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プロポーズをもう一度 6


 長いダンスを終え、シルヴィアが再び会場の歓談スペースに戻ると、偶然人混みから顔を出した一人の男性と目が合った。


 年の頃20代半ば。兄である皇帝エミリオより1、2歳年上くらいだろうか。

 けれどどこか童顔で、極々平凡な役人風の見た目のわりに、着ている服がレムリア帝国高官の式典用礼服であることが目を惹いた。


 そのちぐはぐな印象にシルヴィアが目を奪われていると――、


「これは……皇女殿下。お初にお目にかかります」


 ニコニコと人の良さそうな笑顔で、その青年はシルヴィアに声をかけてきた。


「あなたは……?」

「これは失礼しました。私は、陛下よりガルディア州の統治を任されております、セルウィウス・トゥッリオと申します」

「セルウィウス……?」


 どこかで聞いたような。

 シルヴィアが脳内で記憶を辿ると、兄であるエミリオがよく話題に出す、有能な部下だという若年総督の名が浮かび上がった。


「あなたが兄が話していた総督の……?」

「ええ。いや、まさか皇女殿下に少しでも名前を覚えていただけているとは……光栄ですね」


 そう言って照れながらも、そこには皇族を前にして、萎縮した様子も、緊張した様子もない。

 ごくごく自然体のその様は、まるで久々に会う親戚のように、とても親しみやすいものだった。


「あなたのことは陛下からよく聞かされておりましたので、なんだか他人のようには思えなくて……。つい声をかけてしまいました」


 そう言ってセルウィウスは、皇帝エミリオが語っていたというシルヴィアの話を披露する。


「陛下は隙があればあなたの話をするのですが、絶対に外には出そうとしなかったのは――それほどあなたが大切だったのでしょうね」


 そう、まるでとても近い友人かのように――あの皇帝あにのことを語る。


 その様子にシルヴィアがつい興味を持って、彼のことを詳しく尋ねようとすると――――。



 すっ、と横から進み出る大きな影があった。





()()()()、こちらの方は?」

「あ、ミリウス……」


 シルヴィアより遅れること数分。背後でほかの来客に捕まっていたらしいミリウスが、気づけばシルヴィアの隣まで移動してきていた。


「こちらはセルウィウス・トゥッリオさん。この若さでガルディア州総督を務められているすごい方なのよ」

「……セルウィウス」


 ミリウスはぴくりと反応しその名を呟くと、にこやかに笑顔を浮かべる。


「私はウィルテシア王国王太子、ミリウス・ウィルテシア・ヴェルトリンガムです」


 そう名乗り完璧な所作で自己紹介をする。

 ……のだが、なぜかそこには小さな違和感があった。


(……ん?)


「あなたのように優秀な人材を得て、陛下もきっとお喜びでしょう」

「いやいや、陛下は私のことを面白がっているだけですよ」

「それでも、あの皇帝の目を惹けるだけ『特別』であることに違いない――」


 そうしてスッと目を細める――。


 瞬間、ぴりりと緊張が背に走った気がした。


(??)


 シルヴィアは隣に立つミリウスを見上げる。

 彼はにこやかに社交的な笑顔を浮かべているだけなのに、なぜかそこに棘を感じたような気がしたのは気のせいだろうか?



「陛下は気まぐれな方ですからね。朝下した命令を昼になって取り下げる、百八十度違う指示を出すなんてことはザラです。それに動じず『はいはい』と言って付き合える私が珍しいだけでしょう。それに比べて妹君の皇女殿下は随分素直な方に見受けられる――」


 セルウィウスの優しい眼差しがこちらを向く。


「兄君は怠惰と非情が同居したような方ですが、あなたはとても穏やかで純粋な人柄のようだ。それでいて兄君と本当に瓜二つで……ああ、でも性別が違うからかな。あなたのほうが繊細で柔らかな曲線で、美しい――――」


 そう言ってセルウィウスが微笑んだ瞬間だった。



 ずいっと、シルヴィアの視界を遮るように大きな影が前に立つ。


 影の正体であるミリウスは、まるでセルウィウスからシルヴィアを隠すように立ち塞がると、ますます含みを持った声でその名を呼んだ。



「セルウィウス殿」

「はい」


 不思議そうにセルウィウスが素直に応じる。

 それにミリウスは完璧な笑顔を作り込むと、低く重く響く声で続きを告げた。



「貴殿はとても陛下と親しくされているようだ。ならば妹君のシルヴィア殿のことも――必要があれば――()()()()支えとして尽力いただきたい」

「はぁ」


 なぜそれを異国の王太子から頼まれるのか、セルウィウスの顔には疑問符が浮いている。


「ただし――()()()()()()()()()


(!)


「それ以上の用が彼女にあるときは……まずは()()()()()いただきたい」



 そう言うとミリウスは、ごくごく自然な所作でシルヴィアの腰を引き寄せると踵を返した。


 そうして、シルヴィアを連れ去る直前、耳打ちをするように身を屈め……ほかの周囲にはわからないようそっと耳にキスをして。



「!?」




 驚くシルヴィアの背後では、セルウィウスの苦笑いするような気配がしていた。






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