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第158話 復讐鬼


『その手をっっっ、離せっ――――!!!』




 ミリウスがその事態に気づき斬り込んだとき、すでに先生は重傷だった。


 あちこちに裂傷と打撲痕、吊り上げられた手足は細かく震えていて、あの男の手を切り落とし損なって退けたあとも、大地に落ちた先生は細かく震えていた。



(もっと早くに気づいていれば……!)


 後悔が心臓を裂くように貫く。



 どうしてあの男を信用したのだろう。


 どうして二人だけで行かせたのだろう。


 散々『どうせろくでもない男だ』と、リンデールの恋敵――――アーサーからも忠告されていたはずなのに。


 なのに――――……!!!



 脳裏に浮かぶ、純粋に師を慕う先生の横顔に、強く目蓋を閉じる。そして……――その残像をミリウスは振り切った。



 じりじりと牽制するように長剣の刃先をその男――――ヴィルという名の『敵』に向け、シホを庇いながらその前に立つ。



「へぇえ? いつ出てくるかと思っていたが……案外早かったな?」


「……黙れ。この裏切り者が」


 誰よりも、この世で一番裏切ってはならない人を裏切った。

 その信頼を壊し、傷つけ。踏みにじった。


 それはミリウスにとって、何よりも許されない――――万死に値する。



「いきり立ってるところ悪いんだが、オレにはお前とやり合う理由は――――…………いや、あったか」


 ヴィルは、面白いことを思いついたように口端を吊り上げる。


「お前、そいつのお気に入りだったな……? ならお前を殺せばその馬鹿も――――――、ッ――!!」



 ヴィルが、弾かれたように跳び退る。



 その足もとには、怨念のように黒い炎の腕が、対象の脚を掴もうと蠢いていた。



「先生――――!!」



 大地に崩折れ、小さく震えていた彼女。

 その命が、心が、戦う意志が、まだ無事だったことに安堵する。


 先生の心は、まだ折れていない――!


 たとえそうであったとしても守り抜くつもりだったが、戦う意志があるということは、生きる意志があるということだ。

 あの輝く瞳が、曇ってしまったわけではない――――。



 ミリウスは、まずは先生の無事を確認しようとして、敵に注意を払いながらもそっと振り向く。


「先生、大丈夫ですか――?」


「…………て」


「?」


「…………て……る…………」


「?」



「……て、…………っ殺して………………殺してや゛るっっ

っ……!!!!!」




 再び面を上げた先生の――――その瞳は、これまで見たことのないどす黒い憎悪に染まっていた。


 命の色をしたあの目映い紅色が、千々に肉を引き裂き血を撒き散らした後のようなどす黒い赤色に変じる。


 その怨念さえ感じさせるような濃い紅色には、明確な強い――――声さえ歪ませるような殺意が宿っていた。




「ほぉ…………ようやく戻ったか」

「!?」

「坊主、よく見ておけよ。お前たちの先生は、人を憎むことも恨むことも知らねぇ優しい女神様みたいな先生じゃねぇ。自身のあらん限りの憎しみを――――握り潰された、オレに消された復讐鬼だ」



 ヴィルが、獲物の短剣を構え直す。



「先生っ……!!」



 今にも無策に飛び出しそうな先生の肩に手を伸ばす。





 その瞬間。





 バチリ、と。雷撃が走ったように何かが起こり、断片的な無数の記憶が流れ込んだ。





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