王都へ
陛下の伝令が届いてから15日が経ちその間に各国から声明が出された。
イルマルーンはメッシュバルンの王太子即位を支持する声明を出し、我が国とライゼンはイルマルーンを支援すると声明を出した。
そしてパイゼン領にいる俺達にも殿下経由でイルマルーン側が報告してきたこれまでの経緯が伝わる。
メッシュバルン国内では国民や反乱者達が現国王の退位を求める運動を日に日に盛んに繰り広げ貴族達も続々と王太子支持派になっていった。
王太子はイルマルーンの軍を率いてメッシュバルン入ったが迎え撃つはずの兵士は王太子の帰国を待ち望んでいたようで抵抗せずに迎え入れ王都の宮殿を制圧した。
現国王はこの時点で観念して玉座に座っていただけで大人しく退位を受け入れ、王妃と共に塔に幽閉されることになる。実は一番厄介で諦めが悪かったのは宰相であった。宰相は軍事路線の現国王を巧みに操り独裁者に仕立て上げ影に隠れて国を支配していた。
宰相の陰謀が明るみに出たことで一族断絶と厳しい処分となり王太子は国王に即位する。
二国間の取決めの詳細まではわからないがイルマルーンはメッシュバルンを現段階では属国とし引き続き国王に即位した王太子を支援すると声明を出した。
我が国とライゼンもイルマルーンと同様にメッシュバルンの新しく即位した国王を支援すると声明を出した。
制圧に関してもイルマルーンの優れた軍事力だけでメッシュバルンの現国王を抑え込むことができたので我が国とライゼンは制圧には加わらず資金と物資援助を行った。
これでようやくメッシュバルンは立ち直るきっかけを掴み新しく国を作り直して周辺諸国にも平和をもたらすだろう。こうして殿下と側近、第三近衛隊、王都騎士団、精鋭部隊はパイゼン領から撤退することが決まった。
殿下は今回の件を振り返りパイゼン領や他の国境に隣接している領土に対して兵力を強化することが必要であると陛下に問題点を挙げた。国境隣接領土には定期的に精鋭部隊、王都騎士団を送り技術習得の訓練を実施することが決定する。
明日は約3ヶ月半振りにようやく王都に帰れることになる。エミルに会える嬉しさが込み上げてくるが全て忘れてしまっているという不安も抱きながら眠りについた。
翌朝、撤退組は行きと同じように分かれて王都に向かった。殿下と側近は第三近衛隊が同行して馬車で移動、精鋭部隊と王都騎士団は馬のみで王都へ向かう。
馬車では2日ほどかかるので途中の町で宿を一泊して予定通り王都に着く。宮殿では殿下と共に陛下へ帰還の報告を済ませ自宅へ帰ったのは深夜になる。
エミルに会いたくて堪らなかったが気持ちを抑えて明日にした……。
俺は2日間の休日を与えられていたので昼に花屋へ行く。遠くからでも死ぬほど会いたかったエミルの姿が見えて足を止め眺めていたらナジェルさんが俺に気がつき近づいてきた。
「ナジェルさん、お久しぶりです。遅くなりまして申し訳ございません。昨夜、王都に帰ってきました」
「おかえり、久しぶりだな。元気か? 怪我はないか?」
「はい、色々ありましたがおかげさまで元気です」
「良かった…。随分長かったから心配したぞ」
「ナジェルさんには手紙を出したかったのですが実は他国へ連れ去られまして…。自国に帰ってきても状況が悪かったので連絡できませんでした」
「連れ去られたってお前…、とにかく無事だったんだな?」
「はい、幸いにも帰ることができましたので無事でした。それであの…」
「エミルか? フィルのことは全て忘れている。何もできずにすまない」
「覚悟はしていたので大丈夫です。最初からやり直しますから僕達を見守ってください」
「あぁ、それがだな…。お前がいない間にエミルのことを好きな奴が出てきてしまって」
「まさか! その男と交際をしているのですか?」
「いや、してない。エミルは何とも思っていないようだが相手の男は幼馴染でずっとエミルのことが好きだったみたいだから近寄っている」
「ナジェルさん、エミルは僕の婚約者ですよ。その男に事実を伝えていただければ…」
「お前の言いたいことは分かるが本人が覚えていないから婚約を説明できないだろ?」
「あ、はい。焦りました、すみません」
「だからな、俺はお前のために何もできなかったんだよ。本当にすまない、フィル」
「事情はわかりましたが僕はエミルと必ず結婚します。何度でも最初からやり直しますのでお時間をください」
「分かった。俺もお前を家族として認めているからエミルのことをよろしく頼む。それとな、エミルは覚えていないがキャンディが無くなってしまって泣いていたり瓶を抱きしめて寝たりしている。誰に貰ったとか色々聞かれたから俺の知り合いのお前に貰ったと言ってある」
「エミルが…分かりました。最初はそのように話を合わせておきます」
「エミルに会いたいだろ? 早く行ってこい」
ナジェルさんと別れて店の前に行く。あぁ幸せだ…、手の届く距離に笑顔のエミルがいる。
「いらっしゃいませ! 綺麗なお花がたくさんあるので見ていってください」
「こんにちは、エミルさん」
「……私をご存知ですか? すみません、私は…」
「僕はナジェルさんの知り合いなんだ。昨日王都に帰ってきて久しぶりに店に来たから覚えていなくても当然だよ」
「お父さんの? あ! もしかしてキャンディをくれた人ですか?」
俺は衣囊からキャンディを全て取り出してエミルに見せると目を輝かす。
「このキャンディかな? そうだとしたら僕だよ、気に入ったかい?」
「私ね、このキャンディを探していたけどどこのお店も売っていないの。お父さんに聞いたらキャンディをくれた人は遠くに行ってしまったから売っているお店は聞けないと言われちゃって…」
「はい、エミルさんにたくさんあげる」
「うわぁ! 嬉しい、ありがとうございます」
「これから毎日お店に来てエミルさんにキャンディをあげるから探しに行かなくていいよ」
「毎日? お花が好きなんですね。ところでこのキャンディはどこのお店に売っているの?」
「うーん、王都では売っていないかな。そのキャンディは僕が取り寄せているから買うのは無理なんだ。心配しないで大丈夫、約束するよ」
「売っていないのね…だから探しても見つけられなかったんだ」
「そんなにそのキャンディが好きなの?」
「美味しいと言われたら美味しいような? 美味しくないような…。でもね、瓶にたくさん入っているのを見たり舐めたりすると落ち着くし安心するの。反対に無くなると悲しくなって不安になるから帰ってきてくれて良かった!」
「僕の名前はフィルバート、フィルと呼んでね。エミルさんはエミルでいいかな?」
「フィルさん? フィルさん……あ、エミルでいいですよ」
「ありがとう。また明日来るから昼食を一緒に取らない? ナジェルさんの許可はもらっておくから」
「フィルさんのお仕事は大丈夫ですか?」
「明日は休みだから大丈夫だよ。店に迎えに来るから待っていてね」
「はい! 待っています」
俺はエミルと約束を交わし店を去って行った。
3ヶ月振りに会えたエミルを思い切り抱きしめたかったのにできなかった。全て忘れているエミルを焦らすことはしたくないし無理に思い出させることもしたくない。
そんなことはしたくないと思うのにエミルに触れて抱きしめて口付けしたい。
正に板挟み状態な俺だった…。




