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二章 2

 翌日、私専用のお召し物が完成し、自室に設置された。

 これまでの妃から頂いた物はそのまま使う事になり、正式な儀式などでは新しく届いた物を着用すると言う流れになった。

 届いた物を一通り確認すると、妃の場合はダークレッドや瑠璃紺と濃くて暗めの色が好きみたいだが、私はこれまでと同じピンク系で、装飾自体は妃の物に合わせていると言う物が多かった。違う物についてはおそらく、階級による印の違いと言うのが容易に想像つくけど、どのみち私は可愛がられているのだろう。そうでなければ、自身と同じ装飾に嫁候補となる私の衣装と合わせる事はないはずである。

 これまで自室で読んだ本の中にも、妃と姫、国王と皇子の衣装の装飾はかなり違っていたり、それが代替わりとしての色の違いと言う事になるのだけど、基本的に同じと言うのはシーグル王国の歴史ではなかったらしい。余計に王族としての振る舞いに気を付けないといけないので苦労する事もあるけど、少なくとも妃が喜んでくれるように努めないといけないと思う一場面だった。


 それからまた、日が過ぎて行き、召喚されてから一ヶ月強の事である。

 今日は昼食後に外出する機会があり、昼食前の対面で国王から詳細を聞く事になった。

「実は今日、第二皇子であるキュールに会わせようと思ってな。静菜もそろそろ、ここに慣れてきただろう。良い機会だから午後からゲズントの護衛で我が国が管理するギルドに行ってきてほしい」

(ん? 第二皇子がギルドに居るってどういう事?)

 ギルドに皇子が居る状態と言うのが良く分からなく、全く疑問である。すると、玉座の右前に立っていたゲントは

「キュールから『弟のシュピールも国を引き継ぐのは大変だから兄上に任せる』と言って任されたからな。それからは国の運営を父上や母上と一緒にやっているのだ」

(なるほど、だから城に二人の皇子が居なかったのか……)

 私が難しそうな顔をすると、ゲントは修正するように答える。

「いや、第三皇子のシュピールは魔法研究室で研究と銘打って部屋に籠っているだけだ」

 答えを聞いた私は彼を改めて優秀な皇子として認識する。そして、良く一人で次期国王としての仕事をしているなと感心してしまう。

「とにかくだ、食事をしてからゲズントと共に顔合わせをしてくるが良い」

 国王は咳払いをし、昼食後にやる事を伝えて話は終了する。


 ここからは昼食の時間となり、いつもは夕食に出てくる果物がいくつか出てきたので、私とゲントが優先的に頂いた。これは外出すると言う事で途中で倒れないようにする為、必要な栄養素を摂ってくれと言う事だろう。

 いつものように二時間弱で昼食が終わり、私は自室に戻ってから外出着に着替え、ゲントと共に城を出る事になった。

 私が今、着ている物は白を基調とした長袖のロングワンピースにピンクでコルセット付きのプリンセスラインと言った感じ。普段着としてるピンクを基調にしたドレスと色合い自体に大差はないけど、少しだけ大人しめの見た目になっている。外出先がギルドなので、あまり派手な衣装を好ましくはないと思う。

 移動手段は領土内で使用としている馬車を使う事になるが、ゲントだけなら徒歩で向かうらしい。私の事を考えて、馬車での移動をしてくれたのだろう。体力にはそんなに自信がないので助かる。


 馬車での移動は十分弱で着く。

 私はゲントのエスコートで馬車を降り、ギルド正面の門に立っている。

「今日はほんの挨拶だけだ。そこまで気を張らなくても問題ない。ギルドマスター自体が弟がやっているからな」

 つまり、第二皇子がギルドマスターとして周辺を取り仕切っていると言う事になる。

(でも、王族が気性の荒い人達を宥(なだ)めたりして管理するって相当に大変なような)

