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第118話 恋人紹介編 3


 それから次の休日。

 街で一番の大通りにある教会の前で、シホは小綺麗な女性らしい格好をして、まだ見ぬ待ち人を待っていた。


「………………」


 その様子を物陰から見守りながら、ミリウスは深く眉間に皺を寄せる。


(先生はどうしてこんな日に、相手が好みそうな格好なんてしてくるんだ……!?)


 庶民女性のお洒落に疎いミリウスでもわかる。

 自分ならどんな格好の先生も見蕩れてしまうが、一般的に言って、世の男性はいつもの戦闘服を着た先生よりも、女性らしい柔らかな服を纏った異性のほうが好みである。


(俺が恋人として過ごしてもらうと言ったからか……? でもだからって相手が本気で先生を好きになっても困るのに……!)


 隣で愉快げにニヤニヤと先生を見つめるファビアンを見る。

 彼の昨日の発言を思い出して、ミリウスは青ざめた。



『要は、あいつが不用意な行動をしないよう、反省するような男を送り込めばいいんだろ?』

『当てはあるのか……?』

『まずは、実際にあいつに惚れてる野郎を送り込む』

『!!?』

『そうすりゃあいつも同じ立場だ。反省すんだろ』


『……!! それは駄目だ!!』


 ミリウスは即座に反対した。


『んでだよ』

『そんなことをして、万が一先生がその男に惹かれたら――』

『あ――……そうだったな。そういう奴だったなお前は。――じゃあ』


『じゃあ?』


『あいつの嫌がる男――――その辺の酒場をうろついているスケベそうな傭兵を送り込む』

『!!?』

『さすがにあいつも尻でも揉まれりゃ反省すんだろ』

『……!!!!』



 そんな人間を自分に推薦させるのか!と、取っ組み合いになりかけるほどの口論をしたのが昨日である。



(まさか……ないよな? あんな格好をした日に限って……)


 ファビアンには断固として『否』を伝えたはずだが、今日誰が来るのかはまだミリウスも知らされていない。


 ファビアンは、

『いままでのは冗談だ。今度こそとっておきの――――明日絶対にあいつが目を点にして嫌がる、とびきりの『恋人』を用意してやる』

 と豪語していた。



(まともな人間に来てほしいような……それだと余計にもどかしいような……)


 悶々とした気持ちでミリウスはシホを見つめる。

 シホは慣れない格好に、手持ち無沙汰に髪を梳いたり、スカートの裾を気にしたりと、まるで本当に恋人を待つ一人の女性のようにそわそわと落ち着きない仕草を見せていた。


「………………」


「どうした。お前が行きたくなったか?」

「!?」


 ファビアンのひと言に、ミリウスは弾かれたように彼を見る。


「残念だったな。お前を向かわせても面白いものが見れそうだが、今日はお預けだ。もっと面白いものが見えるはず――――――…………???」


 急に言葉をなくしたファビアンに、ミリウスもつられて彼の視線の先――――先生を見る。



 そこには、シホに近づく一人の紳士の姿があった。



 年の頃はシホよりも一回り上――――よりいくらか若いだろうか。

 見た目だけならラスティンの兄レナードと同じ年頃といっても差し支えない若い青年貴族が、まっすぐにシホに向かって歩み寄っていた。


 何やら2、3シホと話し込んでいる。

 どうやら偶然声を掛けたわけではなく――――彼が今日の『恋人役』のようだった。



「ん? どういうことだ……? 俺が話をつけたのはおっさんだったはず……」


 ファビアンが何やらぶつぶつと考え込んでいる。

 どうやら彼の予定とは違う人物が来てしまったようだ。


 が、そんな元の予定の話はどうでもいい。

 いま重要なのは目の前の男のことだった。


 その貴族然とした優雅な身のこなしの男は、先生をエスコートしてどこかへ向かっていく。

 どうやら街を散策するようだ。


 予想外の事態にミリウスはとりあえず慌てて二人を追う。

 ファビアンもあとに続いた。

 ラスティンは――――遅れて来ると言っていたが、この際置いていくしかない。いまは先生から目を離すわけにはいかないのだから。



 スマートな身のこなしで先生を誘導する男は、その日一日、先生から笑顔を絶やすことはなかった。



「………………」

「あー…………ま、諦めろ。年期の差だ」

「っ――!」


 先生は、シホは、本当に、一日中楽しそうにあの男の隣で笑っていた。

 背を支えられエスコートされることも、最初こそ驚いたものの嫌がることなく、当然のようにその男に身を委ねていた。

 街中いたるところを回り、ときにはデートとしては変な場所――――先生の好むような魔道具街や、貴族ではなかなか足を踏み入れないような旧市街にまで足を延ばし、その間中、ずっと先生と愉快そうに談義し、興味深そうに先生の話に耳を傾けていた。


 先生も、きらきらした目でそれらについて説明していた。


 きっと――――相性というものがあるなら、彼らはそれがとてもよく合うのだろう。


 まるで水が馴染むように、彼らは和やかにずっと語り合っていた。


「……………………」


 自分には、あのように先生をエスコートできる自信がない。




「すまない、ファビアン。俺は先に戻る――――」


 正直、見ていられなかった。

 二人の間に今すぐにでも割り込みたいのに、その行為が酷く子供っぽいことに、気づいてしまったから――。


(じゃあどうすれば先生を……)


 あの男から腕を引いて引き離して、それで自分の腕に抱き留めればそれで済む話なのだろうか?

 そんなことをすれば『常識がない』と――先生に叱られてしまうだけだろうに。


(『叱られる』――? 何を子供っぽいことを――)


 そうだろうと、自分はあのひとが欲しいのに。


 そんなことを悶々と考え続けていたから、ファビアンが背後から制止する声も聞こえなかった。


「おいっ――――」

「……?」


「あれ――――ミリウス?」

「!!」



 気づけば、そこには先生と――――あの貴族の男がいた。





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