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2人の初恋   作者: 朧霧
33/47

最初から

 今日はエミルと一緒に昼食を取る約束をしている。

メッシュバルンにいた頃は毎日が憂鬱だったのに出かけるだけで自然に心が躍る。

時間に余裕がある俺は自宅にあるキャンディの在庫が少なくなっていたので午前中に商会へ行き、取り寄せていたキャンディを引き取った。


しばらく来ていなかったから店主に心配をされたが仕事で遠くに行っていたと誤魔化して引き続き商品を入荷して欲しいと依頼をし前金を支払った。


一旦、家に帰りキャンディを置いてからエミルの店に行く。


「エミル、こんにちは。はい、キャンディどうぞ」


「あっ、フィルさんこんにちは。うわぁ! こんなにたくさん、ありがとうございます」


エミルは多めに渡したキャンディを受け取り満面の笑みを浮かべている。あぁぁ、可愛すぎておかしくなりそうだ。変わり者だと思われないように今すぐにでも触れたい気持ちを必死に抑える。


「これからご飯を食べに行こうか」


「少し待っていてください。お父さんに言ってきますね」


エミルは裏にいるナジェルさんの元へ行き許可をもらいに行った。エミルが戻ってくるとナジェルさんも来た。


「よお、フィル。これからエミルと昼食か?」


「こんにちは、ナジェルさん。エミルをお借りしますね」


「お父さん、とても仲良しなのね。私、全く知らなかったわ」


「あぁ、そうだな。フィルとは仲が良いし俺が信用している奴だから安心して行ってきていいぞ。フィル、よろしく頼む」


「お任せください。では、行ってきます」


エミルをお気に入りの屋台に連れて行く。


「エミル、この店のサンドイッチ好きでしょう? 天気が良いから公園で食べようよ」


「うん、このお店のサンドイッチは美味しいし外で食べたら気持ち良さそうだね」


以前エミルと食べたサンドイッチを買ってから公園に行き同じ場所のベンチに座る。


「お腹空いたね。はい、召し上がれ」


「ありがとうございます、いただきます。でもフィルさん、私が好きなお店がよく分かるね?」


「エミルの好きな食べ物、好きな色、行ってみたい場所、してみたいこと、それに記憶のことも言い切れないほどたくさん知っているよ」


「そ、そうなんだ。私もお父さんみたいにフィルさんと仲良かったのかな?」 


「とても仲良かったよ。そうだ! 今度俺が休みの日に一緒に出かけよう。ナジェルさんにはちゃんと許可をもらうから」


「お出かけ? はい、行きたいな。あ、でも明後日は予定があるから駄目です」


「予定?」


「はい、トムと出かける約束をしているから明後日は都合が悪いの」


「トムはエミルの友人? それとも好きな人?」


「好きか嫌いかを聞かれたから好きかな。幼馴染みだし優しいし一緒にいて楽しいから。それに幼馴染みのメイも好きですよ」


「そうか…幼馴染みなだけでトムに特別な感情はないよね? その恋人のようにトムのことが好きとか…」


「恋人? 違います、幼馴染として好きです。トムは違うかもしれないけど…」


「トムに好きだと告白されたの?」


「そ、そうです。トムのことはそういう好きではないのに本人に何て答えたらいいのか分からないの」


「エミルは今まで恋をしたことがある?」


「ううん、一度もないから分からなくて困ってる」


「恋をするとその人ことをいつも考えてしまって胸が高鳴り会いたくなったり触れ合いたくなったりするんだ。愛してる気持ちが溢れてくるといつも傍にいて欲しいと願い、一生幸せにしたいから結婚して家族を作りたいと思ったりする。

逆に会えないと息もできないほど苦しく感じたり、胸が痛くなったり悲しくなったりしてとても大変なんだ。エミルは恋をしたことがなくてもトムに対して恋する思いがなかれば正直に話した方がいいよ」


「会えないと胸が痛くなったり、息が苦しくなったり、悲しくなったり…フィルさんは恋をしたことがあるの?」


「あるよ、僕が一目惚れして恋をした。しばらく離れてしまったけど毎日会いたくて堪らなかったし会えない不満が溜まると夢を見たりして辛かった。頭では仕事で仕方ないと理解しているのにとても我慢したよ」


