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第131話 魔道具店の店先で


 翌朝、その男はアーミントンの新市街で、この街の新名物だというある焼き菓子を食べていた。


「おっ、こりゃ美味ぇ」


 男が目を剥くと、魔道具店の店先で小間使いをしていた子供が、こちらを指差してゲラゲラと笑った。


「兄ちゃん、口の横に粉砂糖が付いてらぁ! 子供みてー!」

「……うるせっ!」


 バツが悪くなって、ぷいとそっぽを向いて隠れて口元を拭う。するとそれを目敏く見ていたのだろう、店のおかみがくすくすと頬杖を突きながら笑った。


「フフッ、耳まで赤くしちゃって可愛いねぇ。そんな調子だからいくら男前でも、なかなか女にもてないんだよ」

「え!? わ、わかるのか!?」

「ふふん、図星だろう? あんたの顔に書いてあるさね。顔は良くて優しいけど、ちょっと抜けてるおかしなところが女を幻滅させてるんだって」

「はぁー……、すげえなおばちゃん。どこで見てたんだよ」

「私は女の道50年、占術・魔術なんでも来いな魔道具店の店主を30年やってきた女だよ。何でもすっぱりお見通しさ」


 そう胸を張る女店主は、本当に聞けば何でも言い当ててくれそうに見えた。


「えー、それじゃおばちゃん、俺が将来付き合えそうな女の子を教えてよ」

「えぇ、あんたのかい?」

「人のことけなしておいて何のフォローもねぇってのは酷くねぇか!?」

「ま、そりゃそうだけども……」


 おかみは前のめりになる男に若干引く。


「ちなみにあんたの好みはどうなんだい? それによっちゃいい子を紹介しないでもないけど……」

「はいはい! 可愛い子! 可愛い子がいいです!! あ、やっぱちょっと違うな……可愛い子がいいけど、どちらかというとすらりとした感じの美人がよくてー、大人っぽいけど可愛い感じも残る子がいいなぁ。それでスタイルもよくてー、胸もデカくて脚も長くてー。でも気が強そうかと思えばちょっとぽやっとしててー、世間擦れしてないというかー、男慣れしてない感じの可愛い子がいいなぁ!!」


「………………。あんたがもてない理由がよくわかったよ」

 ぽん、とおかみは手にした紙束を手の中で鳴らす。


「あんたは強欲に過ぎる。高望みのしすぎだよ。……まぁ、顔だけはそこそこいいから、それで目を瞑ってくれる娘もいないわけじゃないが……ま、すぐに愛想を尽かされるのがオチだろうね」

「そんなぁ~」


「………………。でもさ」

「?」


 それまで足もとで話を聞いていた小間使いの子供が、突然ぽつりと何事かを呟く。


「いまの兄ちゃんの好みなら、あの人が当てはまるんじゃない?」


 なぁおばちゃ――――店長、と言い直す少年に、おかみもまた顎に手を当てて考え込む。


「ううん……、まぁたしかにあの子なら条件に当てはまらないでもないが……。でもねぇ、あんないい子をこの抜け作にねぇ……」

 じとり、とおかみの目がこちらを向く。


「抜け作って! 酷くない!? まだ俺たち会って半時間と経ってないよね!? 俺、菓子食って世間話してただけだよね!? おばちゃんが俺の何を知ってんの?!」

「あんたのその言動から大体のことは察するよ……」


 まるで不憫な者を見るような目で遠くを見て、おかみは『ふぅ』と息を吐いた。


「ま、あんたの好みに合いそうな子で思い当たる子がいないわけじゃない」

「……思わせぶりなこと言って、大したことない女だったら文句言ってやるからな」

「…………。やめた、やめやめ。こんな奴に紹介するのは勿体ない――――」

「スミマセン! スミマセンでした!! 頼みますから一度でいいので女神みたいなお嬢さんをこの抜け作に紹介してください!!!」

「………………」


 じとりと、こちらを値踏みするような視線で一瞥して。おかみはゆっくりとその続きを紡いだ。


「シホ・ランドール。魔法学院で教師をしてる、美人で気立てのいい可愛い子だよ」

「魔法……学院……?」

「ほら、そこの街の先にあるだろう。このアーミントンで一番有名な施設さ。アーミントン魔法学院、貴族の子息や魔法の才能がある特別な子供たちが通う学校さ」


「え…………それじゃ…………」

「?」

「もしかしてその子……貴族様?」

「ハハッ、違うよ。さすがにあんたも貴族のお嬢様には手は出せないだろうけどねぇ、その子は何でも庶民出身の気さくな子だよ」


 ま、あの学院の生徒さんたちは、大半が礼儀正しい良い子たちばかりだけどねぇ、と続けておかみは語る。


「太陽みたいな笑顔とコロコロ変わる表情が可愛い、娘みたいないい子だよ。仕事柄常連としてウチに来るんだが、まぁ男がいるなんて話はとんと聞かないねぇ。あんたみたいな賑やかそうな奴なら、もしかしたら話が合うんじゃないかい?」


「……!」


 暗闇に一筋の光芒が降り注いだような気がして、天を仰いで膝を突いた。


「おかみさん! ぜひその子を俺に紹介してください!! ちなみにその子のタイプはどんな男ですか!!?」

「なんでもかんでも他人に頼り切るんじゃない。そんなことくらい自分で調べな」

「そんなぁ~……俺にはもう後がないのにぃ~……」

「………………ハァ、わかったよ。テディ」

「はい!」


 テディと呼ばれた小間使いの少年が、ぴしりと立つ。


「あんた、配達で学院まで行く用があったろう。そのときにリースターの生徒さんたちにそれとなく話を聞いてみてくれないかい?」

「? いまから行くなら、配達の手伝いついでに俺が直接行ってもいいけど」

「何言ってんだいあんた、知らないのかい? いまあの学院は厳戒態勢で部外者の男はみんな立ち入り禁止だよ。うちの旦那だって中には入れてもらえないから、配達はみなこのテディに任せてるってのに」


「厳戒態勢?」

「なんでも旧市街のほうで娼……っと、悪さをした奴がいたらしくて、それであそこもピリピリしてんのさ。貴族のお嬢様たちが通う学校だからね」

「はぁ」

「ま、被害があったのは旧市街のほうだって話だから、こっちは安全だけど。それでも商売がやりにくいったらない話だよ」

「そりゃまた……ご愁傷様なこって」


「テディ! こことその荷、あと奥の籠のやつも積んで持って行きな! 伝票を忘れるんじゃないよ」

「はい!」




「さてと。それで、あんたの注文は何だったんだい?」

「え?」


 男は天を仰ぎ、うーんと考える。



「菓子食って話してたら忘れた」





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