三章 美結との通信、事件の前兆
あれからの日々は特に問題なく過ごす事になり、一週間が経った。
朝起きて、着替えてから自室で待機していた時、ゲントとキュルマが部屋に入ってきた。
「今日は静菜にとって朗報だ。漸く召喚した世界と連絡を取る事が可能になった。実際に試すのは昼食後となる。食事が終わってからまた、玉座の間に来てくれ。ニーニも連れて獣人化している事も教えねばならぬのでな」
(確かに私の飼い猫は獣人となりました、は普通にビックリするよなぁ)
地球基準だと、創作話の代表格だから普通なら妄言として片付けられる。後は誰と連絡が取れるかにもよるので、正直なところ、連絡が取れてから問題のない会話のやり取りができるのかも重要になり、油断のできない場面と言う事でもある。
二時間後に昼食となって、無事に連絡の儀式をする頃には午後三時になっていた。
玉座の間の現在の人の配置としては玉座に国王、その左側に私が立ち、王から少し前方の左側に妃、右側にゲントとニーニが立っている。
「それでは当初の約束通り、連絡を取れるようにする。シュピール、例の物を頼む」
国王は今回、連絡手段を取ってくれる者を呼ぶ。ゆっくりと妃の背後から左側に移動して現れた。黒いフードを被り、全身を覆う黒紫のローブで顔が全く見えない。
「父上、異世界となるので現時点では一時間が限界です。極力必要な話をするようにお願いします。では、早速」
変声期のような男子の声の持ち主は同席している全員に見えるよう、国王から少し前に離れ、妃とゲントから見て斜め前の位置に白くて凹凸の無い壁を高さ二メートル半ほどに生成する。そして、次の瞬間、部屋全体が暗くなってここで私はある事に気付く。
(やってることがプロジェクターだけど)
何だか既視感のある光景に異世界なのかと一瞬疑ってしまう瞬間だ。
とにかく、ここから一分ほどで全身ローブの第三皇子が別の魔法を使い、生成した壁に横長の長方形を白く照らした。やはり、やってる事がプロジェクターのそれである。
そして、数秒後に座っている人の姿が映し出される。映っていたのは黒髪のシャギーショートの女性でどことなく快活そうな感じだけど、私はこの女性を知っている。
「美結、久しぶり」
そう、彼女は美結で叔母の一人娘であり、高校卒業までは叔母と一緒に同居していた家族である。背後に映っている物も彼女の自室に元々ある物で、召喚前まで住んでいた家の彼女の自室で間違いないだろう。
「静菜、久しぶり。そこのローブ姿の男の子から数日前に連絡があって、今日は私だけ話す事になったんだよ」
どうやら、今日のやり取りをする為に打ち合わせをしていたらしい。しかし、叔母はどうしてるのだろうと思っていると
「お母さんは試合をやってるから、今日は私だけだね。一応、静菜の顔を見れたし、生存報告はお母さんにできるから心配しなくていいよ。それにしても……あの時の静菜だね、うん」
十歳若返った私を見て、しみじみと噛みしめているようだ。正直、恥ずかしいのだけれど。
「ああ、そうそう。今日までに色々と面白い事が判明したから、今日は大きく関わるところだけを教えておくよ」
美結は何の情報が分かったのだろう。この前置きをする彼女が口にする事は大体が重要な物で、思わず緊張してしまう。
「それではまず一つ目、実は高祖父の母に当たる人は妹と一緒にこの世界に召喚されています。それは大体百年前の出来事です」
この言葉を聞いた瞬間、国王と妃が明らかに表情が変わった。驚きと言う感情だろう。
「国王様に伝えたい事としては、その召喚された人の名前と言うのが〝沙晒美代子〟と〝沙晒君歌〟と言う姉妹でして、君歌さんが国王様の子孫と言う事みたいです」
美結の確定事項を聞いた国王は難しい顔をするが、妃は笑顔になって
「でしたら、私達と静菜は元々家族、と言う事でよろしいのですね」
こちらは嬉しそうな様子で答える。私としても、こんな人が実の親ならどれほど良かったかと思わずにはいられない。
「ですから、静菜の事は思い切ってあなた達に一任します。そのほうが静菜にとっても幸せでしょう。問題は……左側に立っている皇子と思える君だね」
ゲントを確認した途端、口調も尊大な物に変化させた。そして、なぜかゲント自身は強烈な威圧を感じて体が固まってしまう。
美結は彼の様子に構わず、話を続ける。
「そして、皇子君の左に立っている猫耳の少年は誰? ひょっとして、不倫相手か何か?」
とてつもなく失礼な物言いをした。私達はニーニと言う事を分かっているが、傍から見ると浮気相手にしか見えないのだろう。相変わらず固まったままの彼に代わり、笑顔を引きつらせている妃が答える。
「この子はニーニです。なぜか私が召喚した際に獣人化したみたいですね」
妃の答えに美結は一瞬言葉に詰まる。しかし、困惑しながらも声を上擦らせながら
「え、ニーニなんですか? うん、かわいいね。えーっと……ニーニ、不満な事はない?」
急にトーンダウンした声でニーニに月並みな質問をする。ニーニは気まずそうな彼女を知らない様子で無邪気に答える。
「うん、ゲント様は膝枕してくれたり、ご飯を少しずつ食べさせてくれたり、僕が構って欲しい時には前に顔を出した時も可愛がってくれているよ」
