表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/167

第157話 金の光


「ッかはっ……!」


 胃の中の物が、すべて押し出されるような圧迫感。

 それと同時に大きく弾んだ体を大地に投げ出して、シホはギリリと砂を掻いた。


 倒木にまともに打ち付けた背中は、骨にヒビでも入ったのか焼け付くように熱い。

 身を起こそうとするだけで、息が傷口を刺すようで、苦しみに喘いだ。


 したたり落ちる唾液を拭い取り、重い足を上げ、再び目の前の脅威に対峙しようとする――――その暇もなく、次の殴打がシホを襲った。


 障壁ごしに、()()()()()()()に殴られて、頭が揺れる。

 次いで繰り出された蹴りはほとんどまともに腹を捉えていて、シホは胃の中のものを吐き出した。



「ホラ、殺すつもりで来いって言ったろ? でないと死ぬぞ?」


 淡々と、ヴィルは見下ろしてそう言った。


 いつものことだ。本気でやれ。でないと死ぬぞ。

 けれど今日は、そうさせるためのヴィルの本気が違う。


(本当に…………死ぬ…………?)


 そう思うほど、彼の攻撃は苛烈を極めていた。



「ほら」


 言いながら、他人の腹を踏み抜くその非道さは、およそ人間とは思えない。

 かろうじてギリギリのところで障壁で防ぎながらも、その圧迫感にシホは喘いだ。


「ほら、お前なら殺せるだろ? 魔物だって散々やってきたじゃねぇか」

「でき…………ない…………」


 伸びてきた腕に、襟をつかまれ引き立てられながら、シホは息も絶え絶えに首を振る。


「どうしてだ?」

「だって…………師匠だもの。ヴィルには、勝ちたい――それだけで。……勝って……、認めてもらわなくちゃ……意味、っないもん」


 それがどうして殺し合いになるのか、全然わからなくてシホは混乱する。


 ただの卒業試験のはずだった。

 旅立つ彼の、最後の教え。

 それがどうしてこうなるのか、理解が――現実に追い付かない。



「甘いな。お前は」


 ヴィルの憐れむような瞳が、シホの苦しさに溢れ出た涙で潤む瞳を見下ろした。


「言ったろ? 敵は全部殺せって。でないと必ず相手はお前を討ちに来る。……殺さなければ、意識がなければいいと思うほど殴られて、犯されて、ボロ雑巾のように捨てられる。それでもまだマシだっていう目に――遭わされる」


 まだ知らない現実を弟子に突きつけるように、ヴィルは淡々と言葉を紡ぐ。


「お前が甘いのは――――オレの落ち度だ。地獄を見せないように半端に守った――――」


 ヴィルの左手が、奇妙に輝く。


 光る腕が、魔力の腕が伸びてきて、シホの身体に入り込む。



「ここまでして、まだオレを拒めないのか――――どうしようもない甘チャンだな」



 腕が、身体の中を、かき混ぜる。

 思考を、記憶を、大切なものを、ぐちゃぐちゃにかき回す。


 痙攣する脚に、震える指に、『やめて』と小さく呟いた唇から、泡がこぼれる。


 そして腕が――――身体の中をまさぐる腕が、やっと探し当てたように『それ』に辿り着いた。



「お前は、お前に戻るべきだ。それでオレを――――殺しに来い」



 どこか遠くに、そんな言葉を聞いた瞬間。


 頭の奥で何かが盛大な音を立てて割れた。


 粉々に砕け散るガラスのように、儚い残滓の音を残しながら、二度とは戻らない何かが粉々に砕け散る。



 最後の欠片が落ちるその瞬間に、シホは遠くにその人の声を聞いた。



 いつも優しくて。真っ直ぐで。


 愛おしくて。守りたくて。


 守ってほしくて。寄りかかりたくて。


 ずっと触れていたい――――。







「その手をっっっ、離せっ――――!!!」




 眼前で振り下ろされた白刃に、見慣れた愛しい金の髪が見えた気がした。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