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召喚前とは違う後ろ姿の静菜

 転移が終わると、私は例のように城壁の付近へ来ていた。

 早速、衛兵二人に声をかける。

「すみません、入国したいのですが」

「ああ、朝に強権女王から連絡が来た方ですね。おい、さっき渡されたあれ、使ってみろよ」

 すると、もう一人の衛兵が右手に何かを持って、私の左手に光を当ててきた。手に持っていたのは携帯用のスキャナーと言ったところ、おそらく彼女が国を通じて渡したのだろう。

 そして、私の左手には先ほどまで滞在していた入国の際に登録されたウサギに外側が二重丸の紋章が映し出されている。

「女王の言ってた通り、〝ハーゼの紋章〟だな」

「これと同じ紋章は静菜様しか与えてないって言ってたからな。お待たせいたしました。確認終わりましたので、通って頂いて結構です」

 私は特に問題もなく、衛兵の間から通って城に行こうとしたが、目の前に城が見えなかった。慌てて先ほどの衛兵に城の場所を聞く。

「ああ、普通の国は真っすぐ歩けば着きますが、シーグル城は領土の中心にはないんですよ。ここを南に見立てると北東に位置します。理由は歴代国王が右目の視力が異常に優れていた方が多かった為です。後は道中で町の人達に聞いてください」

 衛兵は私に再び礼をする。私は今度こそ、城下町に足を進めた。


 ここの城下町は中世の色が良く出ていて、彼女の国とは明らかに違う色味が出ている。かと思えば、先ほどと同じようにいや、キルカスパートスはあれでも領土の中心に城があったらしく、ここは北東と言う事であれば、ここもまた、一般の国とは違うと言う事を意味している。

 道自体は舗装されていなく、大きな道が真っすぐ続いている。左右には建物や畑など色々とあるようだ。


 北東の位置と言う事で、しばらくはこの道を歩き続けていればその内、右側に見えるはずだと思う。

 景色を見ながら五十分ほど歩いた時点で漸く、建造物群が途切れ、前方には森林が広がるようになった。後ろはまだ、町の景色が近くに見えているけれど。

(さて、そろそろ城らしき物が見えても良い気がするんだけど)

