29 嵐
○村長宅、育人の部屋。早朝。
窓の外は暴風雨。
ベッドの上、横になりながらトランジスターラジオを聞いている育人。
ラジオ(台風23号は、引き続き大型で強い勢力を維持したまま九州を縦断し、山口県に再上陸しました)
育人、スマホでメールを一斉配信する。
○とある漁師の家。早朝。
布団で眠っている漁師の夫婦。
枕元に置いた妻のスマホが振動する。
急いで起きて、スマホを確認する妻。
スマホには「出漁せよ」のメッセージ。
妻、薬瓶から錠剤を取り出し、自分の口に含む。
夫に口移しで錠剤を飲ませる妻。
眠っている夫の瞼を指で開き、熟睡していることを確認する妻。
夫の寝巻を脱がし、服を着替えさせる。
長靴をはかせる。
雨合羽を着せる。
家の外から合図のクラクションが響く。
○同、漁師の家。玄関先。
暴風雨の中、玄関の前に小型トラックが停まっている。
漁師の妻を手伝って、眠っている雨合羽姿の漁師を荷台に載せる女たち。
既に荷台の上には数名の雨合羽姿の漁師が眠っている。
○女岩島港。
荷台に眠っている漁師を積んだトラックが数台、停車している。
大勢の女達がびしょ濡れになって、港に停泊している漁船に漁師たちを運んでいる。
杏奈「ダメダメ!佐藤さんは明王丸じゃなくて竜宝丸よ!」
あゆみ「いっけない!間違えるとこだったわ!」
杏奈「気をつけてよね。万が一、違う船から水死体が見つかったら不審がられるわよ」
〇荒れ狂う海。
数隻の漁船が港を出航してゆく。
漁船には雨合羽姿の漁師達が眠っている。
波が打ち付ける甲板の上を転がりまわる漁師達。
○女岩島港。
港の突堤に並び、船を見送る女達。
杏奈「オートパイロットでしっかりと暴風域目指して進んで行くわ」
あゆみ「これで島の男の九割を排除できましたね」
杏奈「残ったのは年寄りばっかりだし、放って置いても自然消滅するわね」
あゆみ「でも、これで島の収入源のほとんどがなくなっちゃいましたよ」
杏奈「大丈夫よ。育人が先のことまで考えているわ」
あゆみ「育人が!?」
杏奈「あの子、驚くほどの速度で知識を吸収しているわ。鋭いかみそりのような頭脳の持ち主よ。私たちはあの子の指示通りに動けばいいのよ」
○村長宅、育人の部屋。
薄暗い部屋。
窓辺に立ち、猛り狂う風雨をじっとみつめている育人。
育人の瞳が妖しく光る。




