初めての
結婚式が終わり晴れて夫婦となった俺達はメンデス家の屋敷に一旦戻り宿屋に行くために着替えることにする。
結婚式のドレスを脱いでしまうエミルに残念な気持ちであったがやっと誰にも邪魔されずに2人きりになれることに心を躍らせていた。
支度が終わりメンデス家の屋敷から馬車に乗り宿屋に着くと部屋に案内されたエミルは驚いている。
「うわぁ! すごいね。豪華だしどこに座ったらいいのかわからないくらい…」
「喜んでもらえたかな? せっかくの結婚記念だし思い出にもなるから豪華な部屋にしてみたよ。エミル、やっと2人きりになれたから抱きしめていい?」
「うん、いいよ。でもフィルさんも疲れたでしょう? それにお腹も空いてきたね」
「食事は部屋に運んでもらえるからまずはエミルを抱きしめたい」
俺が抱きしめると胸に頬を擦り寄せてきたエミルを押し倒したい気持ちだったが我慢して柔らかい身体を撫で回しながら貪るように口付けをする。
扉がノックされ開けると豪華な食事が次々と運ばれてきた。2人きりなので長椅子に座っていたエミルを俺の膝の上に横向きに座らせてマナーを一切気にせずに楽しもうと思う。昨日から接触禁止をされてかなり不満だったから戯れて食事したい。
「フィルさん…、膝の上だと食べにくいよ?」
「降りたら駄目。エミルとこうして食事をしたかったから時間もあるしゆっくり食べようよ。何から食べたい?」
「うーん、お肉が食べたいかな」
「お肉ね。はい、あーん」
エミルがお肉を食べている可愛い姿を見て頬や首に遠慮なく口付けをする。
「お料理食べないの? すごく美味しいのに」
「食べるよ。でも今はエミルを見たいしあとで食べるから気にしないで。次は何を食べる?」
何度も繰り返し食べさせていると俺にエミルが食べさせてくれた。本当に幸せすぎる……。
「フィルさん、こうして食べるのが好きだったの? でもこの食べ方はお父さん達の前だと恥ずかしくなるよね」
「いつもしたかったけど人前だと恥ずかしがると思ったからしなかった。エミルがいいなら僕は構わないよ。やっぱり恥ずかしい?」
「うーん、2人きりならいいかな?」
「これから2人のときにはこうして食べよう。約束だよ」
こんなやり取りをしながら食事をゆっくり取りお腹いっぱいになったエミルは眠そうにしている。
いけない! こんな状態は俺にとっては一大事だ。
寝てしまうと全て台無しになってしまうと思った俺は慌ててエミルに風呂へ入るように勧めて自分も手早く終わらせる。
「エミル、そろそろ寝台に行こうか?」
ソファーに座っていたエミルを横向きに抱き抱え寝台に運び座らせて髪と頬を撫でていたら俺の目をじっと見ている……。
「エミル怖くなってしまった?」
「フィルさん、えっと…これから仲良くしすぎることを教えてくれるの?」
「えっ? そ、そうだね。これから教えてあげるよ」
「お母さん達がね、寝るときにフィルさんに優しく教えてもらいなさいって言っていたの。夫婦になったらみんなしていることだからフィルさんを信じて任せなさいって」
もう俺は我慢の限界だった……。
エミルに口付けをしながら寝台にそっと寝かせて覆い被さり優しく全身に触れながら夢中になって肌を重ねた。
俺は暗闇から空が白む頃まで抱き潰してしまったのだが、明け方になるとエミルは流石に疲れてしまったのか意識をなくすように寝てしまった。
遅めの朝を迎えて隣を見るとエミルが寝ている。
抱きしめて頭に口付け胸に抱き寄せると夫婦になれたことを更に実感して幸福感に満たされていた。
「エミルおはよう、そろそろ起きないと。身体は大丈夫?」
「んー、大丈夫……」
「今日はお店の手伝いをしなくていいことになっているから家に帰ったらまた寝ていいよ」
「うーん、そうする。私、毎日仕事を手伝っているのに体力無いみたい…。いつの間にか寝てたけどみんな途中で寝ないよね」
「ん? そんなことはないよ! 昨日は結婚式で疲れていたから途中で寝てしまっただけだよ」
「そっかぁ、慣れないことばかりで疲れていたのかも。仲良くするのも体力がいるからみんなすごいなと思っちゃった。フィルさんが元気そうなのはやっぱり身体を鍛えているからかな?」
