一章 3
早速、ユーリの案内で水浴び場へと入った。
中に入ると、私の見覚えがある光景が広がっている。
(あれ? 大浴場がある。風呂はなかった事と言ってたような……)
ユーリは疑問に思っている私に追加で説明する。
「百年前の召喚後、半年で風呂と言う物を彼女達に聞きながら、魔法などを駆使して作り上げたと言う記述も残っていますので心配しないでください。それと水浴びの説明で不安を抱かせてしまい、申し訳ございませんでした」
彼女は自身の説明不足を私に謝った。
話を戻すと、日本にあるスパリゾートと同じくらいの大きさで大浴場と言う感じだ。建築した当初は露天式だったみたいだけれど、さすがに冬のような寒さには肌に良くないと言う理由でさらに半年後、天井を魔法で生成したらしい。これは彼女達が寒そうにしていて可愛そうだからと、当時の妃が案じて改良したとの事である。
(まあ、単純に外から覗かれたくない)
寒いから天井を作ったみたいだけど、私にしてみればプライベートな空間を見られたくないと言うのが普通だ。
(あれ? 私がおかしいの? いや、そんなことはないはず)
私はユーリから初歩魔法の水生成から〝お湯浴び〟をして、体のべとつきを取り除いてから、広い浴場の中へと体を肩まで沈める。そして、ユーリはと言うと
「見よ、この洗練された体つきを!」
先ほどまでメイドらしく穏やかな感じの口調が突然、子供っぽい口調でどや顔をしていた。彼女が面倒なタイプでなければいいんだけど。
「そして、静菜様は……ごめんなさい。そう言えば、両親から虐待されていたと言う話でしたね」
全身の肌が露わになっている私の各部位に対する傷痕を見て、申し訳なさそうな様子で大人しくなった。
数分間、無言の状態が続いた後、彼女は私に提案をしてくる。
「傷痕を失くしたいのであれば、ゲズント様の美容魔法で理想の体になれば何も問題ありません」
美容魔法とは女性にとってはとても嬉しい内容だ。私も傷痕が消えるなら使って欲しいんだけど。ふとここで疑問が湧き、彼女に質問する。
「美容魔法を掛けたと言う事は、ユーリさんに接触したと言う事ですよね? でも、彼は女性嫌いなのでは?」
私の疑問に彼女はすぐに返答する。
「女性嫌いと言っても生理的にと言う訳ではなく、国や金としか見ない浅ましい権力に身を包んだ人達に限られています。私の場合は元々、自由に行き来できるような身分でなかったので、まず候補に挙がりませんが、今ではそれで良かったと思っています」
彼女の言葉の中に候補じゃなくて良かったと言うのが気になり、深堀りする。
「候補に挙がらなくて良かった……普通は次期妃候補になれるのは最大の誉れなのでは?」
権力がない人であれば、尚更権力のある座に就く事は余計に必要だと思い、聞いてみる。すると、彼女は私から目線を少しの間だけ逸らしてから答える。
「金や権力欲しさに言い寄って来る女性は多かったですが、顛末を聞くといずれも良い物ではありませんでした。そして、現在メイド長をやっている方も本来なら国ごと取り潰され、路頭に迷う事すら許されなかったみたいですが、偶然にも近くの猫を防壁魔法を使って助けたのをゲズント様が確認し、自国のメイドとして務める事で罰代わりとしたようです」
(ここはお猫様な国なんだろうか?)
江戸時代にお犬様と言われた某将軍の事を思い出した。いや、それは別にいいんだけど、猫が情状酌量の材料になっているのはどうかと思う。
たった今挙がったメイド長の事で何か考えがあるのか、彼女はある提案をする。
「そう言えば、静菜様は十歳若返ってるんですよね? でしたら、メイド長とは年齢はほとんど同じですから、話が合うかもしれません。すぐに連絡と言う訳には行きませんから、機会を伺ってと言う事になりますので少なくても数日後の話ですね」
彼女はどうやら、私をメイド長の友人として接して欲しいみたいだ。私としてはまだ見ぬ土地への不安があるから最低限のお付き合いで済ませたい。
しかし、それ以上に気になったのは第一皇子の彼から、実際はプラス十歳の私の事をどう思っているのか。彼自身はどう考えても二十歳前後の歳だろう。私の年齢を考えると年増と認定されても不思議ではない。
彼女は私の考えを読み取ったのか、笑顔で私に答える。
「大丈夫ですよ、ゲズント様に限っては。むしろ年齢の若さだけで言い寄ってきて、ロクでもない目にばかり合っていますので、静菜様に対して悪印象は持たれていないと思います」
そこから数分の間、再び無言の時間が訪れ、黙って湯に浸かっている状態となる。
「服装についてですが、予め用意していた衣装は寸法が合いそうにありませんでした。翌日中に静菜様の寸法を正確に測ってから、再度ご用意いたします」
もう少し背丈の大きな人を召喚する予定だったらしい。とは言っても、私にそれをどうにかする術は全くない為、どうにもならない。
(でも、それなら今計測してもいいと思うんだけど、傷痕も見られてしまってるし)
両親からの虐待の証を見られたなら怖いものは何もないので、一刻も早く測って欲しいまである。しかし、彼女は私の心中を察した上で予定を話す。
「体の計測なのですが、メイド長も同席した状態で実施します。私だけだとどうしても信用まではと言う事です。メイド長は元王族なだけあって、身に着ける物に関しては色々とうるさかったりするので、ご容赦ください」
メイド長が元王族と言うのを考えるだけで、何だか面倒な事になりそうな気がする。そんな人と私が友人のように接してと言うのはそもそも無理な気しかしないので、心配事が今の言葉で一つ増えたように思える。
「採寸につきましては、明日に起床して頂いてから改めて説明する事になりますので、それまでは意識して頂かなくて問題ございません」
どうやら、また考えてる事が顔を出てしまっていたようだ。少しは気を付けないと。
大浴場の湯に浸かってから三十分後、私達は風呂場を後にして、先ほどの自室まで戻ってきた。
今、着用している物は上下一体型の一般的な白のネグリジェ。体への締め付けはなく、就寝前に着る物としては非常に着心地が良い。
(そう言えば、家では水色の上下のパジャマ着てたけど、締め付けはそれなりにあったかな)
叔母の家に来てからは上下分離型の男性でも着られるズボンと上着の普通のパジャマを着て寝ていた。
これは叔母の気遣いによるもの。実家では両親が強引にピンクのネグリジェを脅迫させて着させられ、定期的な性的な嫌がらせを受けていた。正直ネグリジェを着る事自体、嫌な実家の思い出が過るので、極力着たくないのだけど。
でも、ここに居る周囲の人達は基本的にメイドだったり、女性嫌いの第一皇子が居たりと、あの時期のトラウマが蘇る環境はないと思う。もし、どうしても過去のトラウマが過るようなら妃に相談し、どうにかしてもらう予定だけれど。
何はともあれ今日は初日。辺りも完全に暗くなっているので、今日はベッドで寝る事にしよう。




