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第141話 パジャマパーティー 2


「え、先生。本当にその格好で寝るの……?」

「それは……下着ではありませんの?」


 パジャマパーティー1年生。

 というより、そもそも女子同士の付き合い1年生のシホの装いを見て、エメリーとマリーベルは理解しかねるような視線を投げた。


「人聞きの悪いこと言わないで……! 普通のキャミソールとショートパンツでしょ!? 別におかしなものは着てないじゃない!」


 まるで人を露出狂か何かのように。

 ここだけを他人に聞かれた日には、生徒ととんでもない格好で寝ようとした教師として、即刻解雇処分が下されてしまう。


「確かに専用の寝間着じゃないけど……! でも私はずっとこの格好で――」

「そんなの駄目! 全然可愛くない!!」

「!?」

「そうですわ。せっかくのパジャマパーティーなのに、せめて今日くらいは先生ももっと女子らしく可愛く着飾るべきですわ」


「ぐっ……」


「先生、ほかにちゃんとした寝間着は持ってないの?」


 困惑したような、狼狽えたような彼女たちの問いかけに。


 それに居たたまれなくなったシホは、しぶしぶ自室の奥から唯一の一張羅 ――――『ちゃんとした寝間着』を、取り出す羽目になったのだった。






           *





 シホがそれに着替えて再びサロンに姿を現すと、彼女たちは一斉に沸いた。


「先生……! 可愛い……!!!!」

「こちらのほうがずっとお似合いですわ……!」


 レースと控えめなフリルのついた白のワンピース。


 それはこの夏に、ラスティンの実家ライオール邸を訪れたときに、なぜか帰りの荷物に紛れ込んでいた夜着だった。



 ――『せめて寝るときくらいは、慎みのある貴人に相応しい格好をするように』。



 そう同封されていた手紙から察するに、きっとあの小姑貴族――ラスティンの兄レナードが、メイドに命じ密かに忍ばせたものなのだろう。


(なんで私が貴族の真似を……)


 そう思い仕舞い込んでいたのだが、エメリーたちの喜びようを見ると、これはこれで一応無駄ではなかったらしい。


(とりあえず、今日だけなら……)


 そう自分に言い聞かせ、シホは慣れぬ格好で二人の前に立った。





「先生可愛い~!!」

「普段あまりこうしたお召し物は見ないですけれど、本当にとてもよくお似合いですわ……!」


 甘すぎる装いに、正直シホは気恥ずかしさのほうが勝るのだが、エメリーたちは大喜びだった。


「それに先生、こうして見るとすごく肌がキレイ……!」

「本当ですわ。まるで吸いつくみたいにきめが細かくて……一体どんな化粧水を使っていらっしゃいますの?」


 女子しかいない気安さなのか、ペタペタとエメリーたちは遠慮なく触ってくる。


 肌の手入れなど、むしろ彼女たちのほうがずっと詳しいだろうに……。

 シホは困惑するが、唯一心当たりがあるとすれば――やはりそれは魔法だった。

 あの傷跡を消す魔法を使用すると、どういうわけか肌の調子がよくなるのである。



「おまけに先生、柔らか~い」

「!?」

「そうなんですの? エメリー」

「うん、先生ってもっと筋肉質かと思ったけど、すごくふかふかする。このまま眠ってもいいくらい……」

「エメリー!?」


 シホの胸に飛び込んで子供のように甘えるエメリー。

 女子同士の付き合いとは、こうもスキンシップが多いのが普通なのだろうか……?


