プロポーズをもう一度 1
最終話のその後です。
「今日シルヴィアを国に連れて帰りたい……? は? 駄目に決まってるでしょ」
春の花咲くレムリア城、その空中庭園で、2年ぶりに再会したミリウスと想いを交わし合ったその日。
善は急げと急かすミリウスに連れられて、シルヴィアは皇帝の執務室を訪れていた。
「犬や猫じゃないんだからさ。見つけたその日に連れ帰って、そこにちゃんとシルヴィアの居場所は確保できてるわけ?」
呆れたような半眼でミリウスのことを見つめるのは皇帝エミリオだ。
シルヴィアの実兄でもある彼は、勢いのままに妹の手を引いて執務室に乗り込んできた未来の義弟を見て、深い溜め息をついた。
「それは……用意は進めている……!」
「あのねぇ、単にきみの部屋の隣に王太子妃用の部屋を用意すればいいってものじゃないよ? 僕が言いたいのは、ちゃんと王国に妹が安全で快適に暮らせる環境が整ってるのかっていうことなんだよ」
「それは…………」
隣でミリウスが口ごもる。
何しろ急な出立だったのだ。王国側で何も準備ができていないだろうことは、シルヴィアにも薄々察せられた。
「きみが妹を早く連れ帰りたいのはわかったけど、まずは手順を踏んだらどう? シルヴィアは対外的にはまだ死亡もしくは行方不明扱いのままなんだ。いまはまだ、城の一画で、元の生活に慣れる訓練をしている状態だ。手順を踏むなら、まずはシルヴィアの生存を公表して、それから婚約を発表するべきなんじゃない?」
そして十分準備を整えてから、万全の体制でシルヴィアを迎え入れればいい、とエミリオは語る。
「だが……」
「なに? 何か不満があるわけ?」
「……そうすると、彼女の生存を公表した途端、ほかにも結婚を申し込んでくる人間が――――」
「何? きみは、うちの妹のことをこう言いたいわけ? 『一度結婚を承諾した相手がいるのに、ほかからも申し込まれれば、そちらに鞍替えするような女です』って」
「ちが……っ!!」
慌ててミリウスが、こちらを振り返り必死に首を振る。
「大丈夫、そんなつもりじゃないことはわかってるから……」
「シルヴィ……」
「安心して、ミリウス。私はあなた以外選ばないし、あなたとしか結婚しないから」
そう言って微笑ってみせると、感極まったミリウスは瞳を潤ませ、ぎゅうとシルヴィアを力一杯抱きしめる。
「……はぁ」
そんな妹と未来の義弟二人を見て、兄――皇帝エミリオはまたしても溜め息をつく。
「それなら、明日のパーティーにでも出席していったらどう?」
「? パーティー?」
感極まったミリウスの代わりに、腕の中からシルヴィアが問いかける。
「シルヴィア、きみの生存報告のためのお披露目パーティーだよ。国内の貴族や属国の代表者を集め、皇女であるきみが生きていたことを広く知らしめるパーティーだ」
(私の……披露パーティー……)
何しろ16年もの間、死亡説が流れていた身だ。
そうでもして実物を見せないことには、疑いの念を持つ者もいるのだろう。
「そのパーティーの最後に、婚約発表でもしていけばいいんじゃない?」
「!!」
投げやりに、そうエミリオは提案する。
(私としては、別にそれでも構わないけど……)
ミリウスはどうなのだろう、と、ちらりと見上げた先にいた未来の夫 ――――もとい婚約者は、
眉間に深く……深く皺を寄せ考え込んでいた。
「………………」
「……ミリウス?」
「…………………………」
そして、『これでもか――』というほど長く長考したのちに、
「……わかった。そうしよう」
けして明るくはない声で、渋々……そう、渋々、その提案を了承した。




