二章 徐々に築かれて行く関係
数日後、朝から昼食までの空き時間の間に自室に第一皇子が入ってきた。
「静菜、失礼する」
近くではユーリが待機しており、彼に一礼する。何の脈略もなく入ってきた為、意図が不明。しかし、彼は私に目線を合わせずに話をしてくる。
「実は父上や母上にもう少し仲良くしろと言われてな。今日はニーニも連れてきた」
背後から急に左側へ飛び出てきた。私は改めて、獣人化したニーニを観察する。
白を基調として、青で縁取りした上半身に密着するサイズのジャケットに下は青を基調とした細身の膝丈ほどの長さのパンツ、ブーツは黒一色と言う。
(何だか、ショタ王子と言う単語が頭を過ってしまうんだけど)
こう言った男の子が好きな女性にとってはかなりの好物と言った感じで舐め回すような目線を感じる事がある。しかし、それよりもある事が気になり、素早く疑いのある人に首から上だけを向ける。
瞬間、扉の近くで待機していたキュルマが素早く顔を横に向けて誤魔化した。その様子を見た彼は溜息をついて
「なるほど、だから静菜と仲良くしておけと言う事だったのか。これだけでも静菜のところに連れてきた価値はあったな」
ニーニに対するキュルマの舐め回すような視線に気付いてなかったらしい。国王と妃は私からさりげなく知らせるようにしたかったのだろう。
「見るだけであれば、何も問題ないはずです」
何も言ってないのに無言の自供のようだ。私も思わず溜息をついた。そんな私に彼はある提案をする。
「毎日は無理だろうが、時々こうやってニーニもここに連れてくる。それと、私の事はゲントと呼んでくれ。父上と母上も私的な場ではそう呼んでいる。静菜も色々と不便だろうから、これで行ってくれ」
私としてはいつまでも第一皇子だったり、ゲズント様だったりと他人行儀な呼び方しかできなかったので、この提案は正直ありがたい。
「ありがとうございます。それではこれから改めてよろしくおねがいします。ゲント」
何だかぎこちないが、初めはこんな風に取って付けたような感じで仕方ないと思う。
「私の呼び方も、少しずつ慣れてくれればそれで良い。時間は多くあるのだから焦る必要はない」
何だか初めて彼の優しい一面を見た気がする。初対面のあの顔を思い出すと余計に考えてしまう。
「そうですね、改めてよろしくお願いします。いざと言う時は頼りにしています」
私も笑顔で彼に答える。そして今の言葉は偽りのない物で本当に何が起こるのか分からず、本当に助けが必要な為だ。
「今日はキュルマの不審な動きを調べる為だから用事は以上だ。そろそろ仕事に取り掛かねばならぬからな、そろそろ失礼する」
彼は私に別れの挨拶をして扉へと移動する。
「じゃあね静菜、また遊びに来るよ」
獣人化したニーニも挨拶して彼の後ろを歩き、二人とも部屋を出て行った。
(あれ? キュルマは?)
先ほどまで疑いの目を向けられていた張本人はいつの間にか姿を消していた。一連の様子を見ていたユーリは溜息をついて
「以前を思い出しますね、まったく……」
彼女の反応を見る限り、以前にも似たような事があったらしい。
「えっと、大丈夫なんですか? そんな人を近くに置いていて」
何だかニーニの事が別の意味で心配になってきた。しかし、彼女は呆れた顔をして答える。
「考えてもみてください。透視能力で視覚外から常に見えると言う事は安全圏で見放題と言う事になるんです。近くに置いていれば少なくとも、ゲズント様の監視下に置く事ができ、最適解と言う事になるんです」
敵として扱うよりはマシであり、彼女自身もメイドとして優秀なので近くに居させた方が良い。さらに私から見た場合、ゲント自身には身の危険が無い事でもある為、現状維持が色々と都合が良いだろう。とは言っても普通に考えれば
(目の前に餌をぶら下げている獣を傍に置いている状態だからなぁ)
この世界に来て最初にこんな思いをするのが、女性から男性の対象で起こるとは思ってもみなかった。キュルマの節操のない姿を想像し、私達は再度、溜息をついた。
ここからは普段の生活に戻り、昼食と夕食を頂いて空き時間を自室にある本を読み、この世界の知識を入れて行くと言う作業の繰り返しとなった。
(まあ、積極的に体を動かしたいとは思わないし、丁度良かったりするけれど)
これが美結だったら、我慢出来ないだろうなと思う。彼女の場合、文武両道で体を動かしながら知識を入れ込むタイプだからこの役は私で良かったと改めて思う。