 普通に考えるとギルド内の仕事を王族がやりたいとは思えない仕事だけど、ひょっとしたら変わり者かもしれない。

 ギルドの外見は木造建てで着色はされておらず、中央で堂々と内側に開く扉が主張している。

 早速、ギルドの中へと入った。

 広がる景色は雰囲気のある酒場と言う感じだけど、単に酒を飲んでいる人達もいるが、ギルドと言うだけあってカウンターでは仕事の依頼をしたり、カウンター右側の壁にある掲示板の張り紙を取って依頼を引き受けたりと、仕事の斡旋所と言ったところだ。

 ゲントは私を先導しながらカウンターへと歩く。そして、呼ぶまでもなく受付の女性が話しかけてくる。

「お待ちしておりました、ゲズントハイト様。すでにキュール様には伝えておりますので、少々お待ちください」

 彼女は事務的に一礼をして、少しの間待機する。

 十秒後、カウンター奥の扉から冒険服を着た若い男性がカウンターまで出てくる。

「兄上、父上から話は聞いてるよ。それで君が静菜と言う事だね」

 スカイブルーの流れるショートヘア。どこか可愛さのある彼がゲントの後ろに居た私を覗き込んできた。

「初めまして、第二皇子。私は現在、シーグル城内に住まわせて頂いている九塚静菜と申します」

 私は両手でスカートの裾を外側に持ち上げ、こちらの世界で違和感のない挨拶をする。マナーに関してもそうだが、大体の事は自室の本に載っているので、そちらを確認すれば無難にこなせると言う事になる。

 しかし、私は元々頭が良い訳ではない為、それなりに覚え込んで何とかしてるところもある。美結であれば一週間ほどを要し、ほとんどマスターすると言う流れになるのだけど、それはしょうがない気がする。

 ギルドマスターと言う事前情報を聞いている為、彼自身が何を考えてるのかは良く分からない。そして、なぜか少しだけ笑顔になり

「俺はキュール、ここのギルドマスターをやっている。それにしても、異世界から召喚してやっとまともな人が来るって、どれだけ相手が居ないのやら」

 簡単な自己紹介をするなり、過去に婚約者候補として挙がった女性と比べてから溜息をついた。

「まあ、とにかく。兄上はこんな感じだけど、見切りを付けてやらないでください。よろしくお願いします」

 本人の前で皮肉交じりの言葉で挨拶を終える。そして、彼は周囲を見渡し、ギルドメンバーを探しているみたいだ。王国で管理していると言うのもある為、一人だけでも顔合わせを済ませておきたいのだろう。

「今、顔合わせが出来そうなのは……」

 彼が対象となりそうな人を探している時、ある人が目に留まった。

 入口から入ってきた人は背丈は二メートルを悠々と超える大柄な女性で、肌は全体的に緑色、服装も狩猟に向いた獣の皮をなめした鎧を装備しているが問題はそこではなく、顔つきにあった。私が召喚される前まで一緒に暮らしていた叔母の顔に瓜二つなのである。

