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プロポーズをもう一度 2


 レムリア宮の廊下に、二人分の足音だけがこだまする。


 ミリウスと手を繋ぎ並んで廊下を歩きながら、シルヴィアは沈黙したままの彼を見上げる。


 その横顔は、やはり――まだ曇っていた。



「大丈夫? ミリウス?」

「…………。あなたと離れたくない――…」



 ミリウスは立ち止まると、繋いでいた手を掬い上げ、シルヴィアの指先に静かに口づける。


「……2年も離れていたんだ。それなのにこれ以上あなたがいない日々なんて――……」


 想像するのも恐ろしい…といった風に、ミリウスはこの世の終わりのように表情を曇らせる。


「大丈夫よ。何も結婚を止められたわけじゃないじゃない? ほら、時間さえ経てば、いつかは一緒になれるんだから……ね?」


 そう言って気落ちする彼を抱きしめれば、ぎゅうと抱きしめ返される。


「シルヴィ……。あなたとはもっと一緒にいたい……」

「うん」

「この後……は会談や婚約の手続きがあるから無理だが、そのあと――」

「?」

「それらが全て終わったあとに、あなたの部屋を訪れてもいいだろうか……」


 縋りつくようにシルヴィアの身体を捉えて放さない大きな身体。

 その安堵する大きな温もりに、シルヴィアは、


「うん。待ってる。だから安心して」


 かつての尊い日々が戻ってくることを喜びながら、甘えるようにその胸に頬を寄せた。







        *





 人を待つ、というのが、これほど待ち遠しくなるのも珍しい。

 もうすぐ夕刻を刻もうかという明るい私室で、シルヴィアはそわそわと落ち着きなく立ったり座ったりを繰り返していた。


「シルヴィア様……どうか落ち着いてください」

「ベラ! 落ち着かないといけないのはわかってるんだけど……!」


 侍女にたしなめられても部屋を彷徨う足は止まらない。


 何しろ初めてできた恋人を迎えるのだ。

 それがかつての自分のよく知る生徒だったことは脇に置いておいて、とにかく今までと同じではいけないことだけは理解している。


「だからってどうすれば……!」


 こういうとき微笑って出迎えるべきだろうか。

 それとも澄まして余裕を見せるほうが彼が憧れた『大人の女性』っぽいのだろうか。


 悶々と悩みながら右往左往したところに、その扉をノックする音は響いた。


『シルヴィ、入ってもいいだろうか……?』


「!」


 背筋がピンと緊張に伸びる。


「ベ、ベラ……! 絶対にこの部屋にいてね……! でもできればいろいろ……その、見ないふりをしてて……!」


 最後の理性の命綱にこの部屋に残るよう頼み込むと、シルヴィアはおそるおそる自ら扉を開けた。



「シルヴィ……!」

「わっ……」


 扉を開けるなり入ってきたミリウスは、短い――ほんの2時間弱の別れだったろうに、まるで一年間離れていたようにシルヴィアのことを抱擁する。

 そうしてぐりぐりとその頭をシルヴィアの肩口に押しつけながら、幸せそうにはにかんだ。


「……!!」


 その瞬間、不意打ちのようにきゅんとしてしまったのは仕方がない。

 好きな人が自分のことで幸せになってくれる喜びを改めて噛みしめながら、シルヴィアもまた彼に寄りかかりその背に腕を回す。


 そうして再会を喜び合って――――シルヴィアは気づいた。

 遅れて……今更だが、ミリウスがその身体に、先ほどまで身につけていた鎧を纏っていないそのことに。


「あれ……? ミリウス、もしかしてお風呂に入ってきたの?」

「? ああ」


 真白い清潔なシャツ姿になった彼は返答する。


「しばらく夜通し馬を走らせていたからな……。さすがにあの鎧姿では落ち着けないし、装備を外すついでに湯を借りたんだ」


「そうなの……」


 鎧ごしではないミリウスの体からは、清潔な石鹸の香りがふわりと立ち上り、人間らしい肌の弾力と温もりがする。

 それは、鎧を通じて感じていた以上に、彼の存在を如実に伝えて、シルヴィアは跳ね上がる鼓動を悟られないようにあわてて体を離した。


「……?」

「あ、そ、そういえば、ミリウスに紹介するのは初めてだったわよね。こちらベラ、私の侍女をしてくれてるの」


 手のひらで指し示すと、ベラは黙したまま恭しく一礼する。


「あぁ、これまでシルヴィアが世話になった。これからもできれば彼女に尽くして欲しい」


 まさに未来の夫だ、という風に婚約者の侍女に大らかに微笑むと、それはそれとして――とミリウスはシルヴィアに向き直る。



「シルヴィ。俺はあなたの話が聞きたいな」



 そうしてミリウスは、部屋の長椅子にシルヴィアをいざなったのだった。




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