準備
顔合わせが終わってからは結婚の話も円滑に進み姉の出産に合わせて4ヶ月後に結婚することが決まった。
本当はもっと早く結婚したかったのだが、ドレスの準備と姉の出産が2ヶ月後に控えているから仕方ない。
親戚へのお披露目は社交時期に合わせて行うのでかなり先になる予定だ。
俺はエミルと結婚の準備を少しずつすることしたが
ドレスのことに関しては口を出すことはできず母と姉、マリアさんにエミルを任せた。
次は新居。王都内で花屋と雑貨屋から遠くなく、しかも宮殿に近い条件で探すのは苦労する。仕方なく宮殿に近いことは諦め馬で通うことにして花屋に歩いて行ける所にした。一軒家で馬小屋があり店の荷車が置ける庭付きで広い家はやはり高値である。
借家でも良かったのだが両親が結婚祝いとして購入資金を半分出してくれたので思い通りの家を購入した。
購入した家は馬小屋と庭付き、一階が台所と水廻り、広い居間と他に部屋が一つある。
二階は主寝室と他に部屋が四部屋、それに屋根裏部屋がある。
新居に引越しする前に見に行くとエミルは目を丸くして喜び、ナジェルさん達は家の購入費用を考えてしまったのか気を揉んでいる。
主寝室をナジェルさんとマリアさんに使ってもらう予定であったのに、家の持ち主が俺であることや、歳を取るから階段の登り下りが大変になるなどあれこれ理由を言い一階の部屋を選ぶ。
そうなると自動的に主寝室は俺達の部屋になり家具の配置を考えたりして楽しんでいるようだ。
「この部屋は一番大きな部屋だから大きな寝台を置こう。それから洋服箪笥に鏡台、机あとは…」
「それなら私の部屋にある物を持ってくればフィルさんが必要な物だけでいいよ」
「ん? ………駄目だ。それは納得できないし譲れない」
「どうして? まだ使えるし勿体ないから新しいのは要らないよ」
「エミル頼むよ…じゃあお願い。寝台だけ新しく買わせて!」
「フィルさんの寝台を新しく買うのは構わないわよ」
「エミルの寝台だと毎日一緒に寝られないからそれだけはお願いだから買わせて」
「う…うん、いいよ。お父さん達も今まで使っていた物の方が使い慣れていていいと思うから今持ってる物を使おうよ」
「分かった。足りない物は買うようにするから寝台だけは約束ね」
はぁぁ…そうだった、エミルはまだ知らない…。でもこれだけは譲りたくない。
そしてナジェルさん達の提案で結婚式当日は高級宿屋に泊まることにして予約を入れたが、快諾した俺とは逆でエミルは不思議そうな表情をしている。
「お父さん、お母さん、これから新居に住むのになんでわざわざ宿屋に泊まるのかわからないわ」
「そうなんだけどな、俺達やフィルの気持ちも分かってくれよ」
「私が何を分かってないの?」
「新婚なんだから初めて一緒に過ごす夜は誰でも大切なんだ。それに俺達も気を使うしフィルも気を使うだろ? 一日泊まるだけだから思い出? だと思えばいい」
「思い出……フィルさんも宿屋に泊まりたいの?」
「泊まりたい! 夫婦になったらもっと仲良くなるんでしょう? だから思い出をたくさん作ろうよ」
「うん、それならいいよ! だって夫婦になったら仲良くしすぎた方がいいからね」
「「「………」」」
こうして何とかエミルを説得した。指輪を選ぶときにもエミルは要らないと言うのでナジェルさん達に聞くと平民同士では指輪は必ず着ける習慣ではなく、本人達の希望と資金の問題もあり自由にしているそうだ。それでも独占欲の塊の俺はエミルに指輪を何としてでも着けさせたい。
「フィルさん、何度も言うけど私は指輪要らないの」
「どうして? 結婚したら指輪をしていると既婚者とわかるし愛を誓った印にもなるんだよ」
「誓うけど心に誓えばいいし、指輪は仕事の邪魔になるでしょう?」
