承諾 ②
実家に着くと執事のロダンが俺を出迎え応接室で両親を待つ。今日はクラリスの姿を見ないと思っていると両親が入室してきた。
「父上、母上ご無沙汰しております」
「フィル、久しぶりだな」
「やはり今日は1人なのね、残念だわ」
「はい、結婚の件で報告があります。先日、エミルのご両親から結婚の承諾をいただきました」
「あら、良かったわ。私はメンデス家にお嫁にきてくれるのがとても楽しみだもの!」
「母さんから聞いていたけど純粋で素直な性格の可愛い娘さんらしいな。それは良いとしてだな、平民の方のようだがお前は全てを理解しているのか?」
「勿論です。貴族や平民などは関係なく私が結婚するのはエミルが良いのです。自分が平民になることは承知しておりますし、彼女以外とは結婚したくありません」
「そうか、お前が選んだなら責任を持って最後まで添い遂げるんだぞ」
「はい、承諾していただきありがとうございます。実はもう一つ報告があるのですがエミルの記憶障害の件です」
「「記憶障害?」」
それから俺は事故と事件の経緯、症状についての説明をし日常の様子を話す。
「まさかリンベロ卿の被害者がエミルさんだったのか…。お前が事件を調査したとは聞いていたがそれで知り合ったのか?」
「はい、きっかけではありますね」
「でも先日エミルちゃんにお会いしたときには何も分からなかったわ」
「エミルは母上がまた来ることを楽しみにしてくれているのでとても気にしている様子でした。再び会っても覚えていないので不愉快な思いをさせてしまうと不安だったようです」
「では今度エミルちゃんに私が会ったら覚えていないのね」
「残念ながら14日過ぎてしまうので初対面のようになりますね」
「そんなこと…残念だけどまた最初から可愛がらなくてはね。
エミルちゃんはリンベロ卿の悪事に巻き込まれた被害者なのよ。人助けをしたのにこのような酷い仕打ちを受けるなど許せません。
フィル、安心しなさい。私はあなた達の味方になるわ」
「母上、ありがとうございます。エミルもご両親も喜びます」
「まぁ、母さんの話も理解できるがお前はエミルさんの病と向き合う覚悟はあるのか? それにもう医者には相談したのか?」
「はい、宮殿医師に確認したところ我が国では記憶障害に関する治療薬はなく、治療法もありません。
エミルのように一部分だけの症状がでたり、全て覚えていない人もいるので原因不明です。
ある日突然治る場合もあるし一生治らない場合もあるそうです。
しかし彼女は普通に生活できますし記憶を失う以外は問題がありませんので症状を理解してあげれば良いのです」
「フィル勘違いするなよ。私はエミルさんが問題のある娘さんだと思っているわけではないからな。お前が正しく相手を理解していて病と向き合いながら夫婦生活を送る覚悟があるのなら認める。中途半端な気持ちであれば本人もご両親も悲しむからな。
エミルさんは愚かな貴族の犠牲者であるからこれからはフィルが大切にしてあげなさい」
「はい。私はエミルに出会ってから忘れられたくなくて必死なくらいに彼女を愛しています。
父上、母上、病を理解していただき本当にありがとうございました」
「これから早速、婚約の準備をしないといけないわ。エミルちゃんとのご両親ともお会いしたいし結婚まで忙しくなるわ。フィル、段取りはわかっているわね?」
「はい、始めに両家の顔合わせから手配致しますが場所はメンデス家でよろしいでしょうか?」
「そうねぇ。エミルさんのご両親さえよろしければこちらに招待しましょう」
「はい、確認致します」
「それから遅くなりましたがメイドのクラリスの件です。エミルちゃんはどのような話をしていましたか?」
「エミルが私の部屋に案内してもらったときの話です。クラリスはエミルのことを平民で容姿も優れていない、マナーも習得できていないのに貴族と交際するなど相応しくないと責めました。このまま結婚をしたらメンデス家に傷が付くから別れろとも言ったそうです。エミルはその言葉を間に受け自分が世間知らずだったから私と別れると言いました。それで無関係な人の出過ぎた行為に腹が立ち手紙に書いたのです」
「また貴族がエミルちゃんを傷つけてしまったわ…私の友人であるポンドミール子爵夫人からお願いされてメイドに雇ったのが男爵家の娘であるクラリスなの。私もロダンも仕事はきちんとこなしていたから気がつかなかったわ。クラリスは次女だし年齢的にも焦っていて縁談を受けても上手くいかないから八つ当たりしたのね…。それにメンデス家にメイドとしてきたのも息子三人が独身だからという理由を隠していたのです。先日、ポンドミール子爵夫人に事情を話してから解雇しました。私、エミルちゃんにお詫びしたいわ」
「母上が謝罪しても負担になりますし忘れてしまうからいいと言っていました。俺もクラリスを解雇したなら安心です」
「分かりました。二度と傷つけないように気をつけるわ」
「はい、よろしくお願いします」
「ところでフィル、話は変わるが北の情勢はニードリッヒ殿下から聞いているよな」
「父上もすでにご存知でしたか。殿下からは今のところ現状維持と聞いております」
「そうか、これから厳しい状況にならなければいいのだが」
「はい、事態が進展すれば殿下に同行して現地へ行く予定です」
「そうだろうな。全くあの国はどこの国とも話し合いには応じず困ったものだ」
父はおそらく俺が結婚前後に現地に赴く状況になることを心配してくれているのであろう。
これで両家の許可をもらい婚約してから結婚することができることになった。
俺の仕事は不規則な時間が多いのでエミルは今まで通りご両親と同居すれば寂しくないだろうし記憶の件も安心できるので今の暮らしに俺が加わり一緒に暮らせば良いのだ。
であればもう少し広い家を探して同居し、俺の実家にはエミルを連れて帰る。よし、完璧な計画だ。
子供を授かれば更に家族が増えて幸せだろうしエミルはたくさん子供が欲しいと言ってたから叶えてあげよう。
仕事に忙しくて浪費せずにかなり貯金があるので子供が3、4人くらいいても大丈夫である。
賑やかな家族を想像すると夢が膨らみ愛する人と出会えた人生は最高に幸せだと感じる。
実家から自宅には帰らずエミルの家に行くことにした。せっかくなので母にお菓子を詰め合わせてもらい手土産にする。
「エミル、フィルだよ。開けて」
「フィルさん、おかえりなさい。今日はご実家に行くと言ってなかった?」
「行ってきたよ。はい、お土産のお菓子といつものキャンディ」
「たくさんありがとう! フィルさんの家のお菓子も? とっても嬉しいです」
「前回行ったときに喜んでいたから美味しいと思うよ」
「私もう覚えていないの…ごめんなさい」
「覚えてなくても初めて食べるお菓子を何回も美味しいと思えるんだから謝ることはないよ」
「うん、ありがとうフィルさん」
「それでナジェルさんとマリアさんはいるかな?実家へ行っていたのはエミルとの結婚も病のことも理解してもらうためだよ。父と母に承諾を得たからまずは両家の顔合わせからするんだ」
「本当? 私がお嫁さんでいいって言ってくれたの?」
「そうだよ、反対されなかったから安心して」
「嬉しい…反対されると思ってたから」
「反対されても僕はエミルと結婚する。でも家族には祝福された方が良いからね」
エミルと話をしていたらナジェルさんが来て顔合わせの相談をする。
病に関することの全てを両親に話し承諾を得たと伝えると安堵の表情を浮かべた。