 右側に見えるはずの違和感がまだないと思っていると

「シーグル城はそっちからだと魔法使ってからしか見えないぞ」

「その道を行く時点で客って言うのは分かるけどな」

 背後から冒険者らしき二人が近付いてきた。

「客用の道と言うのは何でしょうか?」

 どうして外からの客だと断定できるのか気になったので聞いてみる。

「城の関係者だったら、あのギルドの右の道を真っすぐ行ってから、左に曲がって突っ切る道を選ぶからな」

 一人が指差した方には、少しばかり大きな木造の建物が見える。

「あの建物がギルドなんだけど、普通はあそこに行ってから道案内してもらうんだよ」

 初めて行く場所には大体、適当に歩いてしまうので、私の起こしがちなミスである。

「高度な魔法を使える奴なら、透視魔法などで確認するんだけどな」

 どうやら、必要な手順を取ってなかったらしい。おそらく、透視魔法が正解ではない為、投影魔法で映し出す事にした。城の影だけ見えた事に二人は

「投影魔法か……そうだな、これならわざわざ透視しなくていいから楽だな」

「透視魔法だと目の前まで歩かないといけないから大量の魔力を消費するんだよなぁ」

 どうやら正解だったらしい。なので、私は次の行動を取る為、二人に聞く。

「ここから転移魔法で行っても何も起きないでしょうか?」

「まあ、正確な位置、座標さえ合っていれば問題ないかもな」

「ただし、城の前に移動するようにな。中に入ったら侵入と見なされるぞ?」

 親切にも注意してくれた冒険者。私も答えを返して、転移魔法の準備をする。

「問題ありません。ブンターヒンメルとキルカスパートスでも城壁の前に移動できましたから」

 私の言葉に何かを冒険者の一人が勘付く。

「え、ひょっとして〝異世界の女史〟様か? じゃあ、今使ってるのは空間なしの転移魔法……」

 するともう一人も驚いて、シーグル城に関する注意事項を説明する。

「だったら、気を付けてください。城内の獣人猫が暴れるかもしれませんので」

「ありがとう、そこは気を付けて行動するよ」

 私は二人に手を振ってから転移魔法を発動し、城へと転移した。


 城の前にやってきた。

 早速、城の入口に居る兵士二人に話しかける。

「ニーニが暴れるかもって聞いたんだけど、どう言う事かな?」

 二人は今の質問で誰か分かったらしく

「今朝に連絡のあった千城美結様ですね。お待ちしておりました」

「城に入って頂ければ分かります。国王に会えば理由がお分かりになるでしょう」

 兵士として私を城の入口まで案内する。城に入ると、二人はまた入口に待機した。


(さて、どうなるのやら)

 話を聞いた限り、ニーニを未知の敵として認識しておく事にして、案内人は居ないようだ。なら、一本しかないこの真っすぐな道を行くしかないので、先を進める事にした。


 少し歩くと、広い場所に出た。おそらく、正面に見えている大きな扉の向こうが玉座の間と思うのだが

(誰も来ないみたいだけど、どうしようか)

 私が次の行動を考えようとしていた時

「美結様! 襲撃があると思うので気を付けてください」

 どこからか女性の声が聞こえる。私は五感を最大限に研ぎ澄まし、何者かの攻撃に備える。

 十秒が過ぎ……次の瞬間。右前から突如出てきた何かが襲いかかってくる。私はすぐに〝永眠魔法〟で襲撃者を眠らせる。

 永眠魔法と言っても、即死ではない。仕組みは全く違うがコールドスリープとやった事は同じである。

 私を襲ってきた者はその場に仰向けで息一つせずに眠った。顔を見ると

「猫の獣人、何だか女性にしか見えないけど、ニーニだよね。どう考えてたって」

 城に入るまでに何人にも注意されていた為、準備は万端だった。

 遅れる事一分で、メイドらしき女性が左側からやってくる。

「お怪我はありませんでしたか?」

「準備は出来てたからね。それよりも、この子? いや、この人ってニーニだよね」

「はい、二年前から静菜様にも襲いかかるようになりました」

 彼女はどうやら、名前が皆目一番に出た事を考えると、静菜と近い関係があると思われる。

「これは、国王君に良く話を聞かないといけないね。悪いんだけど、玉座の間に入れてくれないかな? 前国王と前妃にも許可を取らないといけないから」

「かしこまりました。すぐ、前国王夫妻に確認を取りますのでお待ちください」

 小走りに正面の扉を開いて入って行き、三分ほどして戻ってきた。

「許可は頂きましたので、玉座の間まで同行します」

「ありがとう。ニーニは……私が運んで行くよ」

 メイドの体つきを見ると持てそうな気がしなかった為、私が雑にニーニをお姫様抱っこしながら、玉座の間へと歩いた。

 彼女が再び扉を開き、私は玉座の間に入って、ある程度足を進めてから、私の足元の前方にニーニを下ろした。そして、玉座には居ない前国王と前妃を確認してから

「これは、何?」

 敢えて失礼な物言いで聞く。二人は顔を伏せながらもまずは前妃が説明し始める。

「三番目に生まれた子、マイネが誕生してから三年は何もなかったのですが、急に何かから支配されたように城の者へ襲い掛かるようになりました。そして、特に静菜を狙っていましたから、それ以降は地下牢のハーゼ・ベーゼに守って頂く事になりました」

 彼女が説明を終えると、今度は前国王が話し始める。

「今朝、キルカスパートスの女王陛下から連絡が来て、私の国で静菜を預かりたいと申し出があってな。貴女が訪れる前に了承したので、何を言わんとしているのかは既に分かっておる」

