一章 4
翌日、朝目覚めると既に二人のメイドが私の近くに待機していた。
「おはようございます、静菜様」
「おはようございます」
最初に挨拶したのは昨日、私と一緒に大浴場で入浴したユーリ。もう一人は別の人らしいけど、機会があれば紹介するらしい。
「おはようございます、静菜様。昨晩は良く眠れましたか?」
後から挨拶してきたのがユーリが言っていたメイド長と言う事らしい。どこまでも透き通るような青の髪に顔立ちもクールさを感じつつ端正な顔立ち、全体的なシルエットもすっとしていて、一見した者はたちまち彼女の虜になるだろう。私が女性を恋愛対象に見る事は一切ないんだけど。
「おかげ様で良く眠れました。もしかして、一晩中周囲を監視していたんですか?」
私が寝ている間、完全な静寂と言う訳ではなかった。何回か、明らかに人間とは異なる悍ましい声が確認できたのだが、それも数秒の内に静寂へと戻った。
「さすがに王家の方々とは違いますので、私達が時間帯で交代しながら監視させて頂きました。他国のメイドも一通り見て来ましたが、我がシーグル国については配下の者達に気配りの出来る国家だと自負しております」
(うん? と言う事は、同席していた彼らは一晩中眠りもせずに監視していたと言う事?)
配下、つまりはメイド達には無理が起きないようにしっかりと時間を設定し、管理されてるようだけど、王家は過労気味で色々とこなしていると言う事になる。私は彼らの事を少し心配すると、すかさず彼女は
「いえ、国王ならびに妃であられるハイルフェルネ様が魔法を行使し、不審者などを感知して私達はそれに従っているだけでございます」
だったら安心。と言いたいところだが、つまりは寝ながらも魔法を使っている事になり、疲労はどれほどか考えるだけでも憂鬱になるほどである。
「そう言えば、ユーリが私の事を話したようですから改めて紹介します。私はキュルマと申しまして、メイド達を束ねる長をやっております。メイド長と言っても、私の場合は国外への外出を認められてなく、実際は彼女達よりも権利は下、と言う事になりますが、何かありましたら私や副であるユーリに聞くと良いでしょう」
昨日、大浴場で言っていたユーリの事前情報通り、国外逃亡の類は一切認められていないと言うのはおそらく本当の事だろう。しかし、メイド長に配置するくらいなので諸々の能力自体は優れていて、敵対国の出身だから心身に無茶をさせる事もやっていないと言う事を考えると、雑にも扱われていないと言う証拠にもなる。
私は召喚された国、シーグルを考えて随分優しい国だなと思った。
(あ、でもテーブルマナーの類とか全然分からないな)
しかし、私は元々ただの一般人。叔母が総理大臣と親友であったとしても私には一切関係がなく、社交の場に出る事もなかった為、上流階級の事なんて分かるはずがない。この一点を考えると今後、色々と悩みが出るだろう。
「一般の方、と言う事でしたら、私が各場面に応じて指導いたしますので特に気に留めるような事はございません」
今、明らかに悟らせないようにしたはずだけど、読唇術か何かで私の思った事を読み取ったようにしか見えない彼女が何食わぬ顔で説明した。
「とは言いましても、普段はゲズントハイト様のお世話をしばらくさせて頂く事になりましたので、それ以外の時はここに居るユーリが身の回りをさせて頂く事になります」
そう言って、彼女はユーリの居る方に目線を遣った。目線の先の彼女は無言で私に礼をして、改めてよろしくと言う事であろう。
「本日、この私がこちらに来たのは衣服の採寸をする為でございます。私には手軽な魔法でそのような事が可能ですから」
私が今、着ている物は昨晩と同じ白のネグリジェになり、これでは当然、外出はおろか部屋を出る事もできないだろう。それではあまりにも不便な為、こうやってメイド長が足を運んだと言う事であった。
数分後、私が覚醒したのを確認した彼女達は早速、私のネグリジェを脱がせると「靴も脱いでください」とキュルマに言われ、靴まで脱いでから待機する。
次に彼女は魔法を使い、私を首から足先までを数センチ間隔で横方向へワイヤーを巻いたように締め付け、私の体の寸法を測っているようだ。
「これは元々、不審者などを捕縛する為の魔法でして、採寸の為に使うのは本来とは別用途になります」
下着まで脱がないでいいと言うのは、この締め付けである程度は感触で分かると言う事なのだろう。別に痛くはない為、相当な力加減をして魔法で応用しているようだ。
そして、上から下まで確認した後「なるほど……」と彼女が呟き、締め付けていた魔法のワイヤーを全て解き、採寸が終了した。
「お召し物につきましては数日は掛かりますので、それまではお妃様の成人前に着用していた物で代用させて頂く事になります」
今の言葉にどことなく、私が小さいと言わんばかりの雰囲気を読み取ってしまったが、気にしない事にする。
「しかし、あなたも好かれた物ですね。通常であれば、お妃様からしばらくの代用としてお召し物を借りるなんて出来ないのに……国の為政者に好かれる事は関して、邪な物でなければ良い点ですよ、本当に」
キュルマはどことなく遠い目をしていると、近くで聞いていたユーリは悪気がない様子で
「まあ、でも小さい方に大きな方が衣装を貸したり与えたりするのは効率的ですよね」
私自身、小さめの体と言うのを自覚しているので少し落ち込んでしまう。
私の様子を見たキュルマは溜息をついて
「ユーリ、あなたはもう少し、人への気遣いを上手くやるべきです」
貧乏視点な彼女に少しだけ語気を強めて諭すのであった。




