パイゼン領 ①
翌朝、殿下と側近レオンとミロード、第三近衛騎士団、第一と第二王都騎士団がパイゼン領に向けて出発した。
パイゼン領はニルセンブリナ王国の最北端にあり国土に対して横に細長いのでメッシュバルン王国、イルマルーン王国、ライゼン王国に隣接している。
隣接した部分の領土の割合はメッシュバルン7割、イルマルーン1割、ライゼン2割でメッシュバルンがほぼ占めている。
パイゼン領には国境付近に砦を三か所構えており東砦のインベル、西砦のミルナレ、中央砦のマドナラに分かれている。
最重要砦がマドラナ中央砦で他の二か所は小さな規模の砦である。
今回向かう目的地はマドラナ砦で殿下と側近は馬車で移動し王都騎士団は馬で移動するため俺達は遅れて到着する予定だ。
俺は馬車の護衛をしながら平和な自国の町や村を眺めて馬を走らせる。
恵まれた大地があり豊富な資源を持つ我が国だが、統治者の王族が優れた統治能力を持つおかげで長きにわたり平和で豊かな暮らしをもたらしている。
メッシュバルンのような独裁軍事路線の国では国民はまるで奴隷のようで救われないと思ってしまう。なぜならメッシュバルンよりも北に位置する厳しい環境の国々も様々な努力で他国と協力態勢をとりながら統治しているからだ。
我が国もそのような国々と交流し必要な支援物資を送ったり、軍事目的以外であればあらゆる産業の技術者の受け入れを認めて支援をしている。メッシュバルンは一切何も受け入れず交流を拒み続け孤立しているので隣接した国々は常に警戒をしなければならない。
陛下の指示により殿下は予めイルマルーンとライゼンへ緊急事態時の軍支援を要請したところ、両国共に我が国へ支援をすることを承諾している。
こうしてメッシュバルンへの警戒を最大限に引き上げての現地入りとなるが、今までの経緯を考えると果たしてどのような動きをするのか予測できない。
これから先、メッシュバルンと緊迫した関係がいつまで続くのか? もしかしたらこのまま何年も続いてしまうのだろうか…。
国境付近に近づくとパイゼン領の兵士が巡回しており不穏な空気が漂ってきたのを感じた。マドラナ砦には先発隊よりも1日遅れで到着し、パイゼン辺境伯、第一精鋭部隊長カンイン、王都騎士団長ジェームズが殿下を出迎える。
「皆、ご苦労だ。少し到着が遅くなってすまないね」
「殿下、遠路お越しいただきありがとうございます。早速ですが報告がありますので軍議をお願いします」
「分かった、すぐに始めよう。近衛兵は休憩を取っても構わないがフィルは軍議に参加するように」
「はい、承知致しました」
俺は殿下一同と共に会議室に入室した。
「パイゼン卿、ここ数ヶ月間の厳重警戒はご苦労だった。早速だが、細かい詳細は後でまとめて聞くからまずは重要事項に入ろうか」
「はい。昨日届いた伝書鳥からの通信によりますとメッシュバルンの国内で小さな反乱が起きているようです。今のところ軍が制圧しているようですが拡大傾向も見られるとのことです」
「そうか、国民からしたら反乱を起こしたくもなるな。だが、まだ確証を掴むには情報を見極める必要がある」
「それは今後反乱が拡大する場合には反乱者側を支援するお考えでしょうか?」
「他国の事に我が国が簡単に手を差し伸べることはできないからね。反乱者側の動きが加速して革命を起こすようであれば一考する余地があるだけだ」
「では今のところは現状維持するということでよろしいでしょうか?」
「向こうから仕掛けられたら我が国は応戦するしか方法がない。何か他に警戒する動きは?」
「はい、定かではありませんがマドナラ付近を巡回しておりますパイゼン兵が夜間に不穏な動きをしている人影を何度も目視しております。攻撃はしてこないため追跡しますが逃げ足が速く取り逃がしてしまい誠に申し訳ございません」
「危機的な状況に陥らないために油断は禁物だ。精鋭部隊とパイゼン兵で連携を取るようにして対策を講じること。特に今まで警戒が不十分な地域を再度見直し人員が不足するようであれば最終的には王都へ要請し動員する考えがある。私は明日から側近と第三近衛隊を帯同してそれぞれの警戒区域を視察する。問題点があれば指示を出すので全員に伝達するように」
「「「はい、承知致しました」」」
こうして今日の軍議は終了しそれぞれの部隊から細かい報告を殿下は受けていた。全ての報告が終わり殿下とレオン、ミロードと俺で明日からの打ち合わせをする。
「殿下、長時間の軍議お疲れ様でございました。明日からの視察予定はいかがなさいますか?」
「そうだな。パイゼン領の警戒区域は三か所に分かれているからどこから先に回るかだな」
「最重要砦であるこの周辺からにしましょうか?」
「レオンの意見が一番妥当だな。ミロードは他の考えがあるか?」
「私もレオンの意見に賛成しますがメッシュバルン側からしてみたら中央突破はせずに不意打ちを狙うこともあるかと考えます」
「どうするか…。フィル、君の考えも聞かせてくれるか?」
「はい、レオンとミロードの意見に同感ですがもし中央のマドナラから回らないのであれば西のミルナレからが良いかと」
「理由は?」
「イルマルーンとライゼンでは明らかに軍事力の差があります。自分が逆の立場なら軍事力が大きいイルマルーンでは捕らえられる確率が高く侵入できそうではないのでライゼンを経由します。このような理由でライゼン側にある西のミルナレを見直し問題点を先に見つけることが良いと考えました」
「そうか、レオンとミロードはどう思う?」
「私も中央のマドナラから回らないのであれば賛成します」
「私もフィルの考えに賛成します」
「分かった。マドナラは警備も十分であるから回る順序は西のミルナレ、次に東のインベル、最後にマドナラにしよう」
「「「承知致しました」」」
「ではレオンとミロードは軍議の出席者に説明して伝達するように。よろしく頼むよ」
「「はい、失礼致します」」
「フィルも明日から視察に入るから第三近衛隊へ伝達するように。それから近衛兵は長時間馬を走らせていたから明朝まで休んでいい。ご苦労だった」
「承知致しました。ありがとうございます」
護衛でやはり疲れは出ていたから明朝まで休みを与えられたことに感謝した。
自分に与えられた部屋に入り現地入りしたばかりだがエミルに手紙を書く。マドナラ砦から出される手紙は検閲官を通して王都の宮殿へ一度送られることになっている。宛先をメンデス家にしてエミルの記憶がなくなる前に届けてもらうことを母にお願いした。
愛してるとは書けないから俺が元気でいること、エミルに会いたいことくらいしか伝えられないのは仕方ない。エミルの記憶が少しでも残ることを願って就寝した。