 二人の表情はまた暗くなった。私は肝心の元(・)第一皇子が居ない事が気になったので聞く事にした。

「そう言えば今、現国王はどこに居るのでしょうか?」

「ああ、それなら自室に軟禁しておる。幸い、人的被害は出なかったものの、同室者の暴走を止められなかったのでな。地下牢に入れる事も考えたが、ハーゼ・ベーゼが『誤って処分するかもしれない。君の子なんだから、親である君達が責任を持って管理するように』と言われ、今に至ると言う事だ」

 国王の今の説明で推測できた事があり、私は左手を確認して思い出す。それはハーゼの紋章、魔神の存在、ハーゼ・ベーゼとなるとやはり、地下牢で静菜を守っているのは魔神と言う事になる。

「本当に静菜はどんな星の下で生きているのだろう」

 思わず、口に出てしまった。二人は少しだけ驚いた様子を見せたが、すぐに元に戻る。私は眠らせたままのニーニを確認する。すると、この子の体の中に赤い球状の何かが見える。私はすぐに胸部に左手で触れ、体内から赤い何かを魔法で取り出し、手に掴んだ。

「これは……何だか嫌な気持ちになるね」

 なぜか静菜の両親を思い出すと、急に近くから声が聞こえる。

「神をも超える存在とは本当に嫌な物っすね」

 右前から転移空間が出て、そこから声が聞こえているようだ。私はとりあえず誰か聞く事にする。

「えっと、あなたは誰?」

「我は魔神、ハーゼ・ベーゼっすよ」

 一人称が偉そうだと思えば、語尾が何だかショボい。私が困惑していると声のみの相手は話を続ける。

「今持っている赤いのは魅了の種っす。どうも、我が処分済みの静菜の両親と関係する物っすね。しかも、この世界には後二十六個存在するから今は捜索中と言ったところだよ」

(あ、語尾が抜けた)

 真面目な話になると語尾が抜けるタイプだと分かったので、私は二十六個をすぐに魔法で探し当て、全てを左手に掴んだ。

「今、全部手に取ったけど、どうすればいいの?」

 音声だけの魔神に話しかけると、思い切り溜息をつかれる。

「何なんっすか? 本当に……我が散々、苦労した事を瞬時にやってのけるなんて……まあいいっす。とりあえず、それを全て破壊できるっすか?」

 私は魔力を込めるだけ込め、赤い二十七個の球を砂に変え、液体に変え、そして無に帰した。

「それ、一つ破壊するだけで魔王一人を倒せる強さっすよ。本当に〝異世界の女史〟の君には嫌になってくるっす」

 音声からは呆れと賞賛の声が同時に聞こえた。

「まあ、これで問題はほとんど解決っす。後はこれを時限式で仕込んだ神らしき愚か者を処すだけになったから、今から行って来るっすよ」

 そう言って、会話のやり取りをしていた転異空間が消え、十秒後に再び復活して

「今片づけてきたから、もうその猫も大丈夫っすよ。でも、静菜は一年くらいキルカスパートスに里帰りさせたほうがいいっすね。まあ、話は地下牢で詳しくするから、今からこっちに来るといいっすよ」

 今度こそ、私の右前から完全に転異空間が消滅した。

「十秒で何やったんだろ、本当に」

 私としては訳が分からない。とにかく、私は地下牢に行こうと思うと

「地下牢の入口は玉座の近くに隠し階段があるからそこから入ってくれ」

 前国王が私から見て玉座の右側に目を遣ると突如、床の一部が奥にずれ、隠し階段が姿を現す。

「では、地下牢に行って静菜に会ってきます」

 私は階段を降りて地下牢に入る。

 構造自体は単純で、一本道と左右に牢屋が並んでいるだけである。私はしばらく足を進めると、途中で左への分岐が出てくる。おそらく、左がそうだろうと判断したので左に曲がり、また足を進める。しばらく歩くと、突き当たりに何かしらの扉と、左側には過去の記憶が蘇る風景が広がっていた。