「駄目だよ、俺はエミルに指輪を着けて欲しい。そうすれば変な男達も寄ってこないし僕だけの証になるから」
「フィルさんだけの?」
「そう、僕だけ。揃いで指輪を着けたい!」
「……うーん、それならいいけど飾り気のない指輪にしてね」
「勿論だよ。今度一緒に結婚指輪を選びに行こう」
エミルは宝飾店で指輪を選ぶと豪華な指輪には目もくれず本当にとても簡素な指輪を選択したのだ。
俺はせめて文字を彫らせて欲しいとお願いしてお互いの名前を裏に彫ってもらったので気が済んだ。
エミルは平民だからではなくて普段から着飾らず自分自身で魅力を出している。
だからドレスも宝飾品選びも結婚指輪と同じだった。
ドレスはナジェルさんが購入して母がこっそり針子に注文して刺繍を入れると綺麗な模様になったドレスを見て喜んだが宝飾品は要らないと言った。
教会も呼ぶ人が少ないという理由で王都で小さな教会を選んで満足そうにしている。俺はエミルの願いはできるだけ叶えてあげたいからそれでいい。
結婚準備をしている間に姉が元気な男の子を出産し名前はデビット、義兄が名付けた。
その頃、領地経営をしていた兄が帰ってきてエミルに会いたいと言うので会わせてみると今まで出会ったことのない純粋さに当惑していた。
これで会ったことのないメンデス家の人はライゼンにいるデュークだけになる。
エミルは兄も姉も慕ってくれて仲が良く、最近では姉の子供を頻繁に見たがり都合が合えば里帰りしている姉と子供に会いに行った。
そして殿下には結婚の日取りが決まったことを報告をする。
「殿下、おはようございます」
「おはよう、フィル」
「今日は結婚の日取りが決まりましたので報告致します。色々とご心配をおかけしましたが無事に結婚できることになりました」
「おめでとう! 私は長年フィルと過ごしているけれどこんなに幸せな報告を聞けて嬉しいよ」
「ありがたいお言葉をいただきましてありがとうございます。エミルにとってあのキャンディは心のお守りになりました。殿下には心より感謝申し上げます」
「相変わらず堅いよフィル。キャンディは偶然の賜物でしかないしフィルが努力した結果だ。だが私も少しは協力ができたなら良かったよ。それにトムの件は無事に解決したのか?」
「はい、トムと話をしましたがエミルが私と婚約したことを祝ってくれました。彼は近衛隊を目標にして鍛錬に励むと申しておりました」
「そう、トムが近衛を…。それはいつか見てみたいものだ。ところで挙式はどの教会だ?」
「はい、一応王都ですがニーヒスバル教会です。小さい教会なのですが場所はご存知でしょうか?」
「うーん、あの教会かな? 分かるけれど行ったことはないな。式の参列者どこまで呼ぶ予定?」
「エミル側は両親、友人2人の予定で私の方もメンデス家だけで平民同士になりますからほぼ身内のみの挙式にします」
「そうか、なら良い」
良いとは何だろう? 平民だから豪華な結婚式にしなくて良かったという意味か?
「殿下、長期休暇の件ですがライゼンに新婚旅行に行く予定です。しかしまだ日程を決めておりませんので後日改めて報告致します」
「ライゼンに行くのか、近年では3年前に訪れたな。小さな国だが良い国だから新婚旅行なんて羨ましいぞ」
「はい、エミルの父親も人当たりが良い人が多い国だと言っておりました」
「まさにそうだった。王族や宮殿関係者も人当たりが良かったな」
「デュークもまだ帰らないと宣言しておりましたし居心地がとても良いのでしょう」
「デュークもいい歳なのにまだ帰らないのか。帰ってきたら私のところに顔を出すよう伝えてくれよ」
「はい、承知致しました」
殿下とデュークはチェス仲間で気が合い仲が良い。久しぶりにデュークが帰ってくるので殿下は嬉しそうだった。