 どこか懐かしい様子で彼女の顔を見ていると、私の視線に気付いてこちらを見返してくる。第二皇子は彼女に気付き、名前を呼ぶ。

「ウセア、少しの間だけこちらに来てくれ」

 私は無意識に彼女に礼をし、また顔を見続ける。さすがに私の変化に気付いたゲントが私に聞いてくる。

「どうした、このオーク族の冒険者の事でも知っているのか?」

 初対面じゃないと判断された。しかし、他人の空似なので、一度首を横に振ってから訂正する。

「いえ、私の叔母にあまりに似ていたので、驚いただけです」

「ああ、静菜を保護した親代わりと言っていたな」

 ゲントの言葉に警戒していた叔母似の彼女は少しだけ顔が和らぎ、第二皇子も警戒を解いた。

「私が親代わりの人間にそっくりってのは、本当におかしな話だねぇ」

「ウセアを初めて見た人はほとんどが恐怖して身を竦ませるんだけど、なかなか面白いね」

 彼女は男性顔負けの強面の顔が少しだけ微笑みを見せ、第一皇子の評価では珍しい物を見る目で私を改めて見た。

 そしてなぜか、周囲の人達はウセアの表情を確認すると、私へと向けていた目線を外して、彼女に礼をしてから各々の会話へと戻る。

「どうやら、今ので静菜が浮いてしまう事はないみたいだね」

「そうだな。ギルドの顔となるウセアに気に入られると言うのは大きかったな」

 二人の皇子からの評価はかなり良い。でも、これでウセアに対して叔母と同じような接し方をすると言うのも違うので、最低限は気を付けたほうが良さそうだ。

 ここから一時間だけ、滞在する事になった。

 ゲントは弟であるキュールとカウンター奥の控室で色々と話し合う事になり、私はウセアと共に近くのテーブルの席に座り、彼女からこの世界について話を聞く事になった。途中から他のメンバーも数人同じテーブルに同席し、一般人や身分の低い人達の暮らしについて色々と聞く事ができた。

 この国は他国と違い、諸々の役割をギルドで担っているとの事だ。具体的には城門の衛兵や城壁から内側を周回し、見回りしたりと本来は城の所属で賄うはずだけど、王国所属のギルドと言う事で代わりに仕事を請け負うらしい。

(そう言えば、城には王族関係者とメイドしか居ない気がする)

 普通、王国と言えば大臣や兵士など、男性が担当したほうが効率的な職業と言える人が居るはずだけど、もしかするとゲントの身に起こった過去の関係で、このような特殊な管理体制になっているのかもしれない。少なくとも、王族以外の一般の男性を見るのは今日が初めてだったからと言うのもあるからだ。

 そして、他国との交流はほとんどないと言う事である。これは政略結婚などの事件絡みが原因で、中でもニーニに似た獣人化した飼い猫を殺された時からは〝他国=侵略者〟と言う認識で、基本的に国内外問わず、疑いのある時点で徹底的に調査をすると言う事になり、大体が他国の関係者から依頼されて滅ぼそうとしてる不届きな輩だと言う。

 現在でも、他国から依頼を受けて活動してる人は居るみたいだけれど、その人自体は悪意で動いている訳ではない為、様子見と言う事で相手の出方を窺っている状態らしい。次の機会で近くに居たら、その事実は伏せた状態で紹介してくれるらしい。

(意外に狡猾(こうかつ)な国かもしれない)

 ただ、私としては叔母に助けてもらった時の処理の仕方などを聞くと、似たような事をやっていた記憶がある為、一概に怖い国だとは言えない。でなければ、私は心が壊されるどころか命すらも無かった可能性が考えられるからだ。

 食料は領民の農家やギルドの依頼を引き受けるハンター達が確保し、衣服や装飾類は基本的に王国からギルドに依頼をして色々と確保していると言う事である。

 しかし、全て城の所有物にする訳ではなく、ギルドにもある程度分配して貧富の差が程々になるように調整しているらしい。カウンター奥で話をしている内の一つにこの事が含まれているだろうと言う事であった。

 後、他国にあるギルドとの違いは依頼を受けた人の許可を得て、監視系の魔法を使い、依頼をこなす様子を自分の目で確認しながら、不正がないかや方法などを確認している。手順などにおいては口出しする物ではなく、単に非人道的でないかや必要ならば王国からの支援をする為、参考にする事も考えていると言う事だった。

 他にも色々と聞きたい事もあったが、ここで二人の皇子がカウンターに出てきて今日の顔合わせは終了を意味する。

 私達は挨拶してからギルドを出て、馬車に乗ってから城へと戻る。

 ここからはまた日常の始まりで夕食を頂いてから大浴場で汗を洗い流し、自室で本を読んだりして王国での振舞い方を頭に入れる事の繰り返しとなる。

 今日は近くとは言え、初めての外出でもあり、外部の人との交流もあった為、疲れていたのだろう。私はすぐにベッドで眠り、一日が終わる事になった。

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