第140話 パジャマパーティー 1
アーミントン旧市街を震撼させた大事件から2日。
すっかり平穏を取り戻した学院で、シホはある準備に追われていた。
カランコロン、と学寮のドアベルが鳴る。
「どうぞ」
と、ドアを開けた先には、
「先生、おじゃましま〜す」
満面の笑みの女子二人、エメリーとマリーベルがいた。
「先生とパジャマパーティーができるなんて、楽しみ~!!」
「素敵な夜になりそうですわね!」
シホは、うきうきとお泊まりセットを抱えてサロンに入る二人を見る。
こんなことになったのは、今日の正午――――数時間ほど時を遡る。
*
「――眠れない?」
シホが自クラスの生徒、エメリーから相談を受けたのは、ちょうど今日の正午だった。
「いつから?」
「おとといの夜から……」
「!」
おとといの夜といえば、ちょうどエメリーが旧市街の事件に巻き込まれたときだ。
「大丈夫……!? 医務室の先生に診てもらう……?」
調査隊時代に似たような話を聞いたことがあった。
人間、命に関わるような強い恐怖を覚えたとき、それがきっかけで長い不眠に悩まされるようになることがあるという。
そのために隊を辞めざるを得なくなった者たちを何人か見た。
だからそうなる前に、専門の治療を勧めてみたのだが……。
なぜかエメリーは首を振った。
「それよりも……もっと眠れる方法があると思うんです」
「……あるの? そんな方法が?」
もしそんな方法に心当たりがあるならば、すぐにでも実行に移すべきだ。症状が悪化してからでは遅い。
そのための協力なら惜しまない――。
そんな心持ちで、シホはエメリーの語る続きに耳を傾けた。
「一晩でいいんです。先生と、一緒に寝られれば……。そうすればきっと安心して眠れるようになると思うんです」
「!?」
すかさずそばにいたマリーベルも追随する。
「エメリーはきっと一人で眠りにつくのが怖いのだと思いますわ。規則さえなければ、わたくしが傍にいて差し上げるのですが……」
学生寮の規則では、就寝時間以降は、それぞれ自室での休息が義務づけられていた。
つまりは、彼らの住む学生寮では、誰かと一緒に眠ることはできない。
「もし先生さえお嫌でなければ、エメリーとわたくしを、今晩先生の学寮に泊めていただくわけにはいきませんか……?」
「それは…………」
まさか、断るわけにもいくまい。
なぜなら、そもそも彼女たちが事件に巻き込まれた原因は、ほかでもないシホ自身にあるのだから。
「わ、わかった……今晩、今晩ね……」
こうして、シホの人生初めてのパジャマパーティーの開催が決定したのである。