 三姉妹の末っ子ゆえか、姉に甘えるように頬ずりするエメリーに、シホは彼女の親友に助けを求めた。


「マリーベル…………!」


 が、


「………………やっぱりですわ」


 マリーベルは、シホを助けるわけでなく、何かを確信したように、ひとり真剣に呟いた。


「やはりそうですわ……。わたくしは、確信いたしました。――――やはり先生は、もっとお洒落をするべきだと思います……!!」


「!?」


「せっかくとてもお美しいんですもの。絶対にお化粧をしてもっと着飾るべきです――!」



 そうして力強く断言するマリーベルを筆頭に、なぜか、シホのお化粧教室が始まった。





        *




「……できましたわ!!」


 マリーベルの興奮した宣言とともに、シホの前にすっと手鏡が差し出される。


「ほら、先生。先生は本当はこんなにお綺麗なんです。なのに、ご自身の扱いが雑すぎます……!」


 普段からいろいろ気を使っているだろう貴族令嬢からすれば、きっとあまりに適当すぎるのだろう。

 マリーベルに続くように、エメリーもまた声をあげた。


「そうそう! 先生せっかく可愛いのに、いつも同じ髪型だし……。そうだ、せっかくだから今日は髪も可愛くしちゃお!!」


 言うなりエメリーはブラシを取る。


「どんな髪型にしようかな〜。……あれ?」

「?」

「先生、これどうしたの?」


 髪を梳いていたエメリーが呟いた。


「首のとこ、赤い跡があるよ? 虫刺されかなー」


 腫れてはいないようだけど、と首を傾げる。


「首? 特に何かに刺された記憶はないんだけど……」


 もしあるとすれば、おそらく一昨日の事件のときだろう。廃墟に落とした服をそのまま着たので、虫が付いていたのかもしれない。


「そうなんです……の!? ……!!?」


 親友につられるように覗き込んだマリーベルが硬直する。

 そして、何故かふるふると震え始めた……。


「……エメリー、わたくしの荷物から緑の瓶を取ってくださる? 整髪油が入っていますので」

「まかせて!」


 奥のソファに置いた荷物を取りに行ったエメリーをよそに、マリーベルは珍しく強引にシホの正面に回り込んだ。


 そして真剣な面持ちで、


「先生……! ミリウス様に何か強要されてはいませんか……!?」


 潜めた声で、慌てたように詰め寄った。



「え…? ミリウス?? 何も……ないけど……???」


 何故突然彼の名が出てくるのか。

 シホは首を傾げる。


「これは……! いくら殿下といえど、抗議していい案件です……!」


 マリーベルは何やら立腹しながら、シホの手を取る。

 そして、『お一人で難しいようなら、わたくしが一緒にもの申しますわ……!』と続けた。


(…………?)


 何やら、とても心配されているのだろうということはわかる。

 しかし、そもそもシホには、その心当たりがない。

 ミリウスに抗議するようなことなど、全然、ひとつも、思いつかないのだ。


 シホがしきりに首を捻っていると、マリーベルは考え込む。


「先生には心当たりがおありでない……ということは、ミリウス様が勝手に……? それはそれで問題が大ありですが……やはりこれは、しっかり確認しておくべきですわね……」


 何やらぶつぶつと呟いて思案している。



「マリー、緑の瓶なんてないんだけどー!」

「あら、すみません。そういえば薄紫色の瓶だったような気がしてきましたわ。そちらを取ってくださる?」

「薄紫……ああ、これね!」


 そうして瓶を持ってきたエメリーと今度は別の相談を始めた。


「エメリー、やはりわたくしたちが思った以上に何かありそうですわ――」

「そうなの?!」

「えぇ。特にミリウス様のほうは――これは急ぎで確認しておいたほうがいいかもしれません」


 何やらこそこそと、女子二人で耳打ちし合っている。




 そうしてひとしきり相談しあい、笑顔で戻って来た二人は、シホをぎゅうと抱き締めると、


「先生大好き……!!」

「大好きですわ……!!」


 なぜかシホを初めてできた妹のように撫で回して、そしてきらきらした瞳でこう言った。



「だから先生、今夜は女子3人で、いっぱいお喋りしようね……!」

「女子だけのお泊まり会なんですもの。先生のこと、たくさん教えてくださいませ」



 期待に満ちた瞳で、見つめてくる……。



 その、目映いばかりの瞳を前に――――





(あぁ、今日はいつ眠れるのかな)




 そんなことを思った。

 






本日は夜に新作短編も公開予定です。

以前更新した『婚約破棄された私が~(中略)負けない侯爵令嬢はダンスパーティーの夜に輝く』の続編です。

ミリウス君によく似たヒーロー、ウォルターの物語です。

よければこちらもどうぞ〜。




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