「そんなに苦しんだんだ。その人とはもう会えたの?」


「会えた…。夢にまで出てきた本人に会ったときには嬉しくて前よりも更に愛しいと思ったよ。僕にとって本当に大切な人だからね」


「良かったね、恋人に会えて」


「それがね、その人は俺のことを覚えていなかったんだ。でも大切な人だから諦めないでまた最初からやり直すよ。その人と離れる前に約束したし愛しているから」


「忘れてしまったの? 私と同じ病の人…フィルさんの願いが早く叶うといいね!」


「絶対叶えるよ。エミル、その人との思い出の場所に一緒に行ってくれるかな?」


「えっ…、その人じゃなくて私でいいのかな?」


「そう、エミルがいい。駄目かな?」


「いいよ、お父さんに言えば私は手伝いを休めるからフィルさんがお休みの日に行こうね」


「ありがとう。仕事があって少し先になってしまうけど次の休みに行こう。約束だよ」


「うん、約束する。そういえばフィルさんはどんなお仕事をしているの?」


「僕の仕事は騎士団で3ヶ月前くらいから任務で遠くに行っていたけどやっと王都に帰ってくることができた」


「騎士団? そうなんだ。トムもね、最近騎士団に入ったんだって」


「最近?」


「10歳くらいのときに王都から田舎に引越しをして領兵になったけど最近騎士団の試験を受けたら合格して王都に来たと言ってた」


「入団生か…。僕は騎士団でも近衛隊で任務が同じではないから入団したばかりのトムのことは知らなかったよ」


「そうなんだ…でも偶然会うかもしれないね」


「偶然会えたら声をかけてみるよ」


エミルとの昼食を終えて店に送って行った。エミルがトムに対してその気はないのがよく分かったが早く元に戻らないとエミルを奪われてしまうようで俺は居ても立っても居られなかった……。


翌朝、2日間の休暇を終えたので仕事へ行く。


「殿下、おはようございます。2日間の休暇をいただきありがとうございました」


「おはよう、2日間だけしか休みをあげられなくてすまない。それでエミルさんとは無事に会えたかな?」


「はい、会いましたがやはり私の記憶は一切残っていませんでした」


「3ヶ月だからな…フィルはエミルさんに2人が婚約している仲だと話したのか?」


「いいえ、話しておりません。これからやり直していくことにしましたが必ず結婚します」


「やり直すのか…何も力になれなかった。1ヶ月後くらいなら溜まっている休暇を使って長期休暇をいつでも取っていいぞ」


「ありがとうございます。でも長期休暇は新婚旅行まで取っておきます。ライゼン王国にいるお世話になった伯爵家に行く約束もしていますので」


「デュークも世話になっているしエミルさんにも会いたがっているみたいだから良い案だ。でもそうなるとメンデス伯爵夫人が付いて行きそうだな」


「新婚旅行に親が付いて来るなんて嫌です…」


「ははは! それでフィルはどのようにしてやり直していくのかな?」


「エミルとの思い出をできるだけ再現してみようかと思っています。父親から聞いたのですが私があげたキャンディの瓶を毎日眺めたり抱きしめて寝ていたりしていたみたいですし、キャンディが無くなると泣いていたそうです」


「あのキャンディか? 不味い味の…。ずっと渡していたのか?」


「パイゼン領に行く前の日まで渡していました。3ヶ月も経ったら無くなってしまったのですが、無意識でも少しは思い出してくれているのかもしれません」


「キャンディ一つでも役に立つこともあるんだな」


「はい、殿下のおかげでエミルに少しは影響を与えることができていたと思いますのでありがとうございました」


「良かったな。早く2人の関係が元に戻れるように願っているよ」


「ところが私がいない間にエミルに近寄っていた男がいまして大問題です」


「店の客か? まさかまた変な男に絡まれていたりしないだろうな?」


「エミルの幼馴染みが子供の頃、田舎に引越したようですが最近騎士団の入団試験に合格し王都に来たそうです」


「騎士団? まさかそんなに身近にいたのか…」


「はい、エミルにその気はないのは確認しましたが私は気を揉んでいます」


「恋敵出現だな。でも正式に婚約しているから大丈夫だろう」


「それが幼馴染みは婚約したことを知らないのです」


「フィルが幼馴染みに直接婚約の話をしてみれば良いのではないか?」


そうか、俺がエミルと婚約しているとトムに宣言すれば諦めてくれるだろうか?


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