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プロポーズをもう一度 3


 ミリウスに促され、シルヴィアは私室にある大きな長椅子に腰かける。

 それは日頃シルヴィアが、お茶を飲んだり、読み物をしたり、ちょっとした休憩でくたりと横になったりする……お気に入りの憩いの場所だった。


 そんな、大切な大切な、安らぎの居場所。




 それがいまは――――何故か全然安らぎどころではない、心臓が爆発しそうな危険地帯ばしょになっていた。




「……シルヴィ?」

「!!」


 ミリウスに話しかけられ、シルヴィアは肩を跳ねさせる。


「な、なぁに?」


 なんとか精一杯の微笑みを貼り付け振り向いた先で、隣の極々至近距離に腰掛けたミリウスがじっとこちらを見つめていた。 



(うっ……ち、ちかい……!!)


 ミリウスの、キラキラと光溢れるような笑顔が目に刺さる。

 愛しい恋人を手に入れて、幸せで充足感に満ち足りた笑顔が、それだけで人を攻撃できそうな目映さで光を放っていた。


「~~~~!!」


 シルヴィアは言葉にならない声を上げる。



(まさかミリウスが、こんなにもキラキラしてたなんて……!!)


 今更ながら気づいた事実に、一人(おのの)く。

 恋人としての贔屓目を差し引いても、ミリウスは――とても……とても魅力的な異性だった。


 きらきらと目映く輝く金の髪に、高い鼻筋。

 その面立ちは、百人いれば百人が美男子だとそう言うだろう。

 そしてそれを支える体躯も、どんな傑作と呼ばれる彫刻よりも均整が取れていて。長い手足も相俟って、色恋に疎いシルヴィアでも、両腕を広げて呼ばれれば、ついうっかり吸い込まれていきそうな魅力があった。


 そんな奇跡の造作を持った人物がいま、自分に向かって、信じられないことに、この上なく甘い視線を向けているのである。


(~~~っ!! ど、どうすればいいの……!??)


 先ほどまでは鎧を着ていた影響で、どこか武人めいた荒んだ印象で中和されていたから平気だった。

 が、それを取り去ってみれば、いまの自分の恋人は、正直言って――『視界の暴力』だった。


 あれほどくすんでいた髪も何故かキラキラしているし、風呂上がりだからだろうか、肌もなぜか艶々としているし、何が一瞬で彼をそんなに変えたのか、とてもいきいきとしている。


 そしてそんな魅力的な異性が自分の隣で微笑んでいる事実に、シルヴィアは現実が信じられなくなり――――逃避しようとした。



「あれ、もしかしてこれって夢じゃ……」

「夢じゃない。――というか、絶対に夢にはさせない」


 急にミリウスの顔がさらに近づいてきて、シルヴィアの現実逃避を阻止しようとする。


「シルヴィ」


 とさり、と。長椅子の背もたれに身体を倒されて、その腕の間に閉じ込められる。


「……!!」

「シルヴィ。あなたが誰と結婚するのか、誰を夫に迎えるのか……あなたの口からもう一度言って欲しい……」


 覆い被さられるように、背もたれと彼の身体の間に閉じ込められる。

 そして逃げ場を失ったシルヴィアは喘ぐように言葉を漏らした。


「ぁ……ぇと…………」

「シルヴィは、誰の妻になりたい?」

「…………ぇ、と……。……ミリウス……?」


 期待されていただろう唯一の答えを口にすると、半眼で未来の妻を見据えていた彼は――――心底幸せそうに破顔した。


 そうして未来の妻を抱きしめると、髪や額、鼻先と、至るところにキスを落とす。


 それは『コホン』と、部屋の隅から侍女の咳払いが続くまで延々と続いた。







「あのね、ミリウス……これだとゆっくり話せないと思うの」


 しばらく経って、シルヴィアは彼に切り出した。

 先ほどから彼と離れていた2年間のことを互いに話し合っているのだが、その間も彼はずっと――シルヴィアを愛でることを止めなかった。


 話は聞いているし、相づちも絶えず打ってくれるのだが、その間ずっとシルヴィアの隣に座りながら、シルヴィアの髪を掬い、愛おしげにキスを落とし続けているのである。


(大切にされるのは嬉しいけど……さすがにやり過ぎよね)


 やんわりと距離を取ると、ミリウスはわかりやすく眉を寄せる。


「それじゃ恋人らしくない……」

「恋人といっても節度があると思うの」

「シルヴィはまた俺から離れるのか……??」

「うっ……」


 そう言われると、シルヴィアも弱い。

 なまじ彼を騙して逃走を図った過去があるだけに、強く出ることができない。


 しゅんと肩を落とした大型犬のような彼に、


「じゃあ、近くにいるくらいなら……」




 そう言ったのが最後だった。








「なにこれ!?」


「何って……、近くにいるだけだろう? 恋人なんだ。何もおかしくないさ」

「そうは言っても……!!」


 気づけばシルヴィアは、ミリウスの膝の上に抱えられていた。

 後ろからしっかり腰を抱えられ逃げ出すこともできない。


「これならゆっくり話ができるだろう?」


 そんなわけないじゃない! と抗議したいのは山々だが、シルヴィアのことを抱え込んで幸せそうに頬を寄せるミリウスを見ていると、彼に弱い自分はもう何も言えない。


「シルヴィの心臓の音がする……」


 シルヴィアの背に耳を寄せ、子供のようにその音に耳をそばだてる彼。

 そんな彼を見ていると……逸る鼓動は止められないけれど、『まぁいいか』という心地になってしまう。


「シルヴィ。心臓の音がすごく速い……」

「……誰のせいだと思ってるの…………」


 何しろ、こんな経験初めてなのである。

 恋愛初心者には過ぎるスキンシップの嵐に襲われて、平静でいろというほうが無理な相談だ。


「そうか。…そうだな! 俺のせいなんだ……」


 そう言ってまた幸せそうに、ぎゅうと抱きしめる。



 そうしてシルヴィアは――――しょうがないな、と、いろいろなことに目を瞑ることにした。


 せめて今日くらいは、彼の思う存分好きにさせてあげたい。



 そうして二人は、互いの温もりを感じながら、とりとめのない雑談を楽しむのだった。




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