2度目の求婚
ザックとラミユに会ってから6日が経ち今日は実家へ帰る日だ。事前に手紙で知らせたが母からすぐに返事がきたから待ちきれない様子である。
恋人からやり直しているからまずは恋人を家族に紹介するところから始めようと思いエミルを迎えに行く。
実家に帰る途中、エミルは緊張していたが前回よりもだいぶ普段通りな様子なので胸を撫で下ろす。
実家に着くとロダンが俺達を出迎えた。メンデス家ではエミルの事情を全て把握しているので挨拶もエミルに合わせてくれたのにはありがたい。
挨拶が終わりロダンが玄関の扉を開くと母とお腹が大きくなった姉が俺達を迎えたが、なぜにまた姉?
「母上、姉上、ご無沙汰しております」
「フィル、お帰りなさい。まあまあ! エミルち…初めまして、フィルの母でシェリーナよ。よろしくね」
「エミ…初めまして、私は姉のカトリーヌ。よろしくね」
「あの、前回のことを覚えていなくてごめんなさい。私はエミルです、よろしくお願いします」
「気にしなくてもいいわ。カトリーヌ、エミルちゃんを庭に案内して先に行ってなさい。フィル、あなたは応接室に来るのよ」
エミルは姉と中庭へ行ってしまった…。俺はなぜかご機嫌斜めそうな母と応接室に入る。
「母上、何か私にお話があるのでしょうか?」
「フィル、あなた…、メッシュバルンに連れ去られたと聞いていましたが捕らわれた身であったのにも関わらず何をしていたのかしら?」
「えっ? ニルセンブリナに帰る方法を探していました」
「ではこの手紙はどう説明するつもりですか? エミルちゃんという可愛い婚約者がいるのに私は嘆かわしい思いです」
? 状況が全くわからずとりあえず手紙を読むことにした。……あの女、腹が立つ。手紙はメッシュバルン王国の伯爵家の娘からだった。内容は恋文だが破廉恥な類の内容であり腹が立ちすぎで手のひらで握り潰してしまう。
「この手紙は5日前にメンデス家宛てに届きましたが我が国では知らない家名でしたので不審に思いお父様へ相談の上で封を開けて中を調べました」
「はい、問題ございません」
「この手紙を見る限りですがあなたは何をしていたのかしら? しかもこのように破廉恥な手紙を書くような女性と…」
「母上、誤解です。色々な事情がありまして…。この女性から情報を引き出すために近づいただけで男女の関係は決してありません」
「破廉恥な部分を除いたとしてもあなたと婚約の約束までしていると書いてあるではないですか?」
「それは相手が私の策にはまり勝手に思い込んで婚約すると言っていただけです。おそらく今のメッシュバルンでは父親の伯爵は没落気味なので娘の婚約相手も見つけることができないそうです。最近では領地経営も上手くいかず今まで散財していた分の金に困っていると聞きました」
「それであなたを頼りに手紙を出してきたというわけですか?」
「さぁ? はっきりとした理由は分かりませんが短い間にも関わらずかなり私に好意を寄せてきましたし未だに探しているとも聞きました」
「フィル、疑うわけではありませんがエミルちゃんがいながらこのような女性とまさか…」
「ですから本当に違います。私はエミルを一途に愛していますからあり得ませんし仕事で仕方なく接触しただけです」
「分かりました、あなたを信じましょう。それでは今後この家名からの手紙は処分します。エミルちゃんが待っているから庭へ行きましょう」
「はい、よろしくお願いします」
チッ、あの女まだ諦めていないのか? あんな手紙を送ってきてまだ好かれかていると勘違いしていたからザックとラミユに話を聞いておいて良かったと思う。
母と一緒に中庭に行くとエミルが笑いながら姉のお腹に頬を寄せながら摩っていた。
「フィルさん、凄いんだよ! 話しかけたらお腹の中の子供がたくさん動くの。近所のおばさんのお腹も触ったことがあるけどこんなに動くのは初めて。とっても不思議だよね」
「そう、感動した? しかし姉さん腹が大きいな…」
「もうすぐ8ヶ月になるところだから当然じゃない。順調に育っている証拠よ」
「あとどれくらいしたら産まれますか?」
「予定では2ヶ月くらいかしら。エミルちゃんは子供が好き?」
「はい、大好きです。昔、お母さんは身体があまり丈夫でなかったしお父さんは仕事で家にいない日がたくさんあって兄弟がいないと言われました。だから私はお母さんになったらたくさん子供が欲しいです」
「やっぱり変わっていないわね。エミルちゃん、たくさん子供が欲しいならフィルに頼むといいわ」
「フィルさん? 夫婦が仲良くしてたら子供ができるからと聞いたことはあります」
「そうよ、仲良くしすぎるくらいがいいわ。フィルはしたいみたいだからエミルちゃん次第ね」
「フィルさん、夫婦になれたら私と仲良くしすぎてください」
ブホッ、話の流れはわかっていたのに紅茶を吹き出してしまいそうになった。
「エミル…、僕はたくさん仲良くしたいから心配しなくても大丈夫だよ。結婚したら夫婦が仲良くなる方法をちゃんと教えてあげるからね」
「「おほほほ」」
「そうだわエミルちゃん。今度来るときにはご両親も一緒に夕食にいらっしゃい。そうね、緊張しなくてもいいから14日以内に楽しく食事をしましょうね。フィル、分かりましたか?」
「はい、承知致しました」
「私も出産はもう少し先だから夫の許可が出たら参加するわ」
「あの、私も両親も貴族の方と食事をしたことがありませんがいいのでしょうか?」
「あら、マナーなんて気にしなくてもいいのよ。エミルちゃんは初めてかもしれないけれどご両親は2回目よ。それにエミルちゃんの好きな食事を用意しておくから待っているわ」
「はい、ありがとうございます。楽しみにしていますね」
その後も母と姉はエミルを可愛がり満足したようだった。帰りに以前求婚した植物園に立ち寄り散歩をしてみるが何か思い出してくれるだろうか……。
「エミル、この植物園は前にも2人で来たけど今日みたいに実家から帰るときに立ち寄ったんだ。母は早く求婚してきなさいと言ってたから僕はものすごく緊張していたんだ」
「フィルさんはお母さんに言われたから?」
「違うよ、婚約しなくてもいいから一日でも早く結婚したかったのは僕の方なんだ。母は結婚するまで筋を通しなさいと言ってたからエミルに求婚してご両親に承諾を得て婚約してから最後に結婚する流れにするためだよ」
「私はその時ちゃんと返事をしたのかな?」
「勿論してくれたよ。エミル、僕達は前から婚約しているけど改めてエミルに伝えたい。僕はエミルがずっと傍にいて欲しいし家族を作りたい。エミルとしか結婚できないし君しか愛せない。一生守って添い遂げる。だから僕と結婚してくれないか?」
「私もフィルさんと結婚して家族を作りたいしずっと傍にいたい。本当に嬉しい! ありがとうフィルさん」
「エミル、愛してるよ。今までもこれからもずっと愛してる」
「私もフィルさんが大好きで愛しています」
エミルの腰を強く抱き寄せ潤った唇に近づき自分の唇を押し当てると久しぶりに舌を絡ませながら口付けをする。こうなってしまったらもう自分を止められない…。エミルへの愛が溢れすぎて俺は満足するまでエミルを離せなかった。
これでようやく婚約まで進むことができた。エミルを家に送りナジェルさんとマリアさんに報告をしたらとても喜んでいる。
求婚を受け入れてくれた記念と言って衣囊に入っているキャンディをエミルへ全て渡し、俺は心が満たされた思いで自宅に帰った。




