幼馴染みのトム
私のお父さんは花屋、お母さんは雑貨屋を営んでいるので毎日両方の手伝いをします。
今日もお店の留守番をしていたら友人のメイが来てくれた。
「エミル、留守番なの? あれほどおじさんに一人で留守番させたら駄目だと言ったのに」
「えっ、何で? 留守番なんていつもしているから平気よ」
「あっ! そうだった…あの男達のことは覚えてないわね。エミル、質問だけどフィルバートさんのことは覚えている?」
「フィルバートさん……お父さんの知り合いの人だったかな? 何で?」
「ううん、何でもないから気にしないで。それよりさぁ、幼馴染みのトムが久しぶりに帰ってきたのよ。あ、トムのことも覚えてないよね?」
「トム?……ごめんね、覚えてないわ」
「そうだよね、小さい頃にみんなで遊んでいたんだけど10歳くらいのときに王都から母親の実家に引越したのよ。でもね、最近王都で働くことが決まって田舎から出てきたんだって。当時もう1人サニーという男の子がいたんだけどトムの後に王都から引越ししたのよ。
トムにサニーのことを聞いてみたら行方はわからないみたいだった」
「私もトムとサニーと仲が良かったの?」
「うん、いつも4人で遊んで仲良しだったよ。子供の頃の顔しか覚えていないしかなり時間が経っているから最初は分からなかったんだ。声をかけられて話していたらやっとトムだと気づいて懐かしくなったわ。大人になったトムは顔が男らしいし背も高くて驚いた」
「そう…私もメイみたいに昔のことを思い出せるといいな」
「もしかしたらずっと一緒に遊んでたし懐かしくて思い出せるかもよ。トムは相変わらず優しいところは変わっていないからそんなことは気にしなくていいわ」
「うん、トムが嫌な思いをしなければ私も会ってみたいわ」
「分かった。トムにはエミルのことを話してみるから今度連れてきてあげる」
「うん、ありがとうメイ」
メイが帰ってからトムを思い出そうとしても全く思い出せない。それとメイが言っていたフィルバートさんはお父さんさんの知り合い? 私とも話したことがあったのかな? うーん、何も思い出せないなぁ……。
トムは幼馴染みだと分かったけどフィルバートさんのことが気になった私は家に帰ってからお父さんに聞いてみることにした。
「ねぇ、お父さん。フィルバートさんという人はお父さんの知り合い? 今日ね、メイにその人のことを覚えているか聞かれたの」
「ん? そうだ。フィルバートは父さんの知り合いだよ。それがどうかしたか?」
「全く分からないから私もお話したことがあるのかなって思ったの」
「どうだろうな…、俺に用があって店に来れば話したんじゃないか?」
「そっかぁ、お店に来たらみんな話すからね」
「あぁ、そうだとも。エミルはお客さんに愛想がいいからな」
お父さんに聞いたら知り合いだって言ってたし話したことはありそうだなと思ったので今度メイにあったら伝えよう。
部屋に戻ると机の上にキャンディが入った瓶があってふと目についた。前からあるけれど何で私の部屋にあるなかな?その瓶を眺めていると胸に抱えたくなりそのまま寝ました。そうだ、明日はキャンディを舐めてみようかな……。
「やぁ、エミル! 小さい頃も可愛かったけど大人になったらもっと可愛くなったね」
誰だろう? メイが来てから3日後に知らない男の人がお店に来たけど、どうやら私のことを知っているみたいで困ったな。
「えっと、どなた様ですか?」
「あ、そうだった。俺は幼馴染みのトムだよ。メイから話は聞いてるでしょう?」
「あなたがトム? ごめんなさい。あの私……」
「メイからエミルの病を聞いているから大丈夫だよ。それに俺はちゃんとエミルもメイも覚えていたから気にしないで」
「うん、ありがとう。私達、小さい頃によく遊んでいたのよね?」
「そうだよ、メイはお転婆だったけどエミルはいつもメイを追いかけていてメイとエミルを俺とサニーが後ろからついていってた。エミルがメイを一生懸命追いかけるのが可愛かったよ」
「そ、そうなんだ。また小さい頃の話を私に聞かせてくれるかな?」
「勿論いいよ! 今度はゆっくり話をしようよ。明後日俺は仕事が休みなんだけどエミルは?」
「私は手伝いでお休みは決まっていないからお父さん達に言えば大丈夫」
「じゃあ、明後日に店に迎えに来るよ」
「うん、ありがとう! 明後日ね」
トムは私と約束をして帰ったけどトムから小さい頃の話をたくさん聞けばもしかして何か思い出せるかなぁ?
その夜、瓶の中に入っているキャンディが気になって舐めてみたけど変な味がしたの。腐っている? でも舐めていると爽やかな味に慣れてきたわ。
よく舐めるキャンディとは全く異なる味でまた舐めたくなったけど勿体ない気がして一日一個にすることにしたの。その日の夜も私はなぜか瓶を抱きしめて寝てしまった。突然瓶や飴を気になり出すなんてなんだか変だし落ち着かないわ。
2日後、トムがお店に迎えにきて近くの公園に行きベンチに座って話をする。
「懐かしいな、この公園も変わっていないね」
「うん、昔からあるけど変わっていないよ。むしろどんどん綺麗な公園になっていくの」
「小さい頃、あそこにある噴水の端をみんなで歩いていたらメイが落ちそうになってそれを見たエミルが助けようとしたんだ」
「それで? どうなったの?」
「エミルがメイの腕を咄嗟に掴んでいるのを見て俺もエミルの腕を掴み、サニーが俺を助けるために腕を掴んだけれど噴水にみんなで落ちたんだ。体が小さかったから引っ張れなくて全身濡れちゃったんだけどみんなで大笑いしたよ」
「えっ、みんなで落ちたの?」
「そう、みんなで落ちた。暖かい季節だったから良かったけど濡れたまま帰ったら親達に怒られて泣いて謝ったんだよ」
「そうなんだ。たぶん私はメイを助けようとして必死だったのかな。トムとサニーは私とメイが危ないと思って助けてくれたんだね」
「うん、そうかな。だって俺はいつもエミルを後ろから見ていたからね」
「え? 私、そんなに危ないことばかりしていたのかな?」
「違うよ、俺はエミルが好きでいつも見ていたんだ。引越しても君がずっと好きだったし王都に来て会いたいと思っていたら偶然メイに会ったんだ。エミル、ずっと伝えたかったけど俺は君が小さい頃から好きだ。どうか俺の気持ちを受け入れて欲しい。考えてみてくれるかな?」
「う、うん。突然すぎて驚いちゃった…。それに男性を好きになったことがないからどうしたらいいのか分からなくて」
「そうだよね、エミルが可愛くて焦っちゃったけど返事は待つよ。俺のことを知って欲しいし考えて欲しいからまたエミルに会いに来るね」
「うん……」
私は男性から告白されたことも交際したこともないから突然トムに言われて嬉しいよりもとても困った。でもトムは真剣な顔をしていたのできちんと考えてみようと思う。
トムのことは今でも思い出せないけど嫌な印象もなくて良い人だと思うのになぜか息苦しくなって胸が痛む。公園に来てもベンチに座っても何をしていてもやるせない気持ちが湧き上がってきてトムには隠していたけど原因が分からない。
今までこんなこと一度もなかったのになんで? お父さん、お母さん、メイでも誰でもいいから私の症状が何か知っていたら教えて欲しい…。




