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第169話 決着 1


 何度目かの攻撃をかわされて、剣を構え直しながらミリウスは静かに息を整える。


(強い……。回避に徹されると厳しい、か)


 ミリウスが相対した先生の師――ヴィルの機動力は想像以上のものだった。

 互いに斬り結んでいればまだこちらに分もあるが、回避に徹されると詰め寄ることすら難しく、未だ一太刀も浴びせることができない。


(しかし魔法戦は……より厳しいのだろうな)


 あのシホが魔術ではなく、剣で勝負を挑んだくらいだ。

 呪紋の熟達者二人が魔法ではなく剣でしのぎを削ったということは、おそらく魔法を使用しても意味がない――。互いの呪紋による障壁で防がれて、無駄撃ちになってしまうのだろう。


(かといって、このままやられるわけには――)


 絶対に殺されるわけにも、背後への道を譲るわけにもいかないのだ。

 自分の背後にはシホがいる。

 その意味を噛みしめて、ミリウスは再度剣を握り直す。


「いい加減遊びも飽きてきたよな?」

「っ」

「手加減して楽しめる相手でもなし。本気の殺し合いといこうや」


 そう言うと、それまで回避に徹していたヴィルが、その手の平に白く煙る氷塊を生み出す。

 そして間髪入れず射出されたそれを、ミリウスはギリギリのところで回避した。


「っ――――!」

「そら、まだまだ続くぞ」


 立て続けに5発。回避するミリウスの足跡そくせきを追うように、水平に射出角度を変えた氷塊がミリウスを追いかける。


「そうやって魔法にばかり気を取られていると――」

「!!」

「ジ・エンドだ」


 大地を駆けるミリウスの正面に、短剣を手にしたヴィル本人が現れる。

 背後には4つの浮遊する鉄芯。回避も、打ち落とすことも叶わない。


(どうすれば――――っ!!)



 損害を覚悟し、それでも最善の回避行動をと剣を握り締めたそのとき――――


 ミリウスとヴィルを隔てるように、二人の間に光の障壁が立ちのぼった。







         *





 鳴動する魔法書に、あらん限りの力を込めて、その魔法を極限までの精度で細かく細心の注意を払い操作する。


 ミリウスとヴィルを隔てた障壁を睨みつけながら、シホはもう一つの魔法を起動した。


 それは即座にこちらの意図に気づき身を翻すヴィルの足もとで発動し、鋭い土槍を突き上げると、体をよじるヴィルの脇腹を突き上げる。


「お前――――」

「――その人は、絶対に死なせない」


 固い決意のもとに、非情なまでの決断で追加の魔法を起動する。

 ヴィルを貫き崩れた土槍がきらりと一瞬輝くと、今度は間髪入れず爆散する。

 四方に礫片を撒き散らしながら爆発したそれに、シホは障壁内のミリウスに怪我がないことを確認し、安堵した。



 すると次の瞬間――――爆煙の向こうから三つの鉄芯が浮かび上がり、凄まじい勢いで飛来した。

 シホを狙い射貫かんとする鋭い脅威に――――同じく瞬く間に現れたもうひとつの影が、そのうち二つを打ち落とす。


「ミリウス……!!」


 最後のひとつが頬を掠め血を流す彼に、シホは青ざめて駆け寄った。


 けれど、声をかけてもミリウスは振り返らない。

 ただシホを背に庇ったまま、気を抜くことなく敵に剣を向け、優しい声だけでシホに問いかける。


「もう、大丈夫ですか……?」


 それはずっとシホのことを守り続けてくれた彼が、自分は必ず立ち直ると信じ待ち続けてくれた証の言葉だった。



「うん……」

「ならよかった」

「でもミリウスが……」

「これくらい大したことはありません。それよりも――あなたが傷つくほうが……俺は怖い」


 大きな広い背中が、一瞬だけ後悔に染まるように陰を落とす。


「このままあなたを守りきり格好をつけたいところですが――――どうやらそれも難しい相手のようだ」


 言葉に合わせるように、薄らぐ黒煙の向こうから、体中に被弾した傷を魔法で癒やしながら男が現れる。


「手を、貸してもらえますか」

「うん」


 頷くと、ミリウスは手短にいくつか指示を出す。

 そして最後に――、



「ただし絶対に――――無理だけはしないように」



 強い口調で念押しする。



「もしあの男に勝ったとして――――あなたのいない世界なんて…………俺は御免です」



 絶対にそんな未来など訪れさせないという強い意志を見せて、ミリウスはシホを置いて駆け出した。

 その背中を見送りながら、シホもまた、自身にできる魔法ことに集中する。





 自分も――――見たいのだ。

 彼と共に未来を――――。


 今日の先に続く、まだ見ぬ日々を――――彼と共に見てみたい――――。




 だから、



 シホは、ありったけの呪紋を展開する。


 あの男が、かつての師が、彼に絶対に手を出せぬよう――。


 彼の命を、未来を、自分が守るのだ。








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