何の柵もないこの子の嬉しそうな態度に、美結はさらに気まずくなって、やがて
「皇子様、あなたを疑ってしまって、申し訳ございませんでした」
この件に関してはすっかり大人しくなってしまった彼女だった。
数秒の沈黙を経て美結は咳払いをし、仕切り直しをしてから話を再開する。
「そして二つ目、どうやら私や静菜も魔法自体は使えるみたいなんですが、私達の世界では魔法と言う物を使える仕組みではない為、いくらやっても使う事はできません。しかし、そちらの世界であれば私は自由自在に魔法を使う事ができるのですが、静菜の場合は極大魔法しか使えないでしょう。例えば、世界を滅ぼす規模の隕石を落とす、と言うのが分かり易い例ですね」
国王は今の言葉を聞くと、顔を少し俯けて考え込み始めた。妃はまた笑顔になったが、今度はゲントが発言をする。
「あなたの自由自在な魔法については今は置いておきます。それよりも問題は静菜と言う事ですね。何かの感情の起伏で暴走してしまうと世界が容易に滅びるので、そうならないように常に護ってくれと、そう言う事ですね」
彼の答えに彼女は笑顔になって返答する。
「そう言う事です。つまり、静菜を正式な次期妃として迎え入れるのなら、それぐらいのフォローはやってくださいね、と言う事です。お願いできますか?」
美結は念押しで改めて、国王と妃に再確認する。二人は黙って深く頷いて了承と言う意思を伝える。そしてさらに話は続く。
「まあ、とりあえず今日は最後の伝えるべき内容にしますが、これが三つ目になります。これは悪い情報になります。先日、人気の少ない施設に閉じ込めていた静菜の両親が脱獄しました。さらに被害者ならぬ〝加害者の会〟が集まって、そちらの世界に行って悪行の限りを尽くそうと画策しているみたいです。申し訳ございません」
衝撃の内容に私は当時の恐怖からその場に崩れ落ち、身動き出来なくなってしまう。左前に立っていた妃が私の近くに来て背中を擦り、両親がどれだけの悪人かと言うのをすぐに察した。一連の動作を見た国王は顔を歪めながら、美結に宣言する。
「異世界に跋扈する悪人共がもし、この国を侵略するのであれば、その時は終わりなき地獄へと葬ってくれよう」
ゲントも続いて宣言する。
「自己都合で召喚して申し訳ないと思ったが、これなら我が国が静菜を護り抜く為、こちらに呼ばれたのだと思える。そして、彼女の平穏の為、不届きの輩共は一人残らず消し去ってくれよう」
王族の面々は急に怒りを殺した様子で、私の為に怒ってくれている事に嬉しかった。
しかし、美結は場を冷やすように
「あ、ごめんね。今の状態はまだ、そこまで緊急性はないから心構えだけしてくださいと言う事です。もし、そちらの世界に行ってしまった場合はすぐに報告するので、心配しないでください」
申し訳なさそうに発言する。啖呵を切った国王とゲントも少し居心地悪そうな様子だ。
妃は微妙な場を打ち切る為、言葉を発する。
「また次も何かしら話してくれるのですよね? 今日はシュピールの魔力も限界のようですし、話したい事は次の機会でよろしいのではございませんか?」
困った様子の美結は妃の言葉に助かったと思いつつ、異世界との連絡を終える準備に入る。
「そうですね、シュピール様の負担を考えるとそろそろお開きでいいですね。シュピール様、本日はありがとうございました。そして今後とも、負担になると思いますが、異世界同士での通信の手配をよろしくお願いいたします」
美結は無言で魔法を使い続けている第三皇子に深々と礼をした。彼も表情は見えないが、笑顔で礼をしているように見えた。
「それじゃあ、またね静菜。今度また、色々と日常の話をしようね」
美結は私達に手を振って、十秒後に映像が消えて元の白い壁へと姿を戻す。魔法を使い続けていた第三皇子はさらに魔法を解除し、白い壁も取り除いて元の凹凸の無い床へと姿を戻した。
同席していた者達は大きく息をついて、気持ちを切り替える。
「美結と言う者に託されたな。彼女を」
第一声は国王が発する。妃は改めて笑顔になり
「良かったですね。静菜の家族にお墨付きと言うのは何よりも心強く思いますわ」
私を見つめる。ゲントも私を見つめるが意味が違っていて
「しかし、地球と言う星が比較的安全な世界だと書物に載っていたのだが、全く当てにならないな」
その目はどこか、自分達の世界で起こっている人身売買などを思い浮かべているようだ。近くに待機していた第三皇子は私達に無言で一礼して、玉座の間を去って行った。
そして代わるようにキュルマとユーリが入ってきて、それぞれ自室へと案内される。
自室に戻って入浴した後、ベッドの上で私は美結が最後に言っていた両親の件について考えてしまう。
それは勿論、私に危害を加える事が目的なのは目に見えているので、考えるだけで体が竦むのだ。もう二度と関わる事のない相手だと思っていただけに思わず泣きそうになってくる。
しかし、泣いていても仕方がない。とにかく今は最悪の事態に備え、ギルドの人達と情報共有して、解決策を練った方が良いだろう。
今日は体に力が入りそうにもない為、そのまま寝る事にした。




