30 街
〇スクランブル交差点。昼。
大勢の通行人が行き交う。
学生服姿の育人、高層ビルをボーと下から見上げている。
警察官が、育人に職質をする。
警察官「君、何年生?こんな時間に何してる?」
育人「……社会見学」
警察官「ふざけるな!名前は?学校はどこだ?」
そこへ、越智絵里香刑事が現れ、警察手帳を見せる。
警察官、そのまま去ってゆく。
絵里香「中学生は平日の昼間、こんな所をうろついていないのよ。やっぱり、私がついてきてよかったでしょ?」
育人「まあな」
絵里香、嬉しそう。
育人「今日はお祭りか?」
絵里香「都会では毎日、こんなものですよ」
育人「世の中にはこんなに人がいるのか!?」
絵里香「育人は10年間、島から出たことなかったのでしょ」
育人「部屋から出たこともない」
絵里香「可愛そうな育人!育人が驚くのも無理ないですね」
○駅のホーム。
電車が停まる。
育人と絵里香、女性専用車両に乗り込む。
吊革につかまって立っている二人。
育人「なんだか、みんな、俺をジロジロ見ているぞ」
絵里香「ここは女性専用車両ですから。男が乗ってはいけないのですよ」
育人「ふーん。だったら男性専用車両に移動しようか」
絵里香「そんなのはありませんよ」
育人「なんだか、よくわからないな」
周囲の女性がジロジロと非難の目で育人を見ている。
育人、女性たちの顔を人差し指でサッと触ってゆく。
育人「文句あるか?」
女性客たち「いいえ!どうか、こちらにお座り下さい」
電車の座席に並んで座った二人。
育人「やはり、島で勉強しているだけではわからないことが一杯あるな」
絵里香「実日子先生が、育人は天才だって褒めてましたよ。まるで砂が水を吸うようにあっという間に教科書をマスターしたって」
育人「教科書なんか丸暗記したって、社会では役に立たないさ」
○ドーム球場。
男性アイドルのコンサートをしている。
周囲は若い女性ファンだらけ。
育人「若い女ばっかりだ!?」
絵里香「人気の男性アイドルのコンサートですからね。女の子ばっかり、5万人ぐらい集まっていますね」
育人「ここに俺の血を散布したら、たちまち5万の保護者が産まれるな!」
絵里香「いっそ、育人がアイドルになったらどうです?」
育人「バカらしい!どうして俺が人前で歌ったり踊ったりして媚びを売らないといけないんだ!」
絵里香「育人ならすぐにトップアイドルになれるのに勿体ないなあ!」
育人「俺は別の意味でアイドルになるつもりだ」
絵里香「別の意味?」
育人「偶像だ!」
慈愛の母
〇ビジネスホテル。朝。
鏡の前に座った育人。
絵里香が背後からロングヘアーのウィッグを育人につける。
つけまつげをつけ、化粧をする育人。
絵里香「(うっとりと)育人、奇麗です…」
〇ビル街の谷間にある神社。
境内に足を踏み入れる育人と絵里香。
育人は女装して純白のワンピース姿。
絵里香「こんな都会の真ん中なのに、山中のように静寂が深い神社ですね」
育人「新興宗教『慈愛の母』。神社というより女性の駆け込み寺だ。DV夫やストーカーに悩まされている女性を救いを求めて入信してくるそうだ」
絵里香「それで女装したのですね」
育人「ああ。ここには女しか入信できないからな」
参道を歩いていく育人の後ろをついて歩く絵里香。
絵里香(育人は自分の育ての母親が神社の巫女だったことを覚えているのかしら?)
育人「絵里香。何をボーとしてる?」
絵里香「は、はい!?すみません!」
育人「絵里香。これからは俺は女として生きていくぞ」
絵里香「えっ!?」
育人「男の姿だと女専用の場所には入れないからな。それに女の中にひとりだけ男だと目立つしな」
絵里香「育人なら端正な顔立ちをされていますから誰も疑いませんよ」
〇社務所。
巫女姿の受付に話かける絵里香。
絵里香「こんにちは」
巫女「ご参拝希望の方ですか?」
絵里香「入信希望者です」
巫女「でしたらこちらの用紙に必要事項を記入し、まず、入会金と事務費用をお支払い下さい」
育人「ええい!めんどくせー!」
育人が絵里香を押しのけて巫女に話しかける。
育人「ここの教祖に会わせろ!」
巫女「千晶様にですか!?なんと恐れ多いことを!千晶様に直接お会いできるのは極限られた方だけです!」
育人、巫女の額を人差し指で触れる。
巫女の身体に衝撃が走る。
育人「千晶様に会わせてくれ」
巫女「……ご案内します」
〇本殿に続く長い廊下。
巫女に続いて歩いて行く育人と絵里香。
白装束の女性達が巫女を制止する。
女性A「ちょっと、あなた方?どちらへ行くの?」
女性B「ここは信者以外立ち入り禁止よ」
絵里香、エアガンを取り出し、女性たちを育人の体液の染みたBB弾で撃つ。
たちまち女性達は大人しくなり、その場に座り込む。
育人「ここには女性しかいないのか?」
巫女「いえ。千晶様のご尊父様が宮司をされています」
育人「なるほど。そいつが千晶様を操って『慈愛の母』を運営しているわけだ」




