表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
180/195

第178話 帝国からの書状


 その日、ミリウスは王宮の執務室で政務に追われていた。


 先月から新たな責任を引き受けたことで膨大に量の増した決裁文書。その一つ一つに目を通しながら、素早くペンを走らせていく。

 いくら処理すれど終わりの見えそうにない書類の山に頭が痛くなりそうになるが、『むしろこれくらい忙しいほうが丁度いい』と仕事に没頭する。

 仕事にさえ打ち込んでいれば、これ以上余計なことを何も考えずに済むような気がした。



 あれから2年。

 ミリウスの視界に映るものが色を無くし、全て色褪せて見えるようになってから2年の月日が経った。

 学院にいたころは一瞬だった日々が、あまりに長く感じられる。


 何を見ても、何を聴いても。感動には程遠く、世界とはこんなにも味気ないものだったのかと自失する。

 いまのミリウスを動かしているのは、王族としての使命感と、それと唯一、諦めが悪くも消し去れない微かな……本当に微かな希望だった。



「……殿下、そろそろご休憩を取られては」


 部下に勧められ、凝り固まっていた眉間をほぐす。


「そうだ、いまのうちに急ぎの書簡があれば持ってきてくれ。目を通そう」


 休憩を勧められたというのに、その間も何か仕事をしていないと落ち着かなかった。



「ではこちらを。レムリア帝国皇帝陛下より書状が届いております」

「レムリア皇帝……か」


 すでに逸る気持ちも、一秒を惜しんでその封を開く意気もない。

 レムリア皇帝にはこの2年、すでに幾度となく親書を送り届けていた。



 内容はもちろん、現皇帝の実妹である皇女――シルヴィアのことだ。

 かつてシホ・ランドールと名乗っていた彼女を探すため、ミリウスは幾度となく彼女の兄に、妹が国に戻ってはいないかと問い合わせた。


 ……けれどその度に返ってきたのは、



『皇女シルヴィアは16年前の謀反により死亡している』

『どこかで生きているという話もない』

『何度も問い合わせを受けて、こちらもどういうことかと非情に困惑している』



 という、従来どおりの広く一般に流布されている内容の回答だった。



(けれど確かにいたんだ…………『先生』は)


 そう呼び慕っていた人と、同じ年齢になってしまった自分。背ばかり伸び、一国の王子らしい所作や麗句は飽きるほど覚えたが、未だに心はあの頃に囚われたままだ。


(シホ…………いや、シルヴィア。……『シルヴィ』)


 かつて、いつかの学園祭で、彼女のことを戯れにそう呼んだことを思い出す。


(あの時はただの偽名だったが――――もう一度会えたなら)


 今度こそ。今度こそあなたの本当の名として呼びたい。



「………………」


 けれどそんな光景は、所詮夢物語だ。

 今日とて同じだろうレムリア帝国からの回答に、ミリウスは力ない指先で億劫そうにその親書を開封する。



「……………………」











 そして、ぐしゃり、と。その紙切れを握り潰した。







 即座に、荒々しく席を立つ。

 そして、その場にいた部下に宣言する。



「いまこの時から全ての予定は延期とする」

「!? 殿下?!」

「追加の予定も入れるな。日程を延ばせるものは伸ばし、調整が難しいものは一度白紙に戻せ」

「!!」

「この埋め合わせは――――どんなことでもする」



 そう言って、近衛と早馬を呼ぶと、矢継ぎ早に指示を出す。



「近衛は私についてこられる者だけでいい。すぐに後を追え。早馬は先にこれを――――」


 殴り書きのような荒々しい親書を早馬に押しつけると、自らもまた支度のために部屋を出る。




「殿下……! 一体どこへ!?」


 突然の出来事に狼狽した部下が追いかける。




 それに、一言。





「……レムリア帝国に向かう」




 ミリウスは、地の底が唸るような声で答えた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