「そ、そうだね。身体はいつも鍛えているよ。慣れればエミルも大丈夫だから心配しないでいい」
「うん。でも私、起き上がれても立てない……」
昨夜、我慢が解き放たれた俺はエミルに対して今までの欲求を満たそうと一晩中抑えが効かなかったことに罪悪感を抱き身支度を全て手伝った。
新居に着くとナジェルさん夫婦は仕事に出かけているのでエミルを抱えて寝台に寝かせ、お世話以外は用がないから夕食の準備をしているとナジェルさん夫婦が帰ってくる。
「お義父さん、お義母さんお帰りなさい」
「フィル、帰っていたか。あれ? エミルは?」
「はい…、すみません。昨夜は寝かせてあげられなくてまだ寝ていると思いますが夕食の時間なので今から連れてきます」
「お前な…、初めてなのに寝かせなかったのか?」
「気持ちはとても元気ですが身体が…」
「はぁぁ……、少しは手加減してやれよ」
「あなた、フィルさんもずっとエミルを大切にしてきてくれたからいいじゃない」
「すみません、今後気をつけます…」
二階に行きエミルを抱き抱えて降りてくるとマリアさんは何事もなかった表情でナジェルさんは痛々しい表情をして見ている。
家族として4人で初めての夕食を取りナジェルさんに今日は駄目だと釘を刺されたので2人で酒を飲んだ。
今まで一人暮らしだった俺はご両親と同居もして久しぶり賑やかな家族の一員となりこれからの生活に期待を膨らませた。
翌朝、4日振りに仕事に行き殿下へ改めてお礼をする。
「殿下、先日はお忙しい中、式にご出席いただきましてありがとうございました」
「相変わらず堅いな。でも驚いたか? メンデス卿とメンデス伯爵夫人に予め頼んで内密にしていたのだ」
「はい、心臓が止まりそうなくらい驚きましたが祝福していただき嬉しく存じます」
「エミルさんにも会いたかったし身内だけだから正体を明かす必要がなくて済んだ。トムらしき人も私に全く気づかなかったよ」
「トムはまだ入団したばかりなのでまさか殿下がいらっしゃるとは思っていないでしょう」
「2人の幸せな顔を見て出席して良かったと思ったよ。私のことだがエミルさんには貴族の友人でニードのままなのか?」
「はい、ニード様が殿下とは話しておりません」
「そのままでいいよ。エミルさんは貴族社会に入るわけではないし、あの可愛い仕草も変わって欲しくないからね」
「…殿下、可愛い仕草とは。エミルはもう私だけの女性になりました」
「おや? 初夜を無事に済ませているのに独占欲がまだ抑えられないのか?」
「はい、我慢したいのですがどうやら一生続きそうです…」
俺は結婚してもまだまだエミルを独占したくて堪らなかった。結婚してから1か月が経つと俺もナジェルさん達の暮らしに馴染みエミルが傍にいることに幸せを感じる。
ある日、母から呼び出されて姉が実家に帰る日に合わせて俺達も帰るとエミルは相変わらず姉の子のデビットのそばを離れずに色々とお世話をしていた。
「フィル、あなたは私と応接室に来なさい」
? なんだかご機嫌斜めな母なようだが心当たりがないし疑問に思いながら応接室のソファーに座る。あれ? そういえば以前このような状況を経験したような気がしてきた。
「母上、私を呼び出したご用件は何でしょうか?」
「今すぐにあなたが相手を納得させる内容の手紙を書いてこの差出人に送りなさい。あまりにも頻繁に手紙が送られてくるので私は不愉快です」
? 手紙の束を長机に置かれたので差出人を見て唖然とする。チッ…あの女、まだ執拗に手紙を送ってきていたのか。
ここまでくると心が満たされることがない不幸で惨めな女だと思いきっぱりと縁が切れるようにその場で手紙を書く。
結婚して平民になったと事実のみを書き二度と手紙を送らないように付け加え執事のロダンにモダミール家へ送る指示を出した。
これで母の嫌いな人名簿に載ってしまったあの女の手紙は二度と届くことはなくなるだろう。
その後、母と中庭に行くとエミルが甥のデビットをあやす姿を見て早く子供が欲しいと思う。しかし結婚してからまだ1ヶ月半しか経っていないので出来なくても当然だ。早く2人の子供に会いたいと願い自宅へ帰った。




