなく、

人材(不法入国者)の斡旋も手掛けている。

- 欧州ルート(美術品密輸)は佐藤が入ってから急拡大した新事業。

佐藤は「潮会」の若手エースとして、このルートをほぼ一人で仕切っている。


「ただし、潮会の中でも派閥争いが激しい。

 佐藤は『改革派』で、派手な暴力は避け、ビジネスライクに事を運びたがってる。

 対する古株の『伝統派』は、麻薬と暴力で稼ぐ旧態依然のやり方を守ってる連中だ」


美咲が眉を寄せた。


「つまり、佐藤は組織内部でも危うい立場ってこと?」


「その通り。

 高城健一が欲をかいたせいで、中国ルートに税関の目が光り始めた。

 これで伝統派が佐藤を潰そうとしてるらしい。

 三日後の『マルセイユ・スター』は、佐藤にとって最後の大仕事であり、

 組織内での生き残りを賭けた勝負なんだ」


俺は煙草を深く吸い込んだ。


「佐藤は海外逃亡を考えてるって話は本当か?」


「本当だと思う。

 成功すれば金を持って姿を消すつもりだろう。

 ただ……娘の遥の存在が、彼の唯一の弱点だ。

 伝統派もそれを知ってる」


辰は最後に、重い一言を残した。


「水野、気をつけろよ。

 これはもう、ただの失踪事件じゃねえ。

 横浜港の闇そのものが動き出してるんだ」


辰が帰った後、美咲が俺を見た。


「どうする? 三日後、本当に船に近づくの?」


「ああ。

 佐藤と高城健一……両方とも生け捕りにする。

 麗華の真意も、そのときに暴く」


俺は窓から見える横浜港の風景を睨んだ。


潮会。

戦後の港から這い上がってきた、欲望と血と金でできた闇の共同体。

その巨大な影が、今、俺たちの上にのしかかろうとしていた。


その夜、事務所の電話が鳴った。

高城麗華からだった。


「水野探偵……三日後の夜、私も港に行きます。

 夫に、直接会いたいんです」


彼女の声は、静かだが決意に満ちていた。


事件は、ついに最終局面へ突入した。

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