 そこは静菜が召喚直前まで暮らしていた自室その物で、椅子に座っている彼女は、すっかり床につくまで髪の伸びきった静菜だと容易に想像が付いた。私は彼女を呼ぶ。

「静菜、対面で会うのはこれが最後になると思うから、顔を見せて欲しいな」

 これは脅しでも何でもなく、対面では最後になるので本心の言葉だ。


 座っている彼女は椅子の回転盤を反対側に回して、私に顔を見せる。

 その顔は召喚直前と同じ顔だったが、顔色は良く、地球に居たまでの悲壮感は皆無であった。そして……

「美結、本当に久しぶり。ずっと会いたかった」

 静菜は本当の意味で笑顔だった。それと、膝に乗っているのは黒いウサギ。

「感動の再開、おめでとうっす」

 おそらく、先ほど転異空間越しに話をしていた魔神、ハーゼ・ベーゼだとすぐに分かった。


 そこからは初めて会った時から異世界に召喚されるまで、異世界に召喚されてから悪魔のような両親を処分するまで、現国王と結婚してから今までに起きた事など、魔神である黒いウサギを膝に乗せたまま、思い出話に花が咲いた。


 あれから、何時間経っただろう。

 地下であるはずの窓に映っていた景色は夕焼けとなっていて、本当に時間を忘れていたのだろう。話の終わりは黒いウサギである魔神となり

「二人の話を聞いて、今まで裏で動いていた事が無駄じゃなくて良かったっす。そろそろ、あの強権女王が不満を口にしそうだから、帰る時はマイネに会うっすよ」

 マイネとは、前妃の言葉から出ていた静菜の子で、さすがに会わずのまま、城を出る訳にはいかない。

「そうだね、地下牢を出たら静菜の子供に挨拶するよ」

「それがいいっす。あの子も多分、喜ぶと思うっすよ」

 ハーゼは静菜の膝から降り、床に足をつく。

「ハーゼ、寂しいかもしれないけど、戻るまで我慢してね」

 静菜がこの子を心配すると

「静菜こそ、寂しくなって呼ばないようにする……いや、あの女王がそんな余裕を与える訳がないっすね」

(魔神に対する女王の評価はどうなってるのだろうか)

 何だか、この黒いウサギに評価される事自体、人外認定されていると言う気がして、気が遠くなる思いだ。

「じゃあね、ハーゼ。戻ったらまた、抱かせてね」

「それまではあの国で達者に暮らすっすよ」

「本当に仲が良いんだね、静菜達は」

 私は人とウサギの距離の近さに若干、引け目を感じたのであった。


 私達は別れを惜しみ、地下牢から玉座の間へと戻る。

 玉座の間に着くと、今度は小さな女の子が挨拶をしてきた。

「初めまして、貴女が母上の従姉の千城美結様ですね。私はマイネと申します。キルカスパートスまでの無事の移送、お祈りしております」

 挨拶した彼女を見て、思わず言葉に詰まり、隣の静菜に聞いてしまう。

「ね、何でこの子。私にそっくりなの?」

 着ている物自体は金色のロングドレスと、私の着るような物ではないので別人と分かるが、顔が幼少期の私と同じであり、驚くのは仕方ないと思う。

「この子が私の長女、マイネ。私に似なくとても頭が良いから、次の女王としては適任だと思う」

「そうね、現国王ではもう任せられないから、比較的早い時期に次期国王になってもらう予定よ」

 静菜の後に念押ししたのが、前妃である。すぐには交代劇は起きないだろうが、問題の大きさを考えてもある程度大きくなったら、この子に女王となってもらうのだろう。

(私も今の状況を整理したら、そうするかな)

 静菜の義理の両親による正当な考え方に少しばかり私は安心した。あの悪魔のような両親では、こんなまともな事を考える訳がないから。


 私と静菜は前国王夫妻とマイネに別れの挨拶をして、キルカスパートスの玉座の間に転移魔法で移動した。